ちょき☆ぱたん お気に入り紹介 (chokipatan.com)
第1部 本
医学&薬学
手術はすごい(石沢武彰)
『手術はすごい (ブルーバックス B 2283)』2025/1/23
石沢 武彰 (著)

(感想)
医師の思考力と技能、器具の進化、そして患者の生命力……手術には3つの要素が組み合わさっていることを教えてくれる本で、主な内容は次の通りです。
1章 戦略・戦術編
手術だけが成し得ること/「マージン」と「リンパ節郭清」/「手先の器用さ」よりも「思考過程」/求められる病院の総合力 ほか
2章 武器編
鋼製小物/切開と凝固を行うことができる電気メス/血管シーリングシステム/手術支援ロボットの「骨格」 ほか
3章 技術編 その1
達人への道は「道具の持ち方」から/堅実な結節縫合か、華麗な連続縫合か/素早く確実に結紮するための「糸結び」各流派/ ほか
4章 技術編 その2
「剥離」のワザ――神様の「糊付け」を剥がせ!/肝臓とブロッコリーとパリ市街の共通点/達人が魅せる「一筆書き」の手術 ほか
5章 実践編(詳細な術式スケッチつき)
胆石症に対する腹腔鏡下胆のう摘出術/大腸癌肝転移に対する右肝切除術/肝細胞癌に対するロボット支援肝S8切除術/膵癌に対する膵頭十二指腸切除術 ほか

「はじめに」には次のように書いてありました。
「本書では、数ある外科の専門領域の中から、「消化器の手術」に焦点を当てます。虫垂炎や胆石症、あるいは「がん」の治療として、私たちが手術を経験する確率が最も高い分野です。」
そして「1章 戦略・戦術編」では、手術の利点として……
1)治療ターゲットに直接到達できる(直達性)
2)病変を丸ごと取り除ける(根治性)
……また次のようにも書いてありました。
「手術の治療効果は絶大ですが、生身の体にメスが入るダメージは無視できません。傷口が痛むことはもちろんですが、命の危険を伴う合併症が発生したり、無事に退院できても後遺症で生活に支障が生じたりする可能性もあります。したがって、手術という治療のカードは「それしか方法がなく」、かつ「十分な勝算が見込める」時に限り、やむなく切る「ジョーカー」だと言えます。」
……確かに、その通りだと思います。そして手術の「勝算を高める戦略」には、次のようなものがあるのだとか。
1)「時間を戻す」魔法の薬:最適な抗がん剤を選択し、腫瘍を「切除可能な範囲」までググっと退縮させる(術前化学療法)
2)臓器トレーニング:手術前にあらかじめ手術対象側の肝臓を養う血管を塞栓しておくと、その分の血が逆側の肝臓に流れて逆側の肝臓が肥大し、肝機能もそちらにシフトするので、安全に対象の肝臓を切除できる
*
続く「2章 武器編」では、手術に使う道具(武器)について知ることが出来ます。
手術というとすぐに思い浮かぶ、いわゆる「メス」は、実は、手術冒頭の皮膚切開でしか使わず、その後は「電気メス」を使うそうです。
「電気メスは、組織の切開だけでなく、出血点を凝固して止血することもできます。細い金属の先端から患者の体に高周波電流が放電されると、メスが接する組織の細胞内部にジュール熱が、細胞の外側に放電熱が発生します。このバランスを制御することで切開と凝固止血の役割を使い分けることができるのです。」
電気メスは、メスより使いやすそうですね☆ また他にも……
・「バイポーラは、ピンセットのようなハンドピースの先端に設置された2つの電極の間に高周波電流を流すことで、介在する組織を切開または凝固する仕組みです。」
・「(前略)バイポーラ機構を進歩させ、より広い「面」で組織を圧迫し、抵抗値を感知しながら適切な電流を出力し続けることで血管を「融解癒合」させる装置が血管シーリングシステムです。組織を癒合し止血するだけでなく、その中央部で切開する(切り離す)作業までを一連の操作で実施できる装置が一般的です。」
……この他にも、超音波を使ったメス(凝固切開装置と破砕吸引装置)や気腹チューブ、針、さらには手術ロボットなどについて詳しく知ることが出来ました。
興味津々だったのが、「コラム2 「光」が導く安全確実な手術」の「蛍光ガイド手術」。蛍光ガイド手術は、肉眼で見えにくい血管や臓器、血流やがんの位置を光で明示することを目指している手術技法で、「蛍光胆道造形」などの事例があるそうです。
続く「3章 技術編 その1」では、道具の使い方や「糸結び」の方法を、写真やイラストで詳しく解説してくれています。これは新人外科医の方の参考になるだけでなく、医療系の漫画などを描くときにも資料として活用できそうに感じました(笑)。
「4章 技術編 その2」では、「剥離」のワザなどの解説があります。
・「膜と膜、あるいは腹壁と腸間膜が接した面は糊付けされる(癒合する)ので、一見するとその境界がどこか分かりません。しかし経験を積んだ外科医なら、膜が融合してできた「目印」を見い出し、そこをシュッと薄く切開することで、本来の膜と膜との境界線に入っていくことができます。(中略)
「剥離」と呼ばれるこの重要な手技により、消化管や肝臓、膵臓を手術がしやすい位置まで持ち上げ、引き伸ばすことで、治療のために十分な範囲で病巣を切り取ることができるようになります。」
・「「膜」で区切られた、本来の解剖構造に沿った手術を行うメリットは出血を減らすことだけではありません。血管だけでなく「がん」も、発生してからしばらくの間はその臓器の領域内、つまり「膜で囲まれた内側の世界」で生きています。腹膜の厚さは0.1mmほどしかありませんが、がん細胞が進軍するにあたって、この国境の突破は結構大変なミッションのようです。病巣を膜につつまれた状態で、まるっと「生け捕り」にできるかという点は、がんを「根治」できるかどうかに関わってきます。」
*
そして最後の5章 実践編では、次の4つの手術例について、それぞれ「症例」「治療戦略」「手術の戦略」「術後経過」「振り返り」がまとめてあります(医師自身による詳細なスケッチもあります)。
1:胆石症に対する腹腔鏡下胆のう摘出術
2:大腸癌肝転移に対する右肝切除術
3:肝細胞癌に対するロボット支援肝S8切除術
4:膵癌に対する膵頭十二指腸切除術
*
……これらの手術例は、これから実際に手術を受けることになっている患者さんを励ましてくれそうです(全員、ちゃんと退院しているので)。
『手術はすごい (ブルーバックス B 2283)』……手術の実態を詳細に紹介してくれる本で、とても参考になりました。病院には、健康診断以外では、ほとんど行っていない私ですが、外科医の方たちのいろんな努力を知ることが出来て、有意義だったと思います。
手術関連の新しい技術、手術ロボット、AI、蛍光ガイド手術、3D画像化技術なども進んでいるようなので、それにも期待したいと思います。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
* * *
なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。
Amazon商品リンク
興味のある方は、ここをクリックしてAmazonで実際の商品をご覧ください。(クリックすると商品ページが開くので、Amazonの商品を検索・購入できます。)
『手術はすごい』