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第1部 本

描画参考資料

見て・考えて・描く自然探究ノートーネイチャー・ジャーナリング(ロウズ)

『見て・考えて・描く自然探究ノートーネイチャー・ジャーナリング』2022/4/28
ジョン・ミューア・ロウズ (著), 杉本 裕代 (翻訳), 吉田 新一郎 (翻訳)


(感想)
 自然の中で見たり聞いたり拾ったりした事や物を、絵と文章で綴るアメリカ発の自然観察記録が、「ネイチャー・ジャーナリング」。その方法を詳しく教えてくれる本です。
 本書の最初の方には、次のように書いてありました。
「すべての分野のライター、ナチュラリスト、科学者は、ジャーナル(記録帳)を使用して、彼らが仕事の過程で見たこと、行ったこと、考えたことを記録に残しています。ジャーナルは私が野外に持っていく最も重要なツールです。」
「この本はまず、いかに自然と出会い、観察し、発展させるかを学ぶのに役立つ実用的な方法についてお伝えします。その後に続く各章では、材料や道具の選択方法に関する情報が続きます。」
 ……ということで、まずは「いかに観察するか」。それをほんの少しだけ紹介すると次のような感じ。
「私は、「気づいたことは……」「不思議だな……」「連想するのは……」というフレーズを使って、観察と探求に集中します。これは、私の最も重要な習慣です。」
「誰が、何を、どこで、いつ、どのように、そしてなぜ、という疑問文が、科学者にとっても、ジャーナリストにとっても、同じように役立ちます。それらを使って、様々なタイプの情報に焦点を合わせてください。」
 そして実例として、ドングリキツツキを観察したときの様子が書いてありました。その冒頭部分は、次のような感じ。
「(前略)ドングリキツツキは、家族で棲んで、どんぐりを穀倉となる貯蔵木に保管し、他の動物から自分たちの食料を守っています。
 あなたがその棲みかを見つけたと仮定しましょう。キツツキを見ていると、観察した内容が疑問へとつながっていきます。一羽のキツツキが幹に穴を開けるとき、目元の薄いヒラヒラしたものに気づきます。「つつくくたびに目を覆ってしまうのか?」とあなたは疑問に思います。望遠鏡を通して見ると、キツツキがくちばしで穴を開けるときに、目を覆っている薄い瞬膜、または内側のまぶたに気がつきます。他の鳥でもこの膜を観察できます。膜は常に広がっているのではなく、より強い衝撃や飛んでいる木くずに関連しているようです。この観察研究では、自然から直接学びを得ることができたのです。
 次に、木の根元には、どんぐりが保管されていないことに気づきました。(後略)」 
 ……こうして「なぜ?」を追究しながら、じっくり観察していくのです。その探求は、次のように行います。
1)考えられる説明、仮説のリストを作る
2)検証可能な仮説を、実際の観察内容と照らし合わせて検証する
3)予想を検証する(必要なら実験する)
 ……なるほど。一般的な科学的手法とほぼ同じなんですね。
 そして観察のメモには、「場所の概略図、位置情報、日付、天気アイコンを含めよう」とか、「生態スケッチにはスケールを表示する(実物大かどうか)」、「解説図を作成する(データを正確に記録することが必要。ジャーナルには解説図の美しさと、情報の密度と明快さの両方が必要)」など、観察で役に立つアドバイスが、美しいイラストとともに、たくさん描いてありました。
 ロウズさんの「好奇心探求キット」には、短焦点コンパクト双眼鏡、拡大鏡、拡大箱(生きている昆虫を観察するための透明のプラスチックの箱で拡大鏡を組み込んだもの)、小型ポケットナイフ、角度計、小さな定規、巻取り式の巻き尺、腕時計、コンパス、スティックのりとカット済透明テープ(鳥の羽、葉脈、切符など興味深いものを貼り付けるため)などが入っているそうです。
 また「スケッチの必須アイテム」には、鉛筆(コピー機で写らない(ノン・フォト)ブルーペンシルがあると、下描きをするのに便利)、シャープペンシル、水彩鉛筆(色鉛筆のようにスケッチできるが、湿ったブラシで撫でると水彩画のような色合いになる)、練消しゴム、ペン型細密消しゴム、プラスチック消しゴム、擦筆(鉛筆などの描線をぼかす棒状の道具)などがあるのだとか。
 そして後半は、自然の描き方。動物、植物、昆虫から、風、雲、景観まで、自然をどのように見て、感じ、記録すればよいのかを、ステップバイステップのイラストで分かりやすく解説してくれます。この部分だけを見ると、これは「自然の描画の仕方」を教えてくれる美術技法の本だとしか思えないほどの充実っぷり! すごく実践的に使える描画法です!
 例えば「明度の確認」については、明度を確認する方法の一つは「目を細めること」、もう一つの方法は「赤いフィルターを使用して色美濃わずらわしさを取り除くこと」。
 そして「絵の具の選び方」については、「赤、黄、青が色の三原色とされているが、この色の絵の具を混ぜると、くすんだ色になってしまうものがある。原色には、シアン、イエロー、マゼンダの三色を使った方が良い。これらを混ぜると鮮やかな二次色が混色で作れるが、三つすべてを混ぜ合わせると、くすんでしまうので注意。」などの実践的アドバイスがあります。
 さらに、自然のさまざまなものの描き方についても、イラストで丁寧に解説してくれるのです。その内容は、以下のようなもの。(細部―細部と質感、奥行きを表現する方法、構図、継ぎ足しの構図―猛禽類の場合、手間を省くための知恵、樹木を描く――近くから、遠くから、円柱と等高線、ドーナツ状の物体の等高線、うねる枝ぶり、枝の影、平行に走る縦の割れ目、樹皮と枝の形、前から後ろへの分岐、針葉樹のスケッチ、ベイマツの描き方、オークの描き方、「木を描く」ことの再考、風景の描き方、小さな風景画v ミニ風景画のバリエーション、岩とは、縁と平面でできているv 丸みのある岩、地面から突き出た岩の描き方、山々をスケッチする、山の風景の描き方、草原の輝き、オークの森の描き方、針葉樹林の描き方、滝、水を描く、水彩で海の波の広がりを描く、砂浜の波、打ち寄せる波を水彩で描く、波と岩を水彩で描く、雲を見る、様々な空を水彩で描く、ウェット・イン・ウェット技法で空を描く、鉛筆で雲を描く、夕暮れ、山際の夕暮れの描き方)
……これらは美術を学んでいる学生さんにも、すごく参考になりそうです。
 ネイチャー・ジャーナリングとは、ナチュラリストたちが、絵や文章を通じて世界に向かい合うための方法の総称で、小さな発見を理論的に深める思考方法であり、思考を記録するための実践的な活動だそうです。この本は、ナチュラリストになるための最良のハウツーガイドだと思います。
 表紙のような美麗なイラストが満載で、眺めているだけでも癒されます(フルカラーです)。しかも自らのテクニックを本当に惜しげもなく披露してくれるので、参考になるヒントをたくさんもらえました。自然が好きな方には、お宝になりそうな素晴らしい本です。科学者として自然を愛する方にも、芸術家として自然を愛する方にも、とにかく自然が好きなだけの方にも、ぜひ読んで欲しいと思います。だんぜん、お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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