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第1部 本
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スポーツロボティクス入門(日本ロボット学会)
『スポーツロボティクス入門: シミュレーション・解析と競技への介入』2024/10/8
日本ロボット学会 (監修), 西川 鋭 (著, 編集)
(感想)
スポーツとロボティクス(ロボット工学)をかけ合わせるスポーツロボティクスについて総合的に分かりやすく解説してくれる本で、今後のロボティクスにおける多種多様な発展の方向性も提示しています。
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「(前略)本書では大きく「身体運動のシミュレーションと解析」「戦術の生成と解析」「対人競技ロボット」「人間・スポーツの拡張」の4つの視点から、スポーツロボティクスの基礎と現状、今後の展開について説明する。」
そして「第1章 スポーツロボティクス概要」では、ロボカップサッカーについて詳しい解説がありました。ロボカップサッカーとは……
「最終目標として、2050年までにFIFAの最新ワールドカップ優勝チームに11体のヒューマノイドからなるロボットチームで打ち勝つことを掲げ、1997年の第1回国際大会以来、毎年競技会とシンポジウムを開催し、技術的課題から社会的課題まで、実践を通じてチャレンジとして提起し、その解決を全世界の研究者と一丸となって取り組んできたのがロボカップサッカーである。その最大の特徴は公開の競技会という共通のプラットフォームでの評価・検証により結果を共有し、次のチャレンジを打ち立て、解決を図ってきたことである。」
……凄く未来感のある素晴らしいチャレンジですね! とは言っても、ロボットがサッカーをすることには多くの困難な問題が立ちはだかっていて、なかなか大変なようですが、少しずつ実績をあげてきているようです。
「(前略)ロボカップは、ロボティクスとAIの研究のために、困難で魅力的な先見の明のある課題を通じて、競争とベンチマークを導入した最初の組織であったといってもよいであろう。」
……今後の展開にも大いに期待したいと思います。
続く「第2章 身体運動のシミュレーションと解析」では、水泳運動のシミュレーションモデルについて詳しく紹介されていました。
「水泳人体シミュレーションモデル(SWUM)」では、人体は21個の楕円錐台の連なりとして表現され、楕円錐台どうしは3自由度の相対回転が可能なピンジョイントとしての関節で連結されているようです。
「SWUMのようなシミュレーションツールを用いれば、さまざまな水泳運動の動作を系統立てて試すことができ、個々の目的にかなったよりよい動作をシステマティックに見つけることができる。このような手法は最適化と呼ばれ、工学において広く用いられている。」
そしてこのような身体運動のシミュレーションは、身体に装着する用具の開発にも応用できて、実際に、片足欠損のパラスイマー用のパドルなどの開発で利用されているようでした。
「第3章 戦術の生成と解析」では、対戦型スポーツにおけるロボット・AIの戦術に関する問題についての解説があり、サッカーのシミュレータなどが紹介されていました。
「(前略)サッカーを含めた集団スポーツの戦術的な動きのデータ解析には、膨大なデータが必要である。現実的には、ある程度、人間と似た動きをするシミュレータを使用して、機械学習の学習データをシミュレータにより増強するというハイブリッドな方法が有効であろう。」
……現在は困難な問題が山積みのようですが、こちらも今後に期待ができそうです。
そして「第4章 対人競技ロボット」では、野球ロボットと卓球ロボットの事例が紹介されています。ロボカップサッカーの事例で、多くのロボットが協調的に動くだけでなく、敵チームのロボットに衝突しないようにしながら、ゴールにボールを入れなければならないサッカーならではの困難さを見てきたので、スポーツロボットの開発としては、少なくとも「対戦相手とぶつからない」「その時の役割(やるべきこと)がほぼ決まっている」スポーツから始めるべきじゃないのかなーと思ってしまいましたが、やっぱり「野球」や「卓球」ロボットも開発されていたんですね! しかもこちらの方は、かなり実用に近づいているようでした。
ちなみに対人競技ロボットを開発する目的には、大きく分けて、
1)人間の能力を超えるようなロボットの開発
2)能力的には人間と大差ないが、人間を認識し、人間のパートナーのような存在になれるロボットの開発
という二つの目的があるそうです。
野球ロボットの例では、ロボットがバッティングする場合に必要な3つの技術として……
1)ロボット周辺の環境や相対する人間、操作対象物などの認識(センシング技術)
2)認識結果やスポーツの目的に応じたロボットの行動決定(動作計画技術)
3)決定した行動にもとづいたロボットの制御(制御技術)
……などが書いてありましたが、これは他の競技でも必要となる技術だと思います。
野球ロボットでは、投球・打球・捕球に関しては上肢のみからなる人間サイズのロボット、走行に関しては下肢のみからなる人間サイズのロボットが開発されていて、卓球ロボットでは、人間に合わせてラリーを継続することを目的とするロボットが開発されているようでした。近い将来、温泉卓球では、その人のレベルに合わせて「相手をしてくれるロボット」サービスが始まるかも?(笑……楽しそう)。
そして最後の「第5章 人間・スポーツの拡張」では、人間拡張やリハビリでの応用の他、VRについても解説されていました。
・「さまざまなスポーツにおいて、VR環境での時間・空間を編集することによって技術習熟を支援する研究が行われている。VR技術を用いることで、特定の機器や環境が必要なためにトレーニングの機会を得るのが難しい競技のトレーニングが容易になったり、熟達者の動きを見るだけでは模倣が難しい複雑なタスクをユーザのレベルに合わせて難易度を調整し、習得しやすくすることが可能となる。」
・「(前略)スポーツにおける人間拡張では、ユーザの身体能力を拡張するだけでなく、知覚・認知能力をアシストすることで、通常は体験しえない新たな知覚体験を創出することも重要な要素である。」
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『スポーツロボティクス入門: シミュレーション・解析と競技への介入』……ロボットには人間の物理モデルであるという側面があり、身体運動を扱う上でスポーツと高い親和性を示しています。ロボットにスポーツを行わせることでロボット自体の性能の向上が期待できるだけでなく、スポーツの戦術や戦略を考えるとか、リハビリとかの面でもさまざまな応用が期待できるので、今後の動きにも注目していきたいと思います。
とても面白くて勉強にもなる本でした(数字が多くて、ちょっと難しい部分もありましたが……)。スポーツやロボットが好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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『スポーツロボティクス入門』