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第1部 本

防犯防災&アウトドア

防災

あしたの防災学(神沼克伊)

『あしたの防災学: 地球科学者と考える災害と防災』2022/8/26
神沼克伊 (著)


(感想)
 自然災害から身を守るためには、自然現象の起こるメカニズムと過去の災害を知ることが重要……地球科学の専門家の神沼さんが、地震、津波、火山、気象などの自然災害と、その対策を教えてくれる本で、主な内容は次の通りです。
第1章 災害から身を守る
第2章 地球とその周辺
第3章 地震災害
第4章 津波災害
第5章 火山被害
第6章 気象災害
第7章 危機管理
   *
 防災の本は多数ありますが、この本の特徴は、地球科学の知識を踏まえたうえで防災のあり方を考慮しているところ。例えば、「第2章 地球とその周辺」には、次のような解説がありました。
「八個の太陽系の惑星のうち、水星、金星に次いで地球は三番目の軌道を周回しています。太陽からは光の速さでおよそ八分二〇秒、一億五〇〇〇万キロの距離です。地球は一年かけて太陽の周囲を一回りしますが、それと同時に太陽とともに銀河系の中を秒速二〇〇キロ以上の速さで回転しているのです。」
 そして「第3章 地震災害」には、次のような解説が。
「(前略)プレートテクトニクスは地球表面の地震帯、火山帯、地形など、いろいろな変動現象が統一的に説明できる学説です。」
「日本付近では南アメリカ大陸地理沖の東太平洋海嶺付近で地表に現れた太平洋プレートが東から、またフィリピン海南部海域で生じたフィリピン海プレートが南から、日本列島にぶつかり、地球内部へと沈み込んでいます。(中略)
 日本列島もフォッサマグナと呼ばれる地溝帯の西縁、新潟県の糸魚川から、長野県の松本盆地、諏訪盆地を通り、山梨県の甲府盆地から富士川沿いに、駿河湾に達する糸魚川―静岡構造線を境に東西に分かれています。西側のフィリピン海プレートの沈み込んでいる西日本はユーラシアプレートに、東側の太平洋プレートが沈み込んでいる東日本は北アメリカプレートに属すると考えられています。その結果、首都圏付近では四枚のプレートが相接する、地球上でも特異な地域となっています。日本の首都は地球の構造上から大地震が必ず発生する地域なのです。」
「日本列島で大地震が必ず発生すると言えるのは、千島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝沿いの太平洋沿岸地域、相模トラフ、駿河湾トラフ、南海トラフ、南西諸島海溝の太平洋沿岸地域です。」
「過去四回の関東地震発生の例から、次の関東地震が起きるのは二一三〇~二一八〇年ごろと推定できます。すると首都圏で地震活動が活発になってくるのは、その一〇〇年前ごろからで二〇五〇年ごろではないかと推定できるのです。ですから私は、首都圏での直下型地震の発生は二〇五〇年ごろから、関東地震の発生は二二世紀になってからと推定しています。」
「これら(東海、東南海、南海)の地震の発生間隔は一〇〇から二五〇年程度です。したがってこの発生間隔から考えれば、次の南海トラフ沿いの地震は、早ければ二〇五〇年ごろとなるわけです。」
 ……二〇五〇年は要注意ですね! 準備しておかなければ……。
 そして個人的に一番参考になったのは、「第4章 津波災害」。初めて知ったことが、とても多かったです。その一例を紹介すると……
「(前略)逃げたことを無駄な行為とは考えないよう、日ごろから津波対策を考えておく必要があります。太平洋沿岸にすむ人にとって、津波は一生に何回か、たとえ大きな被害は伴わなくても必ず経験する現象です。」
「津波の伝搬速度は周期に関係なく、水深だけで決まります。水深四〇〇〇メートルでは時速七一三キロ(毎秒一九三メートル)、水深二〇〇メートルでは時速一五九キロ(毎秒四四メートル)ですから、大洋を伝搬する津波はジェット機の速さになります。先のチリ地震の場合は海路一万七〇〇〇キロ余りを二二時間で横断し日本に来ています。」
「津波は前触れの地震が感じられないで襲来することがあることを心の隅で覚えておいてください。」
 ……津波は一生に何回か必ず経験する現象なんですか! 海の近くに住んでいる方は、どこに逃げるかを必ず確認しておきましょう!
 また「第5章 火山被害」では、富士山の噴火に関して、次のことが書いてありました。
「噴火が発生してもしなくても行政が検討できる課題の一つが、溶岩流対策です。ハザードマップを見ると、神奈川県に達するような溶岩流は、地形の関係でかなり流れの幅が狭くなる場所があります。机上でそのような場所を調べておき、その方向への溶岩流が発生したら放水して、溶岩を冷却し、溶岩の堤防を造り、流れの方向を変えたり、その場で流れを止めるのです。このようなことは、アイスランドではすでに行われています。」
 ……そうなんですか!
 また「御代田町の浅間山火山防災マップ」はとても優れているようです。
「火山学の初歩から大規模噴火まで非常に要領よくまとめられ、このマップだけの知識でも、浅間山の火山活動はその歴史を含め、十分に理解できます。また気象庁発表の火山情報に関しても記述があります。
 さらに噴火が発生し避難しなければならない場合の心構え、普段からの準備、持ち出す品々のリストが丁寧に示されています。」
 ……このリストには、なんと「位牌」なども含まれているそうです。まさに実体験から得られた知恵が詰め込まれているんですね。
 また火山噴火の恐れがある地域は、灰の捨て方を住民にきちんと教えておかないと、実際に起きてしまったときに災害を拡大してしまいそうにも感じました。
「市街地のあちこちにまとめられた火山灰をどこに捨てるか、日ごろから灰の捨て場所を決めておかないと混乱します。」
 雪と同じような感覚で道路の溝(下水)に捨ててしまうと、下水が詰まって別の傷害を起こしてしまう……これって、やりがちのような気がするので、周知させておくべきだと思います。私も忘れないようにしようっと。
 そして「第7章 危機管理」には、地震対策として次のことが書いてありました。
「個人ができる地震対策は中地震でも、大地震でも、巨大地震でも、超巨大地震でも同じです。震度7の揺れに耐える家、自分の日常生活圏内の地震環境を知るのが基本です。(中略)
 超巨大地震に対しても個人の対策は、とにかく「自分も家族も地震で死ななければよい」と考え、地震発生時の行動を、たまには考えておくことです。」
「(前略)たまには過去の台風、豪雪、地震、火山噴火などの災害に関する情報を仕入れること、当時の本や新聞などを読むのが最も効果的だと思います。特に自分の居住している地域の図書館には、関係する災害の報告書があるはずです。(中略)そして、現在ならどうなるか、どうしたらそのような被害を食い止められるかを考えるのです。」
 ……毎年のように気象災害に、そして一生のうちに数回は津波や地震に遭遇してしまう災害国・日本の防災について、地球科学の観点から解説してくれる本でした。一般的な「防災の本」のような具体的対策(防災備蓄品リストなど)はありませんでしたが、地震や津波、火山噴火の発生の仕方、気象災害の種類などを知ることが出来て勉強になりました。自然災害に興味(や不安)のある方はぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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