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第1部 本

生物・進化

都会の鳥の生態学(唐沢孝一)

『都会の鳥の生態学-カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰 (中公新書 2759)』2023/6/21
唐沢 孝一 (著)


(感想)
 都市を舞台に繰り広げられるカラスと猛禽類(オオタカやハヤブサ)のバトル、人と共存してきたスズメやツバメの栄枯盛衰、都市進出の著しいイソヒヨドリ……都市環境に適応して生きる鳥たちの、したたかな生態を解説してくれる本です。
「はじめに」には、この本の概要が次のように紹介されていました。
「本書は、筆者が、都会人と都市鳥の生活について、東京都心や千葉県市川市を中心にして半世紀以上にわたって観察してきた資料をもとにまとめたものである。本書では都市鳥の核心となる「ツバメ」「スズメ」「都会の水鳥」「カラス」「猛禽類」の5本の柱を取り上げ、序章にあたるものとして、人と鳥の関係について「ソーシャルディスタンス」を加えた。」
 この本は、都会やその周辺でよく見かける鳥たちの生態を詳しく教えてくれるだけでなく、冒頭の16ページのカラー写真でその姿も見せてくれます。銀座のビル街で暮らすイソヒヨドリ……とても美しい鳥で銀座に似合っています(笑)。ツバメがハチを脅して獲物のバッタを奪い取る瞬間の写真とか、めったに見られないような貴重な写真もあって、とても見ごたえがありました。その鳥の生態や特徴をうまく捉えた、素晴らしい写真が多いのです。しかも本文を読みながら、写真でその鳥の姿を確かめることも出来るので、解説をいっそう楽しく読むことができます。
 意外な話や興味深い話をたくさん見つけることが出来ました。そのごく一部を紹介すると、次のような感じです。
・「都心でヒヨドリの繁殖が確認されたのは1968年ごろであり、1973年には都内のほぼ全域で繁殖するようになった。わずか数年で都市進出を果たしたのである。」
・海岸の磯場を生息地としているイソヒヨドリは、岩場を止まり場、岩礁を狩場にしてきたが、都会ではビルの屋上付近を止まり場、狩場にしている。
・ツバメは飛翔昆虫のみを食べる偏食だが、スズメは何でも食べる雑食性。そのためツバメは稲作の益鳥として愛されてきたが、スズメはイネを食べる害鳥として駆除の対象になったこともある。
・ツバメはあえて人の近くに営巣する(カラスを避けるため)。道の駅や高速道路のSAにも多い。
・スズメは、ツバメよりは人から離れ、それでいて離れすぎない距離の人家周辺で繁殖する(スズメはツバメの巣を乗っ取ることもある)
・都会の水鳥には、ユリカモメ、ウミネコ、コアジサシ、カルガモ、オナガガモ、ヒドリガモ、オシドリ、キンクロハジロ、ホシハジロ、カイツブリ、オオバン、ダイサギ、アオサギ、コサギなどがいる。
・コアジサシやカモメ、ウミネコは、屋上で繁殖することがある。
・都市に多く生息しているのは、ハシブトガラス、ハシボソガラスだが、最近はミヤマガラスも関東平野で数を増やしている
・東京23区ではカラスは減少中(生ゴミが減少したため)。コロナ禍でイベントが減り、繁華街のゴミが減ったので、さらにカラスは減少している。
・都心で猛禽類が増えている(高層ビル群にハヤブサが。都市部の緑地の樹でオオタカが。)
・ハヤブサは街灯の明かりのもとで「夜間にも狩り」をするようになった
   *
 ……都会にも、意外に多くの鳥が元気に生息しているんですね。
 ところでカラスに関しては、以前より減ったような気がしていましたが、データで見ても、最も多かった1990年頃から比べると、その半分ぐらいまで減少しているようです。嬉しいような、寂しいような、怖いような(何らかの環境問題かも?)、ちょっと複雑な気持ちに……。本当に生ゴミの減少が主な原因なのでしょうか?
 本書の最後は、次の文章でしめくくられていました。
「宅地化に伴い、人々と共に暮らしていたモズやホオジロなどの人里の鳥類が姿を消した。海岸や湖沼の埋め立てによりセッカやオオヨシキリなど草原の歌い手が姿を消し、シギやチドリなどの渡り鳥の中継地、ガンやカモなどの越冬地が失われた。
 一方、都市鳥もまた、ロードキル(交通事故)や有毒食品など、人々と同じ危険に晒されている。(中略)
 その一方で、人と都市鳥は、ときに対立しつつも共存し、互いに隣人として暮らしてきた長い歴史がある。また、時代を映す鏡として人の身勝手な生き方に警鐘を鳴らす役割も担ってきた。今後も人と都市が存続する限り都市鳥も存在するであろうし、ときには想定外の鳥が都市に進出し、人と野鳥の織りなす新しい時代を切り拓いてくれるかもしれない。」
 ……『都会の鳥の生態学』。都会に生きる鳥たちの生態を通して、巨大都市東京の変貌も感じさせてくれる本でした。高層ビル群の中でも、ハヤブサなどの猛禽類のバードウォッチングが出来るかもしれないなんて……鳥たちの適応力は凄いですね。
 この本を読むと、都会のどんな環境(場所)にどんな鳥たちが多いかを知ることが出来て、散歩の楽しみが増えると思います。生物が好きな方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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