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第1部 本

医学&薬学

DNAとはなんだろう(武村政春)

『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり (ブルーバックス)』2024/8/23
武村 政春 (著)


(感想)
 世代をつなぐための最重要物質でありながら、細胞の内外でダイナミックなふるまいを見せるDNA。果たして、生命にとってDNAとはなんなのか? を語ってくれる本で、主な内容(DNAが見せる「3つの姿」)は次の通りです。
第1部 引き継がれるDNA
遺伝暗号とセントラルドグマ
第2部 変化するDNA
「DNAの塩基配列」が変化する意味とは?
第3部 動き回るDNA
動く遺伝因子から細胞外DNAまで
    *
「遺伝子の本体」のDNAの複製は、オリジナルが複製されると「新たなオリジナルが二本できる」というタイプの複製です。このDNAの複製は、「ポリヌクレオチド鎖を合成し、伸ばす」反応の触媒であるDNAポリメラーゼの働きによって行われるのですが、その動きを説明する「右手モデル」がとても興味深いものでした。
「右手=DNAポリメラーゼ」とすると、右手の手のひらが「ヌクレオチド重合反応」の舞台になります。重合される新たなヌクレオチドが、手のひらにやってくると、右手がパタンと閉まるのです(粘土を握るようなイメージで)。このときタンパク質の立体構造が「しっくりくる(正しい塩基対が鋳型と新しいヌクレオチドのあいだで形成される)」と、受け入れられ、「しっくりこない(ダメ)」時には吐き出される……このプロセスが超高速で実行されていくのだとか! DNAの正確な複製は、こんな感じに実行されているんですね……。
 そして面白かったのが「第2部 変化するDNA」。実は真核生物のDNAポリメラーゼ(15種類)には、複製用のB 型と、損傷乗り換え用のY型の二種類があるそうです。複製用(B型)は複製忠実度がきわめて高いのですが、損傷乗り換え用(Y型)は、複製忠実度が低いのだとか……つまりB型は「しっくりこない」と感じると複製を中止してしまいますが、Y型は「しっくりこない」場合でも、「それなりの一致」で複製してしまうのです。これはとても大事なことのようで、次のように書いてありました。
「この<いいかげんな>DNAポリメラーゼは、損傷を修復するわけではない。損傷を「乗り越える」だけなのである。(中略)細胞にとっていちばん困るのはDNA複製が途中で止まってしまうことだから、それをみごとに防いでいるといえる。」
 ……なるほど、確かにそうですね!
 またDNAポリメラーゼは、常に鋳型となるDNAに張りついて複製を行っているわけではなく、たまに鋳型から離れて再び張りつくことがあるのですが、この時、誤って一つ手前のCAGにDNAポリメラーゼがくっついてしまうことで、三塩基分が多く合成されてしまう(複製スリップ)こともあるそうです。
 これが進化に繋がっているかもしれなくて……
「複製エラーや複製スリップという、本来は正確に複製されるべきポイントでまれに起こるDNAポリメラーゼの異常な行動は、その時々を見れば、まさに文字どおりの「異常」であるかのように見える。しかし、長期的な視点でとらえ直すと、「ほぼ正確」に遺伝情報を複製しつつも、時折エラーを起こすという現象が存在しているがゆえに、長い時間をかけて生物が進化することができたともいえる。」
 ……「ほぼ正確」だけど、たまにエラーを起こすこのような仕組みがあるのは、生命体にとって、とても良いことのようです(笑)。というのも、地球環境はずっと一定なのではなく、火山爆発や気候変動など多くの変化を起こしてきたので、このような進化(変化)のおかげで、その時代のその環境を生きのびてきた生命体がいたのでしょう。
 そして「第3部 動き回るDNA」では、動く遺伝因子「トランスポゾン」の解説がとても興味津々でした。
 トランスポゾンの動き回り方には、次の2つの方法があるそうです。
1)DNAトランスポゾン:自らをゲノムから切り出し、同じゲノムの別の場所にふたたび組み込む(カット&ペースト)=動くだけで増えない
2)レトロトランスポゾン:RNAを媒介にしてゲノム内でそのコピーを増やす(コピー&ペースト)=動いて増える
 ……こういうトランスポゾンの動きも、進化を生み出してきたんでしょうね。
 また次のようなレトロ(逆転写)ウイルスの話も、とても面白いと感じました。
「(前略)レトロウイルスというウイルスは、遺伝子の本体としてDNAではなくRNAをもっている。宿主の細胞に感染すると、そのRNAからDNAを逆転写し、DNAトランスポゾンがトランスポザーゼを使ってそうするように、そのDNAを宿主のゲノムに挿入してしまうのである。この逆転写をおこなうための酵素が「インテグラーゼ」である。レトロウイルはこれらを、自らのゲノムにコードしている。」
「レトロウイルスのRNAゲノムには、逆転写酵素以外にも、ウイルス粒子をつくるためのカプシドタンパク質遺伝子やエンベロープタンパク質遺伝子、感染した細胞内でゲノムを複製するためのポリメラーゼ遺伝子などの複数の遺伝子が存在している。そのため、逆転酵素によってRNAゲノムがDNAになり、宿主のゲノムに挿入されてしまっても、一定時間が経つと、そこからふたたびRNAゲノムが「転写」され、カプシドタンパク質などが「翻訳」されてつくられ、RNAゲノムが「複製」され、やがて子ども粒子をつくって細胞の外へ飛び出していくことになる。
 いわばレトロウイルスは、宿主の細胞に感染した後、そのゲノムの中で<一休み>して、休憩後にあらためて飛び出すという方法で増えていく連中なのである。」
 ……こんなレトロウイルスの中には、うっかり<一休み>ではなく、<永遠の眠り>についてしまうものもいるようで……
「レトロウイルスが、自らのDNAを宿主のゲノムに挿入したまま<眠りについた>状態を「プロウイルス」というが、これがふたたび<起き出す>前に、そのDNAに突然変異が生じてしまうと、起きることができなくなってしまう場合がある。(中略)
 一方、宿主細胞のほうは、自身の内部でウイルス粒子の生産がおこなわれずにすむので、元気なまま、生を謳歌することができる。
 こうして生物のゲノム内にとどまり、逆転写機能だけを保持したまま、連綿と生物から生物へと引き継がれることになったDNA――。これこそが、「レトロトランスポゾン」の正体なのだと考えられている。」
 ……これもまた、進化につながってきたようです。
『DNAとはなんだろう 「ほぼ正確」に遺伝情報をコピーする巧妙なからくり』……DNAはどのように遺伝情報を伝えるのか、突然変異はどう起こるか、について詳しく解説してくれる本で、とても勉強になりました。ここでは進化につながる話を中心に紹介しましたが、この他にもDNAに関する基礎知識や、病気とDNAなど、さまざまな解説があります。DNAや生命の進化に興味がある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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『DNAとはなんだろう』