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第1部 本

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続々・失敗百選 「違和感」を拾えば重大事故は防げる-原発事故と“まさか"の失敗学(中尾政之)

『続々・失敗百選 「違和感」を拾えば重大事故は防げる-原発事故と“まさか"の失敗学』2016/2/27
中尾 政之 (著)


(感想)
 福島原発事故を工学的な視点で分析することで、事故の背景に何があったのかを明らかにするとともに、「まさか」の失敗に対する感度を磨くことで、「発生確率がきわめて低いが被害が甚大な事故」を未然に防ぐ方法について考察した本です。
 この本の前に、中尾さんは「失敗百選」、「続・失敗百選」を出されていますが、その頃は、「つい、うっかり」を防ぐことに力点が置かれていました。ところが、2011年の東日本大震災から、日本社会の注目する失敗が変わったそうです。「防御可能な軽い失敗」よりも、事故後に「まさか」と溜息が出るような、不意をつかれた失敗や希少な失敗へ関心が集まるようになりました。安全度のレベルがいくら高くなっても、「まさか」の失敗の発生確率はゼロにはなりません。そこでこの『続々・失敗百選』では、東日本大震災の原発事故を中心に、「まさか」の重大事故はどのようにしたら防げるのかについて考察しています。
 その方法とは、ずばり「違和感を拾え、考えを展開せよ」。
 ……かなり抽象的な感じですよね。……正直に言ってこの本は、読みやすいとは言えませんでした(汗)。というのも福島の原発事故を中心に、さまざまな失敗事例を考察付で紹介してくれるだけで、具体的な「失敗退治のノウハウ」が一覧表になっているわけではなかったからです。つまり「失敗対処法」はこの本をじっくり読んで、自分で読み解くしかないのです。
 でも考えてみると当然のこととも思います。重大事故が起きる頻度はすごく少ないし、起きる場所や状況もそれぞれなのですから、「違和感」はその場所・状況に詳しい人間にしか拾えるわけがなく、部外者が具体的に教えるわけにはいかないからです。
 だからこの本の効果的な活用法は、いろいろな具体例の中で、自分の会社に最も近いと思われる例を精読して、自分の会社でも起こりうるか、起こった場合にどうすべきかをチームで話し合ってい、具体的に行動するのに繋げることではないでしょうか。
 それでも、本書のなかで参考になったことや感じたことの一部を以下に列挙してみたいと思います。
・コンピュータが働かないと「脳死」になり、機械要素の手足や臓器が万全でも個体は死ぬしかない。
・福島第一原発の事故原因は、1)慢心によるリスク不感症、2)書類作成による組織疲労、3)電脳死による作業遅延、4)安心率10倍化による復興遅れ。
・事故が起きた後に何をすれば損害を最小限に止められるのか、という「減災」方法を考えることが大事。
・「海水を排水してくれ」と頼まれても、具体的に何をすればよいのかわからない。この時「毎分30?クラスの排水ポンプ車を5台、現地へ派遣してくれ」「それように1日1台あたり600リットルの燃料も補給してくれ」と要求を具体化して伝えると、すぐに調達作業をスタートできる。
・シナリオのない訓練を行う
・後始末不備で事故が起こることも多い。(「おうちに帰るまでが遠足です」)
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 ところで福島第一原発の時には、委員会にあったのは概念図だけで、配管などの詳細図面がまったくなかったそうです。なぜならテロ対策として、たとえ国の原子力安全の最高諮問機関であっても図面を持ち出すのを許さなかったから……これはとても難しい問題だと思いました。確かにテロ対策として、原発の図面等は厳重に管理してほしいと思いますが、災害対策本部でも図面がすぐに利用できないとなると、現実にテロや事故が発生した時に、迅速に適切な対応をすることが不可能になります。失敗への対策は、防災だけでなく、発生後の「減災」も考慮しなければいけないなと痛感しました。
「エンジニアならば有罪・無罪にかかわらず、自分の感じた危惧感を尊重して、できるだけ多くの減災手段を考えるべきである。それが本書の奥義である。」
 ……中尾さんの言葉を心に刻みたいと思います。
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 中尾さんの他の本、『なぜかミスをしない人の思考法』、『知っておくべき家電製品事故50選』、『「つい、うっかり」から「まさか」の失敗学へ』、『続・失敗百選』、『失敗の研究』に関する記事もごらんください。
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 中尾さんは、他にも『続・失敗百選 - リコールと事故を防ぐ60のポイント』、『失敗百選 41の原因から未来の失敗を予測する』などこの本の関連書の他、『失敗は予測できる (光文社新書)』、『ゼロから1を生む思考法』、『創造力を鍛える マインドワンダリング-モヤモヤから価値を生み出す東大流トレーニング』、『公理的設計 POD版-複雑なシステムの単純化設計』などの本を出しています。

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