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第1部 本

科学

不確実性を飼いならす(スチュアート)

『不確実性を飼いならす 予測不能な世界を読み解く科学』2021/11/5
イアン・スチュアート (著), 徳田 功 (翻訳)


(感想)
 不確実な未来を、科学は予測できるのか? ……異常気象や地震、コロナウイルスのパンデミック、さらには株価の暴落まで、この世は先の見通せないことばかり。そんな世界を生き抜くために生み出されたのが、確率論や統計学、カオス理論、量子力学といった「不確実性を読み解く科学」。いまや現代社会に欠かせない不確実性の科学は、いかにして生まれ、どのように利用されているのか? を丁寧にじっくり語ってくれる本です。
「訳者あとがき」に分かりやすい簡潔なまとめがあったので、それを紹介します。
「本書を通底する概念は「不確実性」である。日々変わる天気、唐突に崩壊するバブル経済、先行きの見えない感染症の蔓延、世界各地で頻発する以上気象とそれに付随する災害など、私たちの日常は不確実性で溢れている。このような予測のつかない世界を生きる術として、人間がどのような科学的手段を生み出してきたかが、6世代(神に支配される世界、自然を予測できると期待された科学、確率論と統計学、量子力学、カオス理論、不確実性の応用)に分けて描かれている。コインやサイコロを例にした確率論の基礎から始まり、直感と食い違う条件付き確率、理不尽な裁判の判例、統計学の概念を世に広めた「平均人」の概念、繰り返される金融問題、迷信や偏見から逃れられないベイズ脳、迫り来る気候変動の危機など、各世代の話題は読者を魅了して離さない。」
 この本は、私たち人間が、私たちを取り巻く複雑な状況をいかに理解しようとしてきたかについて、科学的(数学・物理学的)な方法を中心に語ってくれます。
 神による説明に始まって、古典科学から量子力学、カオス理論まで……その歴史的経緯を知ると同時に、確率・統計、量子、カオスなど、不確実性を解き明かすための概念や方法についても学ぶことが出来ました(残念ながら、すべてを理解できたわけではありませんでしたが……)。
 この本を通して感じたことは、そもそも私たちの世界は「複雑性」「不確実性」で出来ているのだということ。
 量子力学によると、「単一の放射性原子の量子状態は、そのとき観測されていなければ、「崩壊していない」状態と「崩壊した」状態の重ね合わせに」なるそうです。これに対して「古典力学に従う系はこのような振る舞いをせず、状態を明確に観測することができる」ようですが、これらは、そもそも矛盾していないのでは? と感じました。
 私たちの世界はもともと量子的なスケールでは量子力学に支配される「奇妙な状態」にあるのですが、大きな(人間的な)スケールになると、古典力学でも説明できるというだけなのでしょう(細かい部分が誤差として切り捨てられるので)。
 たとえていうなら、リアス式海岸地帯の海岸線は、その「長さ」すらどう測れば正しいのか分からないのに、細かいでこぼこをアバウトな形にすることで地図に描くことは出来ます。それがあるおかげで、国土の姿が理解できるだけでなく、旅行も楽になる、という感じでしょうか。細かいことを正しく理解することはとても大事ですが、「ざっくり」理解できれば十分「使い物になる」のです。「正確さにこだわり過ぎて」地図を描けずにいるなら、そもそも国土がどうなっているのかを、ほとんど理解できないままでいるしかないでしょう。
 だから古典力学でも十分「使い物」になるわけですが、それでとどまらず、カオスや量子力学の世界にまで踏み込んで「不確実性」を深く理解しようと努力してきたことが、私たちをさらなる高みへと導いてくれたことは、最近の天気予報がよく当たるようになってきたことでも明らかだと思います(笑)。とてもありがたいことですね……。
 また「不確実性」を「正確に理解すること」はそもそも不可能なのかもしれませんが、それなりに「読み解く」ことは出来るのかもしれません。本書には次のように書いてありました。
「物理学者は、物質が微小なスケールでは、独自の意思を持つことを認めるに至った。粒子から波へ、ある放射性元素からまったく別の元素へと変化することを、物質は自発的に決定できる。外からの働きかけは必要ない。ただ変わるだけだ。規則もない。」
「問題は、量子のランダムネスがどこに起因するかだ。正統派の見方では、それは何にも起因せず、ただ存在するのだと考える。もしそうならば、なぜ量子的な事象はあれほど規則正しい統計性を示すのか、というのが問題になる。すべての放射性元素には正確な「半減期」がある。放射性元素は、どんな長さの半減期になるべきかをどのようにして知るのだろう? 何が崩壊するタイミングを教えてくれるのだろう? それをすべて「偶然」で片づけるのは結構なことだが、一般に偶然とは「事象を生み出すメカニズムについて無知であること」や「そうしたメカニズムに関する知識にも続いて数学的に推論した結果」を表す。これに対して量子力学では、偶然がメカニズムそのものなのだ。」
 ……「量子的な事象はあれほど規則正しい統計性を示す」なら、少なくとも「不確実性」のなかに「使える部分」を見つけることが出来るでしょう。
 個人的に、量子力学は「わけが分からない」学問という気がしていましたが(苦笑)、もしかしたら量子力学こそが、本来の「自然」そのものなのかもしれません。
 そんな量子力学の分野で、新たに分かってきたこともあるようです。次のようなことが書いてありました。
「現在では、ハイゼンベルクの説明に反して、不確定性原理で表される不確定性は観測者効果によって生じるわけではないことが判明している。2012年に長谷川祐司らは、中性子群のスピンを測定し、観測行為はハイゼンベルクの示した量の不確定性を生みださないことを発見した。同じ年に、エフレイム・スタインバーグの率いるチームは、光子群に対して非常に精巧な測定を行い、個々の光子の不確定性が、不確定性原理が規定する量よりも小さくなることを示した。ただしそれでも、ハイゼンベルクの不等式は正しいままである。というのも、光子群を合わせた状態に関する不確定性を考えると、ハイゼンベルクの限界を依然として超えているからだ。(中略)
 この実験は、不確定性を生みだすのは必ずしも測定する行為ではないことを示している。不確定性はすでに存在しているのだ。」
「観測」するまで「不確定」ってわけじゃなく、もともと「不確定」なんですか……。
 世の中は「不確定性」に満ちていますが、私たち人間が、それを理解するための努力を続けてきたことを教えてくれる本でした。そしてこれからも、そう努力することが未来を切り開くことに繋がっていくのでしょう。本書の最後は、次のように結ばれています。
「「知らないことを知らないこと」は依然として私たちを悩ませている(プラスチックごみが海洋を汚染していることに遅ればせながら気づいたという失態を見ればそれがわかる)。それでも私たちは、世界が想像するよりもはるかに複雑で、すべてが相互に関連していることに気づき始めている。さまざまな形式と意味を持つ不確実性が、毎日新たに発見されていく。未来は不確実であるが、不確実性の科学は未来の科学なのだ。」
「不確実性」をめぐる人間の努力や科学を語ってくれる本でした。とても参考になるので、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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