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第1部 本

地質・地理・気象・地球環境

島はどうしてできるのか(前野深)

『島はどうしてできるのか 火山噴火と、島の誕生から消滅まで (ブルーバックス B 2267)』2024/7/18
前野 深 (著)


(感想)
 西之島をはじめ多くの島の上陸調査も行ってきた前野さんが、できたての島でなくては見ることのできないこと、そこからわかる地球のダイナミズム、今後西之島はどのように変化していく可能性があるのか、などを解説してくれる本で、西之島以外の国内外の特徴的な島についても、噴火や成長の過程での地質現象についても解説してくれます。
 前半は、島の誕生から成長までにどういう現象が起こっているのかを中心に、後半は、島の成熟から崩壊などの過程を中心に、さまざまな島の事例を紹介しています。
 西之島のような世界でも珍しい新たな火山島の出現は、島を知り地球を知る研究材料の宝庫です。
 小笠原諸島で2013年、旧西之島沖の噴火によりできた島はどんどん大きくなり、旧西之島をのみこみ成長中であることはニュース映像でも紹介され、島ができていく過程を見られる貴重な場所として、様々な分野の研究者からも注目されています。次のように書いてありました。
・「西之島で起きた噴火は、私たちが住む大地がどのように創られていくのかを生の姿を通して教えてくれる。」
・「できたばかりの島は大きく成長する前に海蝕により短時間のうちに消滅してしまうこともある。実際にはこのような例も多く、とくに伊豆小笠原地域では新島の誕生の傍らで新島の衰退と消滅も同じように起きている。」
   *
『島はどうしてできるのか』というタイトルですが、「どうして」というよりは、「どのように変化してきたか」という感じで、火山噴火と、島の誕生から消滅までの経緯を観察した事例紹介が多かったと思います。
 最初に紹介されるのは「西之島」。人工衛星や航空機による遠隔観測、周辺を航行する船舶による火山灰採取の他、研究者による上陸調査も数回行われていますが、その岩石分析によると、当初噴出していたマグマの種類は安山岩でしたが、その後の継続調査で、マグマの噴出率が大きく変動していること、さらに時間ともに安山岩質のマグマがしだいに玄武岩に近い組成に変わっていったことが分かってきたそうです。このことから、西之島では、地下2kmぐらいと、4~8kmぐらいの少なくとも2ヵ所にマグマ溜りがあり、深いマグマ溜りはより高温で玄武岩に近い組成を有し、そのマグマが浅い安山岩マグマ溜りに注入さことで少しずつ組成が変わっていることが明らかになってきているそうです。
 そして次に取り上げられているのは、「福徳岡ノ場」で……
・「福徳岡ノ場の噴火は2021年8月13日午前6時頃に開始したが、3日も経たずにほぼ終息した。この短い時間に浅海は埋め立てられ、新しい島が誕生し、大量の漂流軽石が発生した。」
・「福徳岡ノ場が派手な噴火を起こしやすいことと島ができにくいことは密接に関係する。西之島のように島が成長し火口が陸上に存在するようになればマグマ水蒸気爆発は起こりにくくなるが、福徳岡ノ場では島の成長に欠かせない溶岩はめったに流出せず、火砕物ばかりを生み出す。
 緩く積み上がった火砕物からなる島は波の力に弱い。そのため新島ができたとしても海蝕により短時間のうちに消滅してしまう。」
 ……実際に2021年に出来た新島は、2021末にはわずかな岩礁となり、ほぼ消滅したそうです。
 この他、薩摩硫黄島付近に出現した昭和硫黄島、地球規模に影響を与えたインドネシア・クラカタウ火山の巨大噴火、古代ギリシアから噴火を繰り返し記録されてきたサントリーニ火山・カメニ島なども詳しく紹介されていました。
 日本の海底噴火による新島はマグマの組成が変化していることが多かったようですが、なんとサントリーニ火山の場合は、溶岩の化学的組成が2000年以上変わっていないようです。
 そして総括のように次の文章がありました。
「西之島、福徳岡ノ場、昭和硫黄島、アナク・クラカタウ島、サントリーニ火山・カメニ島、そして2022年のフンガ火山で起きた噴火は、どれも海域噴火に伴う現象の理解とハザードへの対策を進める上での重要な事例だ。近年の噴火と過去の噴火双方から学ぶことはまだまだたくさんある。」
 ……まったく、その通りですね! 
 また「島のできかた」に関連することとして……
「西之島をはじめ、永続的な火山島が形成されるためには、溶岩の流出による堅固な基盤の形成が必要だ。溶岩流は、マグマが爆発の駆動力を失い、溶融状態のまま地表まで上昇し流れ出ることで生じる。つまり島の形成には穏やかな噴火が欠かせない。」
 ……火砕物ばかりだと、すぐに浸食されてしまって島にはなれないようです。
 そして後半は、島の成熟から崩壊に関連するものとして、山体崩壊や津波についての解説がありました。
 山体崩壊の要因としては……
1)マグマや熱水(流体)の山体浅部への上昇などに伴う山体内部からの加圧・破壊の進展
2)火山性または非火山性の地震や地殻変動など外的要因による応力状態の変化
3)風化・熱水変質作用による長い年月をかけての山体強度の低下
 ……があり、
「崩壊現象の即時検知については、崩壊による地表面・海面の変位や地震動を観測によりいかに早く捉え、警報に繋げられるかが鍵だろう。」とのことです。
 また火山性津波の代表的な発生メカニズムとしては……
1)火山性流れの水域への流入
2)海底での崩壊
3)海底での陥没など断層運動による沈降
4)断層運動による隆起
5)マグマ水蒸気爆発
6)爆発的噴火により生じる大気波動
 ……などがあげられていました。
『島はどうしてできるのか 火山噴火と、島の誕生から消滅まで』……海底火山などの研究に取り組んできた前野さんが、西之島などの実地調査をもとに詳しく解説してくれる本でした。野外調査では、短時間で、火山の位置と数、噴火の様式、爆発の頻度、噴煙の高さ、噴気活動の状況、変色水の状態、島の形状などを把握する必要があることや、岩石を採取することの他に、現地環境を攪乱しないよう「泳いで上陸(人間を洗浄することにもなる)した」などのリアルな実態も教えてもらえます。……大変ですね……。
 とても参考になることが多かったので、みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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『島はどうしてできるのか』