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第1部 本

脳&心理&人工知能

意識の探求(クリストフ・コッホ)

『意識の探求―神経科学からのアプローチ 』2006/6/28
クリストフ・コッホ (著), 土谷 尚嗣 (翻訳), 金井 良太 (翻訳)


(感想)
「意識」に関する科学的研究を概観するのに、とても役に立つ本です☆
 神経科学研究の第一人者の一人のクリストフ・コッホさんが、「意識」の問題に対して、どのような神経科学的なアプローチが可能かを真正面から解説した「意識の神経科学入門書」なのですが、すごく学術的な内容なのに、意外なほど分かりやすく書かれていて、さすがに「人間の意識を研究している人の本の書き方は一味違う!」と思わされました。
 全体の構成としては、第1章が「意識学入門」で、意識に関するこれまでの研究の総説になっていますので、ざっと概観したいときにも便利に利用できます。また、各章の終わりに、その章の「まとめ」と次章の簡単な内容や意図が書かれているので、章ごとにざっと復習できるととともに、次章への心構えができます。(もちろん、ここでいったん休むことも出来ます)。そして最終章の20章には、「インタビュー」があり、コッホさんが自分の神経科学研究に対する問題意識を、話し言葉という形で分かりやすく紹介してくれるのです。このような親切な構成になっているので、二分冊のとても分厚い学術書(入門書はありますが……)なのに、とても興味深く最後まで読むことができました(汗)。
 さて「意識」とはいったい何でしょう? これについてはデカルトなどの哲学者たちがさまざまな意見を述べてきていますが、コッホさんは、「意識が変化するのに合わせて変化していくニューロンを発見する」という神経科学的アプローチで研究しています。なかでも脳の視覚研究が一番進んでいて理想的なシステムであるとして、視覚の研究を中心に「意識」の研究をされています。
 残念ながら現時点でも、Aという物体を見た時に、どのように脳内で、それがAであると「意識」されるのかさえ、はっきりとは解明されていません。私たちの視覚には「盲点」や「両眼視差」があるのに、Aに穴のような見えない部分があったり、Aが二重に見えたりしていない以上、それらを補正してAと認識させる仕組みがどこかにあるはずなのですが。
 このような謎について、コッホさんたち神経科学研究者や、心理学の研究者が、動物実験や人間へのテストでどのように解明を試みてきているかが具体的に紹介されていくので、意識研究がどのように進められているかを知ることができます。
 例えば、三つのうちの一つの黄色い点をじっとみていると他の二点が「意識から消える」ようなケースで、見ている観察者の脳内で、どの脳部位のどの種類のニューロンが、意識の変化にぴったりとよりそうように変化しているのかを探ることで、視覚と意識の関係を解明しようとしています。
 また錯視や錯覚の研究も、脳や視神経がどのように膨大な視覚情報を簡略化して(まとめて)処理しているかの推定に役に立つようです。
 考えてみると、私たちは日常、とても高度な情報処理をやっているのだなと、あらためて感心させられました。例えば本を読むという行為ひとつをとっても、まず目に見えている一つ一つの文字の形を認識し、まとまりごとに分けて単語の意味を理解し(複数の意味があるなかで、どれを適用するかも含めて)、一つの文章として書かれている意味を知り、さらに全体として新しい知識を習得していく……という凄い作業を驚くほど短時間に行っているのです。人間って、すごいですね☆
 コッホさんたちの研究が進めば、人間の情報処理の方法についての知識がさらに深まり、精神的な障害の治療や、子供たちの教育にも役立つかもしれません。
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 コッホさんの他の本『意識をめぐる冒険』や、コッホさんとともに研究してきたクリックさんの『DNAに魂はあるか―驚異の仮説』に関する記事もごらんください。

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