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第1部 本
脳&心理&人工知能
人工知能のうしろから世界をのぞいてみる(三宅陽一郎)
『人工知能のうしろから世界をのぞいてみる』2024/7/29
三宅陽一郎 (著)
(感想)
ゲームAI開発者の三宅さんが、人工知能や人工知能と共に生きる人間の主観世界のデザインについて哲学的に考察している本です。
「まえがき」には次のように書いてありました。
「本書はこの二〇一五年から二〇二四年まで、さまざまな媒体に発表してきた論文や論考の中でも特に重要な一二個の文章を集めたものである。それぞれの文章は人工知能、スマートシティ、物語、哲学、あるいは、それらを混合した内容まで多岐に渡っている。」
……まさにこの通りで、人工知能だけでなく哲学的内容まで多岐に渡るエッセイ集という感じでした。「まえがき」に、とても興味深い文があったので、ちょっと長いですが、それを紹介します。
「(前略)知能を持つものはAIエージェント(個としての人工知能)だけではない。環境もまた知能を持つのである。環境側に知能を持たせることを「スマート化」という。スマートオブジェクトとは物が知能を持つことで、環境内でAIエージェントや人間を誘導してあげること。スマートスペースとは空間が知能を持つこと。会議室や、広場や、ピロティなど、空間を管理するAIである。スマートシティとは都市が知能を持つことである。スマート化される最も大きなスケールが都市である。これらはより一般的には「空間AI」と呼ばれる。ロボットやドローンのように個として運動するAIが動物型AIというのであれば、空間AIは空間を基盤とする動かない植物型AIである。そして、個々のAIエージェントたちと、空間AIが協調することで、AIたちはより人間に近い空間での活動が容易になる。空間AIが空間的情報を提供することで、個としてのAIエージェントたちの空間認知のレベルを下げることができるからである。」
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「第6章 都市が人工知能になるとき」では、このスマートシティについて、さらに詳しく考察しています。その一部を紹介すると……
「(前略)都市の人工知能としてのメタAIのアーキテクチャには大きく三つの領域があり、都市の状態データを集約するセンサリング機能と、都市の知能としてその行動の意思決定機能、そして都市の人工知能が実効的に都市に力を行使するエフェクタの機能である。データを集約する機能は、都市のもつビル群、交通、広場など、さまざまなアセットの情報を収集し整理する機能である。都市の知能の意思決定は、都市の未来、近未来に対する行動決定である。エフェクタは、都市の実行機能であり、都市に影響を与える。」
……スマートシティは大きな人工知能とも言えるんですね……。
また「第10章 他者のまなざし、人工知能のまなざし」でも、「なるほど」と思わされることがありました。
「(前略)知能の認識する世界は、世界そのものではなく、予測と誤差によって作られた世界だ。我々は予測によって、すべての情報を毎瞬間知覚するのではなく、その誤差のみをアップデートし、差分の少ない情報はそのままスルーし、かつ、急激な誤差の広がりを持つ情報のみを意識に上らせることで、環境の急激な変化に適応的に対応する知能を実現している。だから、あまりに差異のある情報が多い場合には意識はフル稼働するかパニックに陥る。
他者を理解することが他者を予測することであれば、他者の認識とは、予測との誤差に起因する。自分が予想したのと違う動きや発言をすればするほど、意識に上りやすくなる。期待通り、予測通りでは、人の注意は引けないのだ。だから、物語でも、アイドルでも、音楽でも、ゲームでも予想外が重要である。予想させ、それを超えることで人気は集まる。」
……なるほど……知能は「予測」だから、「予想外」が人気になる……なんか、納得してしまいました(笑)。
『人工知能のうしろから世界をのぞいてみる』……ゲームAIのキャラクターや世界を構築してきた三宅さんならではの哲学的な「人工知能論」で、とても興味深く、考えさせられる内容だったと思います。人工知能について興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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『人工知能のうしろから世界をのぞいてみる』