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第1部 本

描画参考資料

中世ヨーロッパ城郭・築城歴史百科(フィリップス)

『[ヴィジュアル版]中世ヨーロッパ城郭・築城歴史百科』2022/2/18
チャールズ・フィリップス (著), 大橋 竜太 (監修), 井上 廣美 (翻訳)


(感想)
 中世ヨーロッパの城郭を、その構造から生活の細部にわたるまでフルカラーの写真や図版とともに詳細に解説してくれる本です。なんと実際に「中世の城」を新築し、それで得られた知見も含めて紹介してくれるのです。まさに城郭の全てが凝縮された『中世ヨーロッパ城郭・築城歴史百科』です。
「日本語版監修者まえがき」には、次のように書いてありました。ちょっと長いですが、本書の特徴がよく分かるので、以下に紹介します。
「本書では、中世の城についてのさまざまな角度からの知見を、城を建設する段取りにしたがって項目ごとにまとめると同時に、学術的な解釈にもとづいておこなわれているフランスのブルゴーニュ地方のゲドロン城の建設プロジェクトの詳細を描写している。(中略)
 ゲドロン・プロジェクトは、中世の城郭建築の平面をもとにした「再現」ということになる。根拠となっているのは、中世以降、幾度もの改造をされながら邸宅として用いられていた歴史的建造物の下に残っていた基礎の一部である。そして、近隣に敷地を得て、整地をし、新たに基礎を建設し、その上に中世の城を建設した。そのため、これまでの文化財建造物の保存といった観点では、中世の状態を保っている部分はほとんどなく、さほど高い評価を受けないかもしれない。
 しかし、このプロジェクトには別の学術的価値がある。それは、材料、構法、技術、さらには道具までをも中世にこだわっている点である。現代技術はいっさい使わず、人力と馬のみで城を建てる。重機などの建築機材も使わず、中世の道具を再現し、それを用いる。材料も中世の運搬事情を考慮にいれ、周囲5キロメートル以内で入手できるもののみとする。この原則のもと、中世の城郭建築を新たに建設した。(後略)」
 ……実はこのプロジェクト、フランスのサン・ファルジョー城の所有者が、城の修復中に城壁の下に13世紀の城跡が埋まっているのを知ったことをきっかけに、その「再現」が始まったのだとか。
 ゲドロン城の築城は、フィリップ2世様式に従っていますが、この「フィリップ2世様式」とは、築城の時間と費用を削減して数多くの城を短期間で効率的に建造できるようにするため、フィリップ2世が13世紀初め頃に導入した城郭の規格だそうです。
 本書の「はじめに」には次のように書いてありました。
「ゲドロン城は1997年5月に着工した。25年かけて完成させる予定だ。13世紀と同じように、毎年冬の間は工事を中断し、3月に再開して春から秋が築城シーズンとなる。年間30万人以上が見学に訪れており、その入場料がプロジェクトの資金となっている。」
「本書は、11世紀から14世紀にかけてイングランド、ウェールズ、スコットランド、フランスで建造された有名な城についての既存の知識に、ゲドロン城プロジェクトから得た設計と建造についての貴重な知見を組み合わせて解説している。」
 ……ということで、これ以降では、城の各部の情報(構造や築城の方法など)をフルカラー写真や図版とともに詳しく解説してくれます。多な内容は次の通りです。
第1章 バービカンと堀
第2章 ゲートハウス、城塔、跳ね橋
第3章 カーテン・ウォールとバトルメント
第4章 ベイリー
第5章 キープ
第6章 私室と居住空間
第7章 大ホール
第8章 礼拝堂とその他の建物
第9章 厨房と菜園
   *
 なおバービカンとは城門の外側に作られた防衛施設で、バトルメントは狭間胸壁(防御用壁体)。ベイリーは城壁に囲まれた中庭で、キープは天守(グレートタワーあるいはドンジョン(塔状の要塞))だそうです。

 ゲドロン城プロジェクトでの築城の詳しい様子だけでなく、他の城での例も含めた各部の解説があり、すごく読み応えがありました。中世の食糧事情などについても具体的な説明があって、その生活の様子がかなりリアルに想像できるので、絵画や物語を書く際の参考資料としても、とても役に立つと思います。巻末には用語集もあります。
 ところで、ゲドロン城はまだ完成していないようです。「あとがき」によると、ゲドロン城は今後も工事が続く予定で、築城チームは城を建設するだけでは終わらせず、中世の城下町を造ろうという計画が進行中だそうです。凄いですね……楽しそう☆
 巨額の費用がかかるプロジェクトですが、「生きている考古学」として中世の城郭に関するさまざまな知見が得られるだけでなく、地元の観光資源としても貢献してくれる(しかも観光収入で築城を続けている)素晴らしい活動のようです。日本でも、どこかの城でやってみる価値があるかもしれません。日本の古代都市・平城京や、朱里城の復元も、このような方法を使ってみるといいのかも……。
 中世の城に関する素晴らしい『中世ヨーロッパ城郭・築城歴史百科』です。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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