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第1部 本

社会

デジタル空間とどう向き合うか(鳥海不二夫)

『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康の実現をめざして (日経プレミア)』2022/7/9
鳥海不二夫 (著), 山本龍彦 (著)


(感想)
 SNS上の「バズり」や「炎上」を分析してきた計算社会科学者の鳥海さんと、情報社会における人権や自由の問題を考察してきた憲法学者の山本さんが、デジタル情報空間がもたらすさまざまな課題を論じている本で、主な内容は次の通りです。
第1章 アテンション・エコノミーに支配される私たち
第2章 デマの拡散や炎上はなぜ起こるのか、誰が起こしているのか
第3章 分断を加速するフィルターバブルとエコーチェンバー
第4章 デジタル空間と言論の自由
第5章 プライバシーと尊厳はいかにして保護されるべきか
第6章 情報的健康をどう実現するのか
<巻末付録>共同提言「健全な言論プラットフォームに向けて――デジタル・ダイエット宣言version1.0」
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「はじめに」には、次のように書いてありました。
「デジタル情報空間で起きている様々な問題の根底には、アテンション・エコノミー(関心を競う経済)と人間が先天的に持つ脆弱性があります。例えば、人々は必ずしも正しい情報を求めているわけではありません。正しい情報が提示されれば、誰もが正しい考え方に至るわけではありません。正しい情報が提示されれば、誰もが正しい考え方に至るわけではありません。多くの人は賢くなりたいからではなく、楽しむために情報を得ています。」
「本書で提案する方向をひと言で言えば、情報的健康(インフォメーション・ヘルス)の実現です。情報的健康とは情報摂取のバランスをとることによって、フェイクニュースなどへの「免疫」を獲得している状態です。」
「健康に気遣って食事をする人が増えてくると、健康食品やダイエット食品など新たなビジネスが生まれてきました。同様に情報的健康を目指すことが人々のコンセンサスになってくれば、関連の産業が生まれてくることでしょう。」
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 インターネットによるデジタル空間は、私たちの生活になくてはならない存在となっていますが、その一方で、フェイクニュースやデマの氾濫、プライバシー漏洩、炎上やハラスメントなどの新しい困難な問題も起こしています。ネット上の膨大な情報は、人間の脳の処理能力を超えてしまい、自分の見たい情報しか見なくなる「フィルターバブル」や「エコーチェンバー」といった弊害も生まれていて、それが社会の分断を加速し、個人の尊重や自由、民主主義など、憲法が要請する原理原則を脅かしているのです。
 技術進歩がもたらす便益を享受しつつ、健全な情報空間をどう再構築するかは、早急に対処しなければいけない問題だと痛感しています。
 ……でも残念ながら、そんな現状への特効薬はないのです。本書では次のように書いてありました。
「フェイクニュースの氾濫といった問題状況をみると、国家が言論空間に対して「何もしないこと」は、民主主義の危機をかえって高めてしまうようにも思えます。」
「重要なのは、ユーザー一人ひとりが、病理現象に対する「免疫」を作ること(情報健康)、そして、情報的健康を享受できる環境--異なる個性をもったメディアが多元的に存在し、個人がさまざまな情報にアクセスできる環境--を、国家が再構築することです。」
 ……なるほど。確かに「健康」と同じように「情報」も、国が「より良い状態」に向かうよう環境を整えることが、今は必要とされているように思います。
 本書には、政府の基本原則として次のことが書いてありました。
1)「情報的健康」に向けた取り組みを「側面」支援する憲法上の責務
2)政府の直接介入・過剰介入の禁止
3)DPF(デジタル・プラットフォーム)事業者の透明性・説明責任の担保
4)公正・公平な取引環境の整備
5)情報リテラシー教育・啓発活動の実施
 また、プラットフォーム事業者に求められることとしては、次のことが。
1)フィルターバブルによる弊害の抑止(プロファイリングに基づかない少なくとも一つのレコメンダー・システムを提供する、など)
2)フェイクニュース対策
3)例外時における公共的アルゴリズムへの切り替え(選挙モード、災害モード、パンデミック・モード、未成年保護モード、有事モード)
4)透明性の確保(アルゴリズムやパラメーターの透明性)
5)情報的健康のための積極的な取り組み
6)責任体制・ガバナンス
 ……とても大事なことを提言してくれているように思います。そして、この提言などの活動は、次のような啓蒙思想2.0プロジェクトの一環だそうです。
「啓蒙思想2.0とは、要するに、人間が弱き動物的存在であることを正面から認め(その点では認知科学の発展を支持し)、それにもかかわらず、人間が人間らしい合理的な判断を成しえるための仕組みないし環境を共同で構築しようというプロジェクトなのです。」
 フェイクニュース、プライバシー漏洩、炎上、フィルターバブル、エコーチェンバー……デジタル空間には困難な問題が山積みですが、啓蒙思想2.0のような動きで、より良い環境に変えていけると良いなと思います。本書には、次のようにも書いてありました。
「あえて解決の方向を示せば、動的平衡点を探すということかと思います。(中略)「理想的な状態」があるかはわからないため、常に問題を解決していくことによって新しいシステムを作り続け、許容可能な状態が持続できるようにすることが必要かもしれません。」
 ……変化が急激すぎて「理想的な状態」が何かも判然としない現状ですが、少なくとも現時点で「問題がある状態」は改善していくよう、私自身も努力したいと思います。
 そのために何をすべきかを考える上で、とても参考になる本でした。もちろんこの他にも、勉強になること考えさせられることが、数多く掲載されています。みなさんも、ぜひ読んでみてください。(なお、<巻末付録>共同提言「健全な言論プラットフォームに向けて――デジタル・ダイエット宣言version1.0」は、本書で主張している内容が、整理された形で盛り込まれているので、時間がない方は、この部分だけでも読んでみてください。)
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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