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第1部 本

医学&薬学

オートファジー(吉森保)

『生命を守るしくみ オートファジー 老化、寿命、病気を左右する精巧なメカニズム (ブルーバックス)』2022/1/20
吉森 保 (著)


(感想)
 2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典氏と共にオートファジーの研究に携わり、この分野の第1人者としてオートファジーの役割やさまざまな病気や老化などとの関連を解明し続けている吉森さんが、この細胞の驚きのメカニズムを詳しく解説してくれる本です。
 私たちの体内では、タンパク質の分解と合成が毎日繰り返されていますが、その細胞のリサイクルシステムとも言えるしくみを担う主なものにオートファジー(自食作用)があります。オートファジーの発見自体は1950年代とかなりさかのぼりますが、生命にとって非常に重要な役割を果たしていること、そして、さまざまな病気と関係があることがわかってきました。
「オートファジーは、オルガネラ間の物質輸送システムであるメンブレントラフィックの一部である。」そうです。
 メンブレントラフィックにも主要な経路があり、それが「分泌経路(細胞の中から外へ)」「エンドサイトーシス経路(細胞の外から中へ)」「生合成経路(分泌とエンドサイトーシス経路をつなぐ)」そして「オートファジー(細胞の中からリソソームへ)」経路の4つなのだとか。
 そしてオートファジーの主要な機能には、次の3つがあるそうです。
1)細胞成分の分解による栄養源の確保
2)細胞成分の代謝回転
3)有害物の隔離除去
 ……オートファジーは栄養源を確保する(食べたものから得られるタンパク質の材料はほんのわずかで、ほとんどは細胞の中のタンパク質をオートファジーで分解してアミノ酸にすることで作られている)だけでなく、代謝や免疫機能も果たしているんですね。
「なんでも包み込んでリサイクルしている」と言われてきたオートファジーですが、吉森さんたちは、有害な細菌などを「選択的に包み込む」選択的オートファジーを見つけたそうで、細胞内に侵入してきた細菌はオートファゴソームに包まれて分解されて死んでしまうそうです。この場合はオートファジー(自食作用)ではなく、ゼノファジー(異物分解)と言うそうですが……生物は免疫細胞の助けを借りずに有害物を排除できるんですね。凄いぞオートファジー。次のように書いてありました。
「細胞は、中の成分を分解して同じものをつくり直すことで、新しい健康な状態に保たれている。その分解を担っているのが、オートファジーである。中身のつくり替えがうまくいかないと、細胞機能に支障が出て、細胞死や疾患を引き起こしてしまう。」
「タンパク質には、凝集して塊をつくりやすいものがある。凝集タンパク質は細胞毒性を持つため、それが蓄積すると細胞の機能が低下して疾患の原因となる。」
「オートファジーは細胞の生存に欠かせない守護神のような存在であり、さまざまな疾患から私たちを守ってくれていることがわかってきたのである。」
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 さらにオートファジーは、損傷ミトコンドリアを除去してパーキンソン病を防いでいることも分かっているそうですが、それ以外にも、さまざまな疾患の発症を防いでいる可能性が高いそうです。
 例えば、アルツハイマー病、腎障害、脂肪肝、がんやクローン病などなど……。このうちがんでは、オートファジーがプラスにもマイナスにも働くようです。オートファジーが起きないと、がんになる(がんにならないためには、オートファジーを活性化したほうがよい)のですが、がん化してしまった細胞を抑え込むためには、オートファジーを止めた方がよい(がんの湿潤・転移・腫瘍形成をオートファジーが助けている)のだとか。……なるほど。
 こういうケースもありますが、オートファジーにはさまざまな疾患の発症を防止する機能があるので、とにかく存分に働いてもらえばいいのでは? という気もしましたが、活性化を抑えた方がいいケースももちろんあるそうで、人体にはオートファジーの暴走を抑制する因子があるのだとか。吉森さんたちはその抑制因子のタンパク質(ルビコン)を見つけたそうです。このルビコンがないと脂肪細胞でホルモンが分泌されないので、脂肪細胞が正常に機能するためには、オートファジーが活性化し過ぎないようルビコンで抑制する必要があるのだとか。……そうなんだ……ただ活性化させればいいわけではないんですね。やっぱりバランスが大事なんだ。
 このルビコンは老化現象にも関わっているようで、ルビコンをなくすと老化現象が改善するそうです。
 暴走するほどオートファジーが働くのは問題ですが、適度に活性化してもらうと、疾患や老化を防いでくれる素晴らしい仕組みのようです。さらにオートファジーは美容にもいいようで、オートファジーを活性化することでシミやしわを改善したり、肌のはりを取り戻したりできるようになるという期待が高まっているそうです。
 そうなんだー。だったら……オートファジーをマイルドに活性化する方法はないのかなーと思っていたら、嬉しいことに、それもちゃんと書いてありました。「オートファジーを促進する天然の食品成分」があって、それは、スペルミジン、レスベラトロール、アスタキサンチン、ウロリシンなどだそうです……このうちスペルミジンは、豆類や発酵食品(納豆、味噌、醤油、チーズなど)に多く含まれるのだとか。納豆は身体にいいとよく言われてきましたが、オートファジーも促進していたんですね! これからも毎朝食べようっと!
 老化や健康寿命、病気、免疫といった身近な問題の鍵になるかもしれないオートファジーの研究について、分かりやすく総合的に説明してくれる本でした。この研究を始めた経緯や、研究生活についても語ってくれているので、研究者や研究者をめざしている方には、それもとても参考になると思います。興味のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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