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第1部 本

ビジネス・問題解決&トラブル対応

知っておくべき家電製品事故50選(中尾政之)

『知っておくべき家電製品事故50選―事故を知るとリスクが見えてくる』2010/11/1
中尾 政之 (著), 宮村 利男 (著)


(感想)
 実際に発生した50の家電製品事故・不具合事例を通して、事故を起こさない製品づくりとは何かを解説してくれる本です。
 燃える・割れる・誤作動する……身の回りの家電製品について、実際に発生した50の事故・不具合事例を通して、ユーザがどんな使い方をして事故に至ったか、製品の危険がどんなところにあり、どんなところに目を付けたらよいかを教えてくれます。事故には共通の背景があり、必ずしも想定外で起こるのではないのだとか。
 民生品のリコールではどのような事故が起きているのかを分析した結果、原因は、「経年劣化」が45%、「設計ミス(副次的な要求機能への干渉)」が40%だったそうです。
 そして「第4章 実際のリコール事例を紹介する」では、原因別に次の7種類の事例が紹介されています。
1)過大な応力がかかると、何かが劣化する(5事例)
2)モノは使っていれば、そのうち化学変化する(5事例)
3)水分がどこかしらを短絡させる(6事例)
4)冷却しないとエライことになる(4事例)
5)ちょっとした形の違いが失敗を招く(4事例)
6)知らぬもの同士が思わぬところでつながった(6事例)
7)細かいところに気を回さないと、人は間違える(5事例)
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 この中で特に「まじか……」と愕然とさせられたのが、「4)冷却しないとエライことになる」の冷凍冷蔵庫(部品焼損)の例。冷凍冷蔵庫が壁面すれすれに設置されたために、機械の冷却能力が十分に発揮されなくなり、その結果、設置した場所の床面の温度も上昇してしまうのですが、この床面に塩ビ系クッションが敷かれていたために、塩素の腐食性ガスが蒸散して、コンプレッサ起動リレーのPTCの素子端面で銀配線に塩化銀の結晶成長が発生し、凸になった結晶の先からアークが飛んで、電極割れが生じて発火したのだとか……。うわー……周辺環境から「蒸散するガス」のことまで考えて設計する必要があるのか……とショックを受けましたが、よく考えてみると、冷凍冷蔵庫が設置される場所は水を使う場所なので、塩ビ系クッションが敷かれるのは「普通のこと」でもあります。しかも、厨房には置きたい道具や材料がすごく多いので、狭い場所に押し込まれることも多そう……この製品の場合は、対策として「PTC素子の電極寸法の変更」をしたようですが、冷凍冷蔵庫の周囲に必要な最低限の空きスペースを確保させるため、製品の壁に丸い突起をつけるなどの工夫も必要なのかもしれません(もちろんタオルや道具掛けなどには使えないような形で)。
 この本は、実際に起きた家電製品の事故の事例を通して、事故を起こさない製品づくりのヒントをたくさん教えてくれます。
 家電製品に関しては、「今後も、ユーザーである日本国民の要求に押されて、メーカーはますます安全で、かつ高信頼性・低コストの商品開発に力を注ぐだろう」と予想されています。そして主な二つの事故原因への対処としては、次のことが考えられるのだとか。
「経年劣化はその安定期を脱するような失敗である。それならば、装置の安定期から不安定期に移行する状態を把握し、いよいよ現役引退に近づいていることを警告するような「スマート・センサー」があればよい。」
「設計ミス(副次的な要求機能への干渉)」を防ぐためには、「徹底的な干渉検査」で潰していくしかない。」
 日本の家電製品は、高品質なのに低価格、しかも安全というイメージがあるので、新しい家電を買うときには、できるだけ日本製品を選びたいと思ってしまいますが、実は、ユーザーからの安全要求が厳しいので、日本の大企業は「作らない」選択をすることも多くなっているのだとか。その一方で、輸入品には厳しい安全基準が適用されないので、安い輸入品がどんどん入ってきて、日本での事故件数は減らないそうです。
 日本のメーカーには、これからも「高品質なのに低価格、しかも安全」な製品を作り続けて欲しいと願っています。だから、事故で高額な補償を請求されることを恐れて製造から撤退してしまうことがないよう、「普通ではない使用法(誤使用)」や「普通ではないほど長期間の使用」をしたために起こった事故まで責任を追及するほど過大な「安全要求」を迫らないように心がけたいと思いました。
 事故を起こさないような製品を作るためにどうするべきか、多数の事例を通して考えることが出来る本です。製造にかかわる仕事をしている方は、ぜひ一度読んでみてください。
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 中尾さんの他の本、『なぜかミスをしない人の思考法』、『「つい、うっかり」から「まさか」の失敗学へ』、『続・失敗百選』、『続々・失敗百選』、『失敗の研究』に関する記事もごらんください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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