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第1部 本
生物・進化
生命の起源を問う 地球生命の始まり(関根康人)
『生命の起源を問う 地球生命の始まり (ブルーバックス B 2302)』2025/7/17
関根 康人 (著)
(感想)
土星の衛星タイタンの大気の起源、エンセラダスの地下海に生命が存在しうる環境があることを明らかにするなど、アストロバイオロジーの世界的な第一人者の関根さんが、「生命とは何か」、「生命の起源はどこにあるのか」の本質に迫っている本です。
地球の生命の起源はどこなのかはまだ分かっていませんが、最古の微化石があった場所は、海底の熱水噴出孔かもしれないと言われています。
その一方で、隕石が起源という説もありますが、関根さんはその可能性は低いと考えているようでした。
「宇宙から生命の材料分子が、あるいは仮にあったとして、機能をもつ物質自体や生命そのものが宇宙から地球にもたらされたとしても、その物質は必ず熱力学的に不安定であり、地球の循環のなかで地質的時間スケールでは極めて短時間で分解する。」
……つまり、物質の供給があっても、受け止めて育む環境がなければ意味がないということで……
「生命は、それが棲む場の固有の循環が供給する物質で形作られ、循環が届けるエネルギーによって維持される。」
……確かに、そうですね。
そして生命の始まり方には、次の2通りの考え方があります。
1)自己複製が先(遺伝物質が先に生まれた)
2)代謝が先(循環と反応の帰結として誕生)
……このどちらが先かは分かっていませんが、奇跡のような「自己複製が先」なら、地球以外には生命は存在しないかもしれないのですが、「代謝が先」なら、生命は意外に簡単に生まれるかもしれないようでした。
とても面白かったのが「第5章 生命の誕生」。ここでは「代謝が先」の場合、生命がどのように誕生したのかが、とても具体的に述べられているので、その一部を紹介します。
「RNAやXNAができるためには、加熱と冷却、濃縮と還元、あるいは光照射など、異なる条件の化学反応が段階的に必要になる。自然界において、そのような異なる条件が段階的に出現し、反応が続けざまに起きるには、当然のごとく、熱水環境、海水、干潟などの環境間を水が循環し、その水循環に乗っかって材料物質が往来する物質循環が必要となる。(中略)
同時に、遺伝物質をつくりうる大規模な物質循環の大還流は、ローカルな別の物質循環の小還流群とも接続している。」
……そしてここで鍵となるのが、熱水噴出孔。熱水噴出孔の出口付近では、熱水に溶けた硫黄と鉄が結合して黄鉄鉱という鉱物が生まれ、その表面に膜で囲まれた小胞が吸着しています。そして有機物を結合させられるチオエステルがこの小胞に取り込まれると、小胞に閉じ込められた有機物がつながりだすようです。この一連の流れは……
「まず、酸性の浅瀬。ここでは大気から供給される硫黄を含む化合物が、紫外線照射や乾燥・濃縮を経てチオエステルをつくる。(中略)チオエステルやそれから生まれるリン酸エステルは、高い結合エネルギーによりアミノ酸など有機酸を重合し、初期代謝(反応ネットワーク)のための触媒をつくりだす。
次に熱水噴出孔。(中略)エネルギーが生んだ反応ネットワークで小胞がつくられ、その内部で触媒の助けを借りて、反応ネットワークが初期代謝となっていく。
最後にハーバー・ボッシュ法を起こす金属鉄を含む熱水噴出孔。シアン化水素やアミノ酸、核酸塩基、ヌクレオチドの前駆体が生まれうる。」
……という感じになるようで、これに最適な環境は、隕石による巨大クレーターが作った内海(クレーターの縁に浅瀬、海底に熱水噴出孔)なのだとか。……なるほど! このクレーターの内海では……
「(前略)そこでは、チオエステルが豊富なリンと反応してリン酸エステルとなり、またヌクレオチド前駆体とリン酸エステルが結合し、ヌクレオチドを作ると期待される。そして、生成物は海底に横たわるアルカリ性の熱水噴出孔に届けられる。(中略)
待ち受ける熱水噴出孔では、もはや代謝と呼んでもいいような熱水循環の反応ネットワークが小胞に閉じ込められている。大規模なクレーター全体に及ぶ物質循環で生まれたリン酸エステルとヌクレオチドは、小胞にノックするように触れ合い、そして取り込まれる。ここに大規模な物質循環と、熱水噴出孔のローカルな循環が出会い、結合したのである。」
……とても説得力があって、なんか本当に、こんな風に生命が誕生したような気になってきました(笑……単純過ぎ)
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『生命の起源を問う 地球生命の始まり』……生命がどう誕生したのかについて、生物系統樹やLUCA(全生物の共通祖先)も含め、さまざまな説を総合的に概説してくれるだけでなく、アストロバイオロジーとして、宇宙探査機で分かって来た太陽系の氷衛星や火星で得られた知見や推察なども詳しく教えてくれて、とても興味深く、また勉強になる本でした(ここではほとんど紹介しなかった宇宙の話題も、もちろんとても充実しています)。みなさんも、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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『生命の起源を問う 地球生命の始まり』