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第1部 本

医学&薬学

ウイルスの進化史を考える(武村政春)

『ウイルスの進化史を考える ~「巨大ウイルス」研究者がエヴィデンスを基に妄想ばなしを語ってみた』2022/3/24
武村 政春 (著)


(感想)
「ウイルスは何から進化したのか?」について、エビデンスをもとにした科学的空想を披露してくれる本で、内容は次の通りです。
第1章 ウイルスとは何か
1. ウイルスの基本的な構造
2. ウイルスの感染と生活環
3. ウイルスの分類
4. ウイルスの進化
第2章 RNAウイルスの進化史
1. RNAヴィローム仮説
2. カプシドのないRNAウイルスの進化
3. インフルエンザウイルスの進化
4. 蚊が媒介するウイルスの進化
5. エボラウイルスの進化
6. コロナウイルスの進化
第3章 DNAウイルスの進化
1. 原核生物ウイルスの進化
2. ヘルペスウイルスの進化
3. 「膜あり」ウイルスの進化
4. ミミウイルスの進化
5. メドゥーサウイルスの進化
6. パンドラウイルスの進化
第4章 レトロウイルスの進化史
1. レトロウイルスの進化
2. 免疫不全ウイルスの進化
第5章 ウイルスの起源
1. 化学進化と「ウイルスもどき」
2. 細胞の誕生
3. RNAウイルス、誕生
4. RNAウイルスの多様化
5. DNAウイルス、誕生
  *
 この本の「はじめに」には次のように書いてありました。
「(前略)「ウイルスの進化」をメインに扱った本はない。その理由はおそらく簡単で、ウイルスの進化を研究する研究者がそれほど多くないことに加え、その進化のあらましの正確なところを、じつは誰も知らないからである。」
 この本は「巨大ウイルス」研究者の武村さんが、ウイルスの進化史を妄想している本ですが、もちろんただの妄想だけではなく、ウイルスに関する最新の知見などを分かりやすく説明してくれつつ妄想話に発展していくので、とても勉強になりました。
 この本のメインテーマである「ウイルスの進化史」については、「妄想」と言っているので、ここではあえて紹介しませんが、個人的にとても面白かったレトロウイルスに関する部分を以下に紹介させていただきます(この部分は妄想ではありません)。
「とにもかくにも、自分のRNAからDNAをつくり、そのDNAを宿主のゲノムに放り込んでおいて「知らん顔」をする。これがレトロウイルスの特徴であると思えばよい。」
「レトロウイルスがRNAウイルスと大きく違う点は、(中略)感染した宿主の細胞内で、自身のゲノムRNAを鋳型としてDNAを逆転写に、さらにそれを二本鎖にした上で、宿主のゲノムDNAに組み込んでしまうということ。こうして組み込まれたウイルスDNAを「プロウイルス」といい、いわゆる潜伏感染の状態となって、あるものは長期間そのままの状態が維持され、あるものは比較的短期間のうちに再びプロウイルスからRNAが転写され、そして複製されて子どもウイルス粒子が形成され、多くの場合宿主細胞を殺して外へと放出される。」
 このプロウイルスには、次の二つの利点があるそうです。
1)宿主のゲノムのなかに「潜んで」しまうことで異物と認識されなくなり、宿主の防御反応から身を守れる。
2)宿主細胞が生息している環境が、自分の複製・飛び出しに都合のいい状態になるまで待つことができる。
この二番目の「待つ」戦略をつかって「のんびり待ちすぎて」、ウイルスとして外に飛び出せなくなったのものがいて、それが「内在性レトロウイルス」なのだとか。この内在性レトロウイルスは、なんと「かなりの割合でゲノムに存在することが明らかになっていて、僕たちヒトゲノムの少なくとも一割は、内在性レトロウイルスであるとさえ言われているほどだ。」そうです。
「(前略)ほとんどの内在性ウイルスは遺伝子として機能していないが、(中略)なかにはすっかり僕たち生物のゲノムの一員としてはたらき、その機能も分かっているものもある。その代表が、「発達した神経系」、「おへそ」そして「皮膚の保湿機能」にかかわる遺伝子なのだ。」
 ……えええ! かなり重要な遺伝子がレトロウイルス由来なんですね!(ちなみに「発達した神経系」は、長期記憶に関わっていることが示唆されているアークと呼ばれる遺伝子で、「おへそ」は胎盤形成のために働く遺伝子だそうです。)
「(前略)全体的に見てみるとレトロトランスポゾンは、じつは僕たち脊椎動物の機能に重要なはたらきを担うさまざまな遺伝子の供給源になってきたことが分かる。」
「一体生物とはなんだろう。ウイルスとはなんだろう。そんな問いかけがばかばかしく思えてしまうほど、生物とウイルスは小さな部分で大きくつながっているし、実際、過去から未来にかけて、途切れることなく密接につながってきたのである。」
 ……腸内細菌など私たちの体内には驚くほど大量の細菌が共生しているようですが、ウイルスはすでに私たちのDNAの一部になっているんですね……。
 しかもなんと現在進行形で、レトロウイルスの内在化が進行しているものがあるそうです。それはコアラが発症するリンパ系腫瘍の原因となっている「コアラレトロウイルス」で、全ゲノムが解読されているのだとか。
「(前略)レトロウイルス内在化の特徴は「粒子を生産できない」ところにあるが、コアラレトロウイルスは、内在化している個体群が見つかった一方で、粒子として生産され、増殖するウイルスも見つかっている。」
 ……まさに現在、外在性と内在性が混在している状態で、内在化の過程をリアルタイムに見せてくれているコアラレトロウイルスは、私たちに新しい知見を与えてくれるかもしれません。ウイルス研究の進展を期待したいと思います。
 ウイルスがどう進化してきたかの妄想を、科学的根拠とともにユーモアを交えて語ってくれる本でした。専門的な用語も多くて、正直言って、きちんと理解できたわけではありませんでしたが、興味津々でどんどん読み進めてしまいました。科学的根拠がある妄想(仮説)がたくさん書いてあるので、もしかしたら研究者の方にとっては、この中から自分の研究に活かせるヒントを拾えるかもしれません。医学や生物学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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