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第1部 本

生物・進化

びっくり深海魚(尼岡邦夫)

『びっくり深海魚』2022/7/27
尼岡邦夫 (著)


(感想)
 世界中の海で深海魚を追い続けてきた研究者の約70年間のエピソードを凝縮! 光が届かず、食物連鎖も成り立たない深海という過酷な環境で、魚たちはどのように餌を捕まえ、外敵から身を守り、次の世代に命をつないでいるのか、そして私たち人間と深海魚はどのように関わってきたのか……深海魚の驚きの生態に迫っている本で、内容は次の通りです。
序章 深海ってどんなところ?
1章 摂餌
第2章 防御
第3章 繁殖
4章 人と深海魚
   *
 深海について面白いエピソードを含め、総合的に語ってくれる本で、フルカラーでの写真や図表もたくさんありますが、なんといっても一番目立っているのは、ゆるーいイラストたち。例えばこの「歩く深海魚」はホンフサアンコウで、その生態が次のように書いてありました。
「海底で生活するホンフサアンコウは、腹びれを立てて体をもち上げ、2本の胸ビレを少し外側によじるようにして、交互に前に出して歩きます。器用に胸ビレを足のように使っているのです。」

 この他にも癒し系の楽しいイラストや面白エピソードが満載です。
 例えば「1章 摂餌」では、大食漢のクロボウズギスのことが、「クロボウズギスの腹腔は胃袋の容積に応じて伸縮するので、口を通過してしまえばどんな大きな獲物でも胃袋に入れることができます。丸呑みした大きな獲物は、拡張して薄くなって腹部の皮膚を通して外から透けて見えます」と書いてあり、写真もありました。……本当に大きな魚が入ってて、お腹が大きくなってる(笑)……こんな格好で他の生き物に襲われたら逃げられそうにないと思うけど……深海は、太陽光線が届かないせいで植物プランクトンが生存できないために、光合成による食物連鎖が成り立たない世界という超過酷な環境なので、捕まえた獲物はどんな小さなかけらも逃さず自分の栄養にしたいという気持ち、よく分かります……。
 また獲物を丸呑みにするミズウオは……
「ミズウオの胃袋を開くと丸呑みにされたばかりのきれいな深海魚がヒレ、ウロコ、発光器など完全な状態で出てきます。ときにはその中から新種が出てくることがあります。(中略)ミズウオの胃袋は、研究者にとって素晴らしい採集器となるわけです。」
 ……深海は人間も行きにくいところなので、本当にありがたい深海魚ですね。でも……残念なことに、最近では胃袋からプラスチックなどの化学製品がたくさんでてくるそうです。深海にまで悪影響を及ぼしているなんて……なんとかしないといけませんね……。
 そして深海魚のハイライトとも言うべき(?)、チョウチンアンコウなどの光る魚たち!
「チョウチンアンコウ類のルアーは、バクテリアに発光してもらう他力発光というタイプです。そのために、ルアーの中に特別なバクテリア培養室が用意されています。10本ほどあるひも状の突起物の先端が光ります。」
「サメ類の皮膚発光器の構造は単純です。発光細胞は黒色の色素で取り囲まれているだけで、反射板はありません。その代わり外側に並んだ数個の液胞がレンズの役割を果たし、色素胞の伸縮によって光の量を調節しています。サメ類が発光するのは、餌生物を集めるためです。」
「ヒカリキンメダイは、暗い海で眼の下にある大きな発光器を点滅させながら泳ぎます。(中略)この発光器から発射する光で前方を照らし、餌を探すためのヘッドライトの働きをしています。眼後発光器の奥には、内側が反射板になっている袋があります。その袋の中にある発光細胞が光ると、反射した光が発光器の表面から発射されます。光が出てくる窓の表面にはフィルターが付いていて、光の色を変えることも可能です。筋肉や神経を使って、光を点滅させたり強さを調整したりできます。」
 へー! いろんな光り方があるんですね!
 そして「第2章 防御」の「しびれる深海魚」の仕組みについては……
「(深海でひっそり発電するシビレエイの)体盤の表皮をはがすと多数の透明な筋肉で出来た六角柱が500~1000本並んでいますが、これが発電器です。
 発電器の基本ユニットは薄い膜状の筋肉が変化した電気細胞でできており、電板といいます。電板はゼラチン質のつまった電函(でんがん)という箱の中に入っています。電函が400個ほど積み重なって六角柱状の電気柱を形成しています。電板の腹側に多くの神経があり、腹側から背側の方向に電気が流れます。放電は神経によって制御されています。電板1枚あたりの発電量はわずかですが、多数が直列につながっているので、合計すると50~80ボルトほどになります。電気ウナギの500~600ボルトにははるかに及びませんが……。」
 えー! 本当に直列の電池が体に入っているみたいな深海魚ですね……。
 こんな感じの面白エピソードが満載。一つ一つが独立した記事なので、暇つぶしに読むのにも最適です(笑)。
 そして「4章 人と深海魚」では、あまり縁がないほど遠い世界の生き物だと思っていた「深海魚」を、実はたくさん食べていたことに気づかされました。
 例えば、粕漬けの定番の赤魚は深海魚だとか、コンビニ弁当の白身魚フライや、かまぼこ原料、ギンダラの切り身、さつま揚げなども深海魚だとか、練り製品原料のスケトウダラ、回転ずしのえんがわ(カラスガレイの背びれと臀ビレを動かす筋肉)、さらにハマダイ、キンメダイ、メヌケなども深海魚なのでした……。
『びっくり深海魚』の話をゆるーいイラストとともに語ってくれる深海魚エッセイ集(?)です。面白くて、ちょっぴり勉強にもなる美味しい本なので、ぜひ読んで(眺めて)みてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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