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第1部 本

 IT

ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現(野口悠紀雄)

『ブロックチェーン革命 分散自律型社会の出現』2017/1/19
野口 悠紀雄 (著)


(感想)
 仮想通貨を支える情報技術のブロックチェーンが、応用対象を拡大して、ビジネスや経済、社会の姿を劇的に変えようとしています。このブロックチェーンの全容を、内外の最新事例をもとに解説し、その可能性を展望している本です。
 ブロックチェーンというのは、ご存じの通り、「電子的な情報を記録する新しい仕組みで、管理者を必要とせず、記録が改竄できない」もので、組織を信頼せずに安心して取引ができるシステムです。このため通貨や金融の世界に、パラダイムシフトをもたらす可能性が大いにあります。野口さんは、金融だけでなく、IoTやシェアリングエコノミーにも、ブロックチェーンが不可欠になるだろうと言います。さらに、予測市場、真実性の証明など、さまざまな新しいサービスを生み出し、行政や政治・司法の分野でも応用が可能だろうと……。
 この本で野口さんは、ブロックチェーンの現状をふまえて、未来展望をじっくり考察しています。なかでも参考になったのが、「第6章 ブロックチェーンは通貨と金融をどう変えるか」、「第9章 分散型自律組織や分散市場がすでに誕生」、「第10章 分散型自律組織はいかなる未来を作るか」、「終 章 われわれは、どのような社会を実現できるか」でした。
 例えば「第6章 ブロックチェーンは通貨と金融をどう変えるか」によると、ブロックチェーンを用いた決済手段を提供する主体については、次の3つの可能性があるそうです。
1)ビットコインのような仮想通貨。オープンなコンピュータ・ネットワークで運営され、中央集権的な管理主体は存在しない。
2)銀行が運営する仮想通貨。
3)中央銀行が運営する仮想通貨。
 このうち1、2のシナリオの究極的な姿は中央銀行が死滅する世界になり、3は国や中央銀行による恣意的政策を可能にすることになるとか。
 野口さんは、「自由主義的な立場から言えば、1が最も望ましい。」としているようですが、実を言うとこの本を読むまで、個人的には、「中央銀行が運営する仮想通貨」に最も期待していました。野口さんも指摘しているように、ビットコイン型仮想通貨が政府や中央銀行のコントロールを無力化しかねないと懸念していましたし、利便性や安全性、犯罪抑止の面からも、中央銀行がビットコインのような仮想通貨を発行してくれればいいのにと単純に考えていたのです。しかも「円(日銀)」への信頼性を考えると、世界経済で「日銀コイン」が現在のドル並みの影響力を持つようになる可能性だってあるかも、とすら思っていました。なにしろ仮想通貨は「数字」なので、日本語という語学的な障壁もないまま世界に受け入れられるでしょうから。
 ……でも、どうやらそれは能天気で浅はかな考え方だったようです(汗)。野口さんが指摘するように、「中央銀行が仮想通貨」を発行すると、結局はすべての仮想通貨が中央銀行発行の仮想通貨へと移動を始めることは止められないでしょうし、そうなると「中央銀行は、すべての経済活動を、個人や個別企業のレベルで詳細に把握できることになる」のも確実でしょう。また、「このシステムでは、貨幣供給は中央銀行が政府に信用を供与することによって行われるので、政府と中央銀行が意のままに動かせる」……中央銀行による仮想通貨は、単純に利便性や安全性を考えるだけでは駄目で、プライバシーや政治的な問題を含め、「すごくよく考えなければならない問題」だったのだな、と気づかされました(汗)。まして「日銀コイン」に世界中から需要が殺到してきたら、発行量の急増や価格急騰も発生することになるだろうし、その影響についても予め考えておかなければならないでしょう。難しいですね……。
 そして、「第10章 分散型自律組織はいかなる未来を作るか」にあった「自動化が進んだ分散型自律組織」と現在の法体系の問題、ブロックチェーンのような「管理者がいない」組織で、もし問題が起きた場合、誰を訴えればよいのか? という問題は、将来に向けてより重大性を増していくように思います。この本によると、働き方すら変わってしまう可能性があるとか。
「企業の側から見ると、古い知識を持った専門家を抱えているのはコストになるだけだ。人工知能やブロックチェーンが企業の基幹システムを運営し、必要に応じてフリーランサーを利用するようになれば、企業は永続的な組織ではなくなるかもしれない。ある仕事のために資金と人材を集め、終わったら解散するのだ」
 ……こんな風に一時的にしか存在しない企業の製品に問題があったら、誰が責任を取るのでしょうか? 責任はともかく、少なくとも維持修理の組織だけは作って欲しいなと思います。
 その他にも、金融業界や事務的な仕事が奪われる可能性があることや、裁判の民営化など、さまざまな問題や可能性の指摘があり、いろんなことを考えさせられました。
 それでもブロックチェーン技術などによる社会変化は、今後、避けられないものだと思います。よりよい未来を作っていくためにどうすべきか、みんなで考えていく必要があるのでしょう。そのためにも、ぜひこの本を読んでみてください☆
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 野口さんの他の本、『世界史を創ったビジネスモデル』、『仮想通貨革命で働き方が変わる』、『AI入門講座 人工知能の可能性・限界・脅威を知る』、『仮想通貨革命---ビットコインは始まりにすぎない』、『データ資本主義 21世紀ゴールドラッシュの勝者は誰か』に関する記事もごらんください。
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 別の作家の本ですが、『いまさら聞けない ビットコインとブロックチェーン』、『ブロックチェーン入門』、『スマートコントラクト本格入門―FinTechとブロックチェーンが作り出す近未来がわかる』など、ブロックチェーン関連の本は多数あります。
 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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