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第1部 本

医学&薬学

疾病捜査官(カーン)

『疾病捜査官――感染症封じ込めエキスパートの事件簿』2021/7/13
アリ・S・カーン (著), ウィリアム・パトリック (著), 熊谷玲美 (翻訳)


(感想)
 元・アメリカCDC(疾病対策センター)の実地疫学専門家(EIS)「疾病捜査官」のカーンさんが、サル痘からエボラ出血熱、炭疽菌テロからSARSまで、さまざまな病原体や感染症の封じ込めの現場を振り返る事件簿です。
「訳者あとがき」から本書概要を紹介します。
「カーン氏はCDCで長年にわたり、感染症アウトブレイクの発生時に、現場で情報収集と分析をし、発生源を特定し、感染の広がり方を調べ、対策や予防策を提言する実地疫学の専門家として仕事をしてきた。その間に、「たいていの医師が一生かかって経験するより多くの種類のアウトブレイク」を目にしてきた。本書では、米国南西部のハンタウイルス、中東のクリミア・コンゴ熱、ザイール(現コンゴ民主共和国)やシエラレオネのエボラ出血熱、ザイールのサル痘、アメリカ国内の鳥インフルエンザなど、世界各地の感染症アウトブレイクの現場で、自らの身も感染リスクにさらし、ときには迫りくる反政府勢力から逃れながら、「疾病捜査官」の任務に奮闘した体験が描かれている。」
 カーンさんが仕事から得た深い教訓は、「私たちは常に新たな感染症アウトブレイクの危険と隣り合わせだということだ。」そうです。そして、「EISの捜査官がするのは、公衆衛生監視システムの評価や、疫学的解析の設計から実施、解釈まで、そして米国内や世界各地で深刻化の恐れがある公衆衛生問題の現地調査といった仕事だ。」とか。
 その言葉通りに、アメリカのCDCの疾病捜査官はまさに「世界中で発生したアウトブレイクの究明と制圧」を行っていて、特に海外の仕事の場合は、公衆衛生の専門家が少ないような国で発生したアウトブレイクへの対応なので、感染対策以外の問題も頻発! 汚れて荒廃した病院の清掃や、ネズミやアリの大群などの病害虫、さらにはテロリストなどからの武器攻撃まで! 現地はアウトブレイクで混乱中でもあり、現地に向かう移動手段がないとか、宿泊先がないとか、患者のデータがバラバラで正しく入力されていない(そもそも入力されていないものもある)とか、エボラ感染症発生への対処中にマラリアで医師が死亡するとか、科学より魔術や死者に触れる慣習を重んじている人々への説得とか……驚くほど大変な状況の中、専門家として病原体の突き止めや、感染症の封じ込めを行わなければならないのです(涙)。熱意なしには出来ない仕事に、驚きと感謝の気持ちでいっぱいになりました。
 そして一般の医療関係者の協力が、感染原因の突き止めに貢献することがあるそうです。例えば、「第二章 名前のないウイルス」では、過去に同様な症例を示して死因不明のまま亡くなった患者のことを思い出した医師がCDCに連絡。保管してあった患者の標本の分析で、ハンタウイルス肺症候群が死因だったことが確認されたそうです。このように、ウイルスを発見したとたん、過去にもこの病気がたくさんあったことが判明することもある……こういう標本を保存しておくことは大事なんだなーと痛感させられました。
 このハンタウイルスの場合は、ネズミが感染源でしたが、こういうケースでは「ワンヘルスアプローチ」が重要になるようです。ワンヘルスアプローチとは、「病名の解明の場合、その個人の臨床調査と疫学調査を結び付け、それと昆虫学や哺乳類学を組み合わせ、野外に出かけて、そこにいる生物と感染可能性を調べ、そのうえで3つをひとまとめにして、適切な予防戦略が何かを考える。(人間だけでなく、野生生物や環境にも目を向ける)」ことだとか。
 また「第八章 大洪水の後」は、2005年9月のハリケーン・カトリーナ(ニューオーリンズ)での話ですが、この頃はまだアメリカの緊急事態への対処は未整備状況だったようで、さまざまな問題が起こったそうです。そのため新たに体制が強化・再編成されることになったとか。
「カトリーナの襲来後、新たな国家準備システムのもとで、連邦政府の緊急事態準備対応体制が完全に再編された。この国家準備システムには、防衛、予防、緩和、対応、回復のための国家規模のフレームワークや、新たな国家準備目標が含まれる。さらに何より重要な要素として、災害への備えとよりよい対応のためにコミュニティー全体で取り込むことを新たに重点化している。2012年のハリケーン・サンディの襲来時には、こうした改革の成果がみられた。」
 ……このような大改革を行うことは本当に大事なことですね!
 この他にも、感染症の予測(インフルエンザのワクチンの場合、有効対象範囲が狭いので、どのタイプが流行るかを事前に予測する必要がある)とか、疾病サーベイランスシステムの構築・運用とか、感染症原因生物の突き止めとか、検体の移送とか、いろんな実情(現実)を知ることが出来て、とても勉強になりました。2022年現在、私たちはいまだコロナ禍のなかにありますが、CDCなどの公衆衛生専門家や医療関係者の努力で、なんとか戦っていけるんだなーと、とても感謝しています。感染症や公衆衛生に関心のある方は、ぜひ読んでみてください☆
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