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第1部 本
工作(紙以外)
海底トンネルの造り方(下石誠)
『海底トンネルの造り方──水の力でつなぐ沈埋工法』2024/11/21
下石 誠 (著)
(感想)
航路や河川などを横断するためには橋やトンネルが必要になりますが、軟弱地盤での施工や工期などの面でメリットがあるのが、沈埋トンネル工法です。この分野で多くの実績を積み重ねてきた五洋建設の下石さんが、沈埋トンネルの造り方の詳しい方法を教えてくれるだけでなく、実際に直面してきた技術的な課題を、様々なアイデアで解決してきた挑戦の歴史も語ってくれる本です。
「はじめに」には、次のように書いてありました。
「2020年6月20日、東京港フェリーターミナルがある10号地その2地区(江東区有明4丁目)と、中央防波堤地区(江東区海の森3丁目地先)とを結ぶ、アプローチ部を含めて総延長約2.1kmの「東京港海の森トンネル」が開通しました。
同トンネルの海底トンネル部(約930m)は、山岳トンネルで用いられるNATM(ナトム)工法や、都市部で用いられるシールド工法と異なり、沈埋(ちんまい)工法と呼ぶ施工方法により、建設されています。沈埋工法はトンネル本体となる沈埋函(ちんまいかん)をあらかじめ製作し、それを海底に掘ったトレンチ(溝)に沈め、沈埋函同士をつないで海底トンネルを建設する施工方法です。」
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そして「Project Preview」では、沈埋工法を使ったプロジェクトの写真を多数見ることができます。海底トンネルというロマン溢れるプロジェクトの実際の画像をたくさん見ることができて、うわー、こんな風に造られていくんだー、と大興奮(笑)。
「序章 「沈埋トンネル」に魅せられる」によると、2025年開催の大阪・関西万博の会場となる大阪湾の人工島「夢州」へのメインアクセスの1つとなる海底トンネルも沈埋工法で造られているそうです。しかもこれは、道路と鉄道の両方が通れる珍しい海底トンネルなのだとか。
そしてその造り方の特徴は……
「(前略)沈埋トンネルは、1つの重さは数万トン、長さは100mを超えるような圧倒的に巨大な箱(沈埋函と呼ぶ)からできており、沈埋函同士をつなげるときに使うのは、水の中にある「水圧」という自然の力である。「水の力を利用して水の流入を止める」、これを「水圧接合」と呼び、沈埋トンネル工法の大きな特徴となっている。」
<沈埋トンネルの特徴>
1)巨大な沈埋函をあらかじめ造ってつなげるプレハブ工法
2)水の中では沈埋函は想像以上に軽い
(沈めるには内部に備え付けたバラストタンクを利用する。浮力があるので、巨大な沈埋函が海底に設置されても、海底の地盤にはそれほど大きな負担がかからない)
3)水の力で大地震にも耐える
「すでに海底まで沈めて接合された状態の沈埋函(既設函)に、新たな沈埋函(新設函)を接合する場合、止水用のゴムを縁にぐるりと巡らせた新設函を直前の既設函に押し付ける。そして沈埋函同士の隙間に残っている水を抜くと、その分の水圧がなくなり、結果的に新設函が後ろから水圧で押されるメカニズムである。」
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沈埋トンネルは、次の5プロセスで造られているようです。
1)トレンチの造成(沈埋函を沈設するための溝)
2)沈埋函の製作
3)沈埋函の沈設
4)沈埋函の接合
5)埋め戻し(接合後に1.5~2mの厚みの雑石をかぶせて埋め戻す)
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そして「Closeup 実例で知る沈埋トンネルの造り方」では、「東京港海の森トンネル」の沈埋函の製作から据え付けまでが、表やイラスト、写真を使って詳しく紹介されていました。
巨大な沈埋トンネルは、造るのにも、沈めるのにも、つなげるのにも、大規模な工事が必要なようで、これまでも様々な課題に直面しながら、プロジェクトが進められてきたようです。「第3章 「沈埋」を進化させた3つの技術開発」では、次の技術が紹介されていました。
・沈埋函の構造は、「鋼殻構造」から「オープンサンドイッチ構造」、「フルサンドイッチ構造(ドライドッグ方式ではなく、海上ヤードでの浮遊打設方式が使えるようになる)」へ
・「ターミナルブロック工法」→「Vブロック工法」→「キーエレメント工法」で最終継手を省略する技術に到達
・可とう性継手の概念を刷新した「クラウンシール継手」
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これらの核心的な改良がどのように行われたのかについても、詳しく紹介されていて、とても興味津々でした。
『海底トンネルの造り方──水の力でつなぐ沈埋工法』……巨大な建造物の海底トンネルの造り方を、豊富な写真・図版とともに詳しく知ることが出来る、とても楽しい本でした。工作好きとしては、巨大構造物が造られていく様子や、果敢に着実に新しいアイデアを実現していく姿に、わくわくが止まりませんでした。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『海底トンネルの造り方』