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第1部 本

生物・進化

世界一シンプルな進化論講義(更科功)

『世界一シンプルな進化論講義 生命・ヒト・生物――進化をめぐる6つの問い (ブルーバックス B 2282)』2025/1/23
更科 功 (著)


(感想)
『種の起源』・自然淘汰・生物・遺伝子・生命・ヒト……6つのキーワードをもとに、進化の驚くべきメカニズムと、複雑にも単純にもなりうる生物の多様な姿を解説してくれる本です。
 本書の目標について、「まえがき」には次のように書いてありました。
「(前略)進化論に関しては、未だに間違った考えがたくさん流布している。たとえば、「生物は進化することによって進歩していく」、「進化には長大な時間がかるので、私たちは進化を目の当たりにすることは不可能である」といった考えだ。これらの誤解について、なるべく簡単に、わかりやすく説明することが目標の一つである。
 本書のもう一つの目標は、わかっているけれど理由を説明できないことを説明することだ。(中略)
本書にはもう一つ特徴がある。それは、ダーウィンについての態度である。私はダーウィンを歴史上もっとも偉大な生物学者であると考えているけれど、だからといってダーウィンの言ったことがすべて正しいと考えているわけではない。(中略)本書では、間違いは間違いとして、はっきりと指摘することを心掛けた。」
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 ……ダーウィンについては、その説のどこが間違っているかについて具体的に解説してくれるのはもちろん、ダーウィンの「生物が進化した」という考えを攻撃したのが聖職者だっただけでなく、擁護したのもイングランド国教会の聖職者だったという事実を知ることもできました……聖職者がみんな、ダーウィンの進化論に盲目的に反対していたんじゃなかったんですね……。
 本書では、このように進化論に関して、よく分からないながらも、たぶんそうなんじゃないかなーと勝手に思い込んでいたこと、なんとなく分かってはいたけれど、他の人に説明できるほど分かってはいなかったことなどについて、詳しく解説してくれます。進化論については多くの本を読んでいたので、少しは分かっていたつもりだったのですが、勉強になったことがたくさんありました。
 例えば「なぜ生物は進化するの?」という疑問には、生き物は「変化するのが自然だから」ではないかと単純に思っていましたが、これは「ハーディ・ワインベルグ平衡」でもっと科学的に説明できるようです。ちなみに「ハーディ・ワインベルグ平衡」とは、「世代を超えて遺伝子頻度も遺伝子型頻度も変わらない状態=遺伝する形質が世代を超えて変化しない状態」のことで、それが成り立つための4条件は次の通りです。
1)集団の大きさが無限大であること
2)対立遺伝子の間に生存率や繁殖率の差がないこと
3)集団に個体の移入や移出がないこと
4)突然変異が起こらないこと
 ……この4条件をすべて満たすなんて、不可能ですよね……。
 また驚いたのが「「共通祖先」は地球最初の生物ではない」という話。すべての生物が、同じ共通祖先から進化してきたからといって、生命の誕生が1回だけだったとは限らないということで、これは、現在まで生き残った系統は一つだけというだけで、すでに絶滅した別の生命があったのかもしれないという話のようでした……確かに、そうですね……。
 またこれと同じように、「ミトコンドリア・イブ」やY染色体アダムは、「現在のすべてのヒトの共通祖先」ではなくて、「現在のすべてのヒトのDNAの一部の共通祖先」だとも書いてありました。DNAの他の部分には、それぞれ共通祖先がいたはずという指摘で……これにも納得です。ミトコンドリア・イブだけが共通祖先ではなかったんだ……。
 さらに次のようにも……
「(中略)ミトコンドリア・イブがアフリカにいたからといって、ヒトの起源がアフリカである証拠にはまったくならない。とはいえ、ヒトの起源がアフリカであることは、ほぼ確実だ。でも、それは、化石などから得られた知見であって、ミトコンドリア・イブとは何の関係もない話である。」
 ……これにもちょっと驚かされましたが……「アフリカにいたはずのミトコンドリア・イブ=人類全員の(DNAの一部の)共通祖先」→「アフリカ=ヒトの起源の場所」というのは、単なる「短絡思考」だったんだな、と気づかされました。
 またヒトをヒトらしくした原因といわれているFOXP2遺伝子(言語と関係している遺伝子)は、100万年以上前に生きていた一人の祖先から受け継いだもので、ミトコンドリア・イブ(約30万年前)より前の「ヒト以前」の祖先から受け継いだものだそうです。
 この他にも「自然淘汰で有害な遺伝子が除去できない仕組み」を理解するための思考実験を通して、「自然淘汰が作用するのは表現型(顕性アレル)に対してだけなので、潜性アレルは低い頻度のまま存在し続けることになる」こと、「不利なアレルは表現型(顕性)になるとすぐ除去されてしまうので、残るのはたいてい潜性のアレルになる」こと、がよく分かりました(なお、顕性アレルはかつて優性遺伝子、潜性アレルは劣性遺伝子と呼ばれていたものです)。
 さらに飛行や翼がどのように進化してきたかなど、他にも興味深い話題が満載です。
『世界一シンプルな進化論講義 生命・ヒト・生物――進化をめぐる6つの問い』……生物は、なぜ進化するのか? 獲得した形質の遺伝は存在する? など進化の驚くべきメカニズムについて解説してくれる本で、とても勉強になりました。進化や生物に興味がある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『世界一シンプルな進化論講義』