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第1部 本
天文・宇宙・時空
宇宙から見る地球(村木祐介)
『宇宙から見る地球』2025/3/16
村木 祐介 (著)
(感想)
「宇宙から地球を見ること」について、JAXA第一宇宙技術部門の村木祐介さんが多面的に解説してくれる本で、宇宙から見た地球の景色を含む美しい136点の写真と、分かりやすい50点の図解を含むオールカラーの全168ページ。主な内容は以下の通りです。
1章 宇宙から地球を見るのはなぜ大事?
・コラム 衛星地球観測と私
2章 宇宙から地球を見るには?
・コラム 衛星地球観測の歴史
3章 宇宙から地球を見て何をする?
・コラム 衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)
4章 宇宙から見る地球が「自分ゴト」になる?
・コラム「 宇宙から見る地球」に触れる体験
5章 宇宙から地球を見て何を感じとる?
・コラム STAR SPHEREの「宇宙撮影体験」
特別対談 宇宙飛行士 油井亀美也と語る人間と人工衛星の眼で共に見る地球
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「1章 宇宙から地球を見るのはなぜ大事?」によると、実は、私たちの上空の「100kmからが宇宙」なのだとか(笑)。ただし……
「実際には、高度100kmくらいは大気がまだまだ濃く、空気抵抗ですぐに地球に落ちてきてしまうため、国際ステーションは高度400km程度、人工衛星は高度400~1000kmで周回するものが多いです。」
……そうだったんだ。
「2章 宇宙から地球を見るには?」では、「地球観測衛星のキホン」の「地球観測衛星はスマホと同じ?」がとても分かりやすかったです。それは……
「何やら得体のしれない複雑なものだと思ってしまうかもしれない地球観測衛星ですが、宇宙にある「スマホ」のようなものだと思えば親近感がわいてきませんか? スマホには、通信アンテナ、電力を蓄積・供給するためのバッテリー、動作するためのコンピューター、データ記録のためのメモリ、撮影用のカメラ、位置を把握するためのGPS受信機、傾き(姿勢)を把握するためのジャイロなどが搭載されています。地球観測衛星も、スマホと同じようにこれらの装置を搭載しており、カメラや目的に応じた観測センサを搭載します。」
……違うのは、宇宙にはコンセントがないので、宇宙では太陽電池で発電してバッテリーを充電するところだとか(笑)。
また「地球を見る衛星の「眼」」では、地球観測衛星は電磁波(光や電波)を観測することなど、技術的な解説がありました。
・「光学観測では、主に太陽光(可視光線や近赤外線)の地球での「反射」と、地球が出す中間・遠赤外線の「放射」を観測します。」
・「(前略)電波センサは、電波のうち主にマイクロ波を観測するのでマイクロ波センサと呼ばれます。」
・「観測したマイクロ波の周波数を精密に測定することで、雲や雨粒の上昇・下降の動き(ドップラー速度)の把握も可能です。」
……マイクロ波による観測は、雲があっても観測できるのが強み(全天候で広域に取得できる)だそうです。
また「衛星データを使うには?」には、次のことが紹介されていました(本書にはもっと詳しい解説があります。)
<無償データ>
・JAXAが無償公開しているデータ(G-Portalでアクセス可能)
・EUの地球観測プログラム「Copernicus(コペルニクス)」のデータ
・NASA/USGSのLandsatシリーズのデータ
<有償データや無償データにアクセスできるプラットフォーム>
・Google Earth Engine
・Earth of AWS
・Azure Space
・Tellus
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「3章 宇宙から地球を見て何をする?」では、大きく広がる衛星地球観測のビジネス利用として、「農業」「林業」「水産業」「インフラ・土木」「エネルギー」「海運」「金融」「保険」「不動産」「報道」「エンタメ・教育・アート」など、さまざまな産業での活用法が紹介されていました。
例えば「インフラ・土木」では……
「SAR衛星による地盤変動計測や、光学画像などを組み合わせたインフラ周辺の植生、土地被覆、土地利用などのモニタリングにより、河川堤防、港湾、空港、ダム、鉄道、送配電網、パイプラインなどのさまざまなインフラを効率的に監視できます。」
「保険」では……
「洪水などの大規模災害が発生した際に、災害現場に行くことなく迅速に被害状況を把握して保険金を支払うために、衛星地球観測で把握した被害情報が活用されています。」
「報道」では……
「(前略)人が立ち入ることが困難な紛争地域や災害の被災地域の情報把握・分析・ファクトチェックなどのために、報道機関自ら衛星データを入手・解析に用いるケースも増えてきています。」
「被害や事故の発生時の状況を報道する際にも、広域の被害状況を遠隔地から迅速に観測できる衛星地球観測が活用されています。」
……いろんな活用法がありますね☆
もちろん「防災」での活用もあります。
「(前略)雲があっても夜間でも観測できるSAR画像、詳細観測できる光学イメージャによる高分解能画像などにより、被害を受けた建物、洪水や津波の浸水域、不通となった道路などの情報を広域にわたって迅速に把握できます。」
さらに「安全保障」でも……
「(前略)世論の誘導や敵対勢力の攪乱を狙う認知戦・情報戦において、商用衛星がもたらす客観的で公開可能な情報の重要性が高まっています。」
……なるほど。衛星データは、ファクトチェックにも活用できるんですね。
「4章 宇宙から見る地球が「自分ゴト」になる?」では、「衛星地球観測が活躍する未来社会」として……
「(前略)デジタル技術による変革であるデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中で、AIを搭載したロボット、ドローン、農業機械、船舶などが衛星地球観測を活用し、「周囲を見通し、自動で活動できる社会」になっていくでしょう。」
……なんだか、ワクワクしてしまいます。
「5章 宇宙から地球を見て何を感じとる?」の「宇宙旅行で楽しもう:地球の見所ツアー」では、宇宙で撮影された美しい写真を見ることが出来ます。
そして最後の「特別対談 宇宙飛行士 油井亀美也と語る人間と人工衛星の眼で共に見る地球」では、宇宙に5か月間も滞在した宇宙飛行士の油井さんならではの経験談や、油井さんの「心に残る写真」など興味深い話を読むことが出来ました。
ちなみに「心に残る写真」は、「ナイル川が流れていて、その流域が夜綺麗に光っていて、その上空でISSと「こうのとり(宇宙ステーション補給機)」がドッキングしているのが写っている1枚」で、実際にその写真を見ることが出来ます。本当にため息がでるような美しい写真でしたが、油井さんはこれを撮影した時、「人間の歴史」を考えていたそうです。エジプトは古代の人々が一生懸命協力してピラミッドという夢を実現させた場所、その上空で宇宙ステーションという私たちの夢が……これを読んだら、さっきの写真がいっそう美しく輝いてみえました……。
『宇宙から見る地球』……人工衛星が地球を観測する仕組みから、ビジネスやSDGsなどさまざまな分野での活用方法、自分ゴトにするアプローチまで総合的に解説してくれる本で、とても勉強になりました。写真を見るだけでも楽しいので、地球や宇宙に興味のある方は、ぜひ読んで(眺めて)みてください☆
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『宇宙から見る地球』