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第1部 本

音楽

作曲の科学(デュボワ)

『作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」 (ブルーバックス)』2019/9/19
フランソワ・デュボワ (著), 井上 喜惟 (監修), 木村 彩 (翻訳)


(感想)
 フランスで最も栄誉ある音楽勲章を最年少受章したデュボワさんが、一般の人向けに、音楽や作曲の基礎をわかりやすく教えてくれる本で、内容は次の通りです。
第1楽章 作曲は「足し算」である──音楽の「横軸」を理解する
第2楽章 作曲は「かけ算」である──音楽の「縦軸」を理解する
第3楽章 作曲のための「語彙」を増やす──楽器の個性を知るということ
第4楽章 作曲の極意──書き下ろし3曲で教えるプロのテクニック
   *
 本書の「はじめに」には次のように書いてありました。
「作曲家が譜面に何をどう記し、そのときどのようなことをかんがえているのか? 曲作りの「しくみ」と「原理」を、音楽の理論的な知識をまったくもたない人にも理解していただけるよう、本書は書かれました。」
「第1楽章では、作曲技術を向上させた立役者である「楽譜」の誕生と進化の歴史をたどりながら、数学としての音楽の基礎である「足し算」について紹介します。(中略)
 第2楽章では、楽曲の魅力を倍増させるための「かけ算」について紹介します。(中略)
 第3楽章は、私自身のさまざまな音楽体験を交えつつ、「楽器の個性」について語り、最終第4楽章では、本書のために新たに書き下ろした3曲を例に、プロの作曲家が楽曲に込める意図や、それを実現するためのテクニックについてご紹介します。」
   *
 ここで、音楽の「横軸」、「縦軸」とは、五線譜の横と縦で、次の意味ことを意味しています。
「(前略)音楽はまず時間軸方向の次元=「横軸」によって構成され、次に「縦軸」によってその響きをより豊かなものにしています」。
 ……この縦軸は「ハーモニー」のことのようです。
「第2楽章 作曲は「かけ算」である──音楽の「縦軸」を理解する」では、「対位法」と「和声法」の説明がとても分かりやすかったので、以下に少しだけ紹介します。
「17世紀以降に台頭してくる和声法は、対位法よりも歴史が新しく、連続する和音に沿って一つのメロディが書かれていくしくみです。一方の対位法は、複数のメロディが独立して存在し、それぞれに独自のポジションを確立しながらも、ときにはそれらを重ね合わせて複雑な音色やリズム構成を聴かせることに特徴があります。
 今でこそ「主旋律としてのメロディ」と、「それを副次的に支える伴奏」の概念がそれぞれに確立しているため、この二つを聴き分けることはかんたんになっていますが、10世紀ごろまでは伴奏どころかメロディを複数重ねるという概念さえ存在せず、声部は単独のメロディだけでした(=モノフォニー)。その一つのメロディが良ければ良い音楽とされるほど、単純な話だったのです。
 時代の流れとともにモノフォニーからポリフォニーへと、曲作りの中心が移行していきます。ポリフォニーで複数のメロディを重ねるアイデアが登場すると、こんどは音どうしが変にぶつかりあって耳障りな音にならないようなルール作りを始めるわけですが、それが対位法なのです。
 対位法で作られた曲には伴奏が存在しないため、すべてのメロディが等しく美しいのが特徴です。そして、いくつものメロディを重ねていくうちに、少しずつ「音の重なりの定番」ができあがっていきます。
 この「音の重なりの定番」が、やがて和音の「素」となり、和声法という新たな曲の構造が登場するきっかけを与えるのです。」
 ……個人的には「対位法」の方が難しいように思っていましたが、音楽の歴史的には、先に生まれていたんですね。意外でした。
 また「縦軸の響き」では、例えば、ドとドが「完全1度」、ドとファが「完全4度」、ドとソが「完全5度」のように呼ばれているという部分で、「ドとド」「ドとソ」はともかく、「ドとファ」が「完全4度」?と違和感を覚えてしまったのですが、それに関しても、次のように説明されてしました。
「音の組み合わせとしてはやや中途半端に見えるのに「完全」という名称がついているのは、この4度の開きが音の響きとして「パーフェクト」であるという意味が込められているからです。」
「ところで、先ほど、「完全」という名称がついている音程には、音の響きとして「パーフェクト」であるという意味が込められているという話をしました。では、いったい何をもって「完璧な音の響き」というのでしょうか?
 それを決める基準こそが、古代ギリシャ以来、中世まで受け継がれてきた価値観なのです。当時の感性と耳によって「これが完全な響きをもつ度数である」と決めてしまったものなので、現代的な感覚で聞いてみると(あるいは個々の感性の違いによって)、「完全」という表現に違和感を覚えるかもしれません。
 なかには「全然完全じゃない!」と感じる人もいるかもしれませんが、あくまでも古代ギリシャから中世にかけての感性によるものなので、大目に見てやってください。」
 ……ああー、そういうことだったんですか。納得……(笑)。
 最後の「第4楽章 作曲の極意──書き下ろし3曲で教えるプロのテクニック」では、一般人向けの作曲講座として、まず「教会旋法」にチャレンジしようとあったので、「教会旋法」だなんて、いきなりそんな難しそうな……とビビッてしまったのですが、その後に「教会旋法の最大の特徴は、ピアノであれば白鍵だけを使った音階であることです。」と書いてあって、なーんだ、そうだったの、と安心しました。「教会旋法」か、いい表現ですね!(笑)
 ここでは書き下ろしの3曲を事例に、簡単な作曲の仕方を実践的に学べます。……といっても、作曲部分を読むときには、ピアノがあった方がいいので、ピアノや他の楽器を少しは習ったことがない人だと、ここを読むのはちょっと大変かもしれません。
『作曲の科学 美しい音楽を生み出す「理論」と「法則」』というタイトルだったので、音楽を本格的に学んだ人向けの本かもしれないと思って、おそるおそる読んだのですが、趣味で楽器を弾いたり音楽鑑賞をしたりしている程度の一般人向けの本でした。(音楽専攻の方には、物足りない内容のようです。)
 ここで紹介した以外にも、ユーミンの「春よ、来い」は、日本の伝統的音階の「ヨナ抜き音階(長音階ではファとシ、短音階ではレとソを抜いた音階)」で作られているとか、作曲する側の「曲展開」などの意図や効果を取り払って、聴く側の感性で自由に音の空間に漂うことができる音楽が「メディタミュージック」だとか、興味深い記事が他にもたくさんあります。
 ちなみにこの「メディタミュージック」……人は音楽を聴くとき「覚えやすい」メロディを期待するのですが、メディタミュージックにはそういう要素がいっさいなく、それに気づいた人の脳は、別のモードに切り替わりはじめるそうです。
「期待が満たされないあきらめとともに、今ここにある音環境を受け入れはじめ、それが深いリラックスモードを作り出します。」
 ……あの「覚えられない」不思議なもどかしさのある音楽(メディタミュージック)は、そういう方法でリラックス効果を与えてくれていたんですが……。
 音楽の「理論」と「法則」を学ぶための「とっかかり」を与えてくれる音楽(作曲)入門の本でした。音楽が好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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