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第1部 本

脳&心理&人工知能

顔認証の教科書(今岡仁)

『顔認証の教科書 明日のビジネスを創る最先端AIの世界』2021/11/30
今岡 仁 (著)


(感想)
 顔認証技術で世界をリードするNECの「ミスター顔認証」今岡さんが教えてくれる顔認証の教科書です。
「アメリカ政府機関主催の精度評価テスト(NIST)で世界No.1評価を6回獲得」、「マスクで顔の3分の2が隠れていても、ほぼ100%認証が可能」など、顔認証技術で世界の最先端を走っているのが日本のNEC。2021年に行われた「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」でも、関係者の入退場時の本人確認に同社の技術が採用され、大きな注目を浴びました。
 この本は、NECの顔認証技術を中心に、顔認証が他の生体認証と比べて優れている点、その基本理論(AI機械学習)、実用事例、ヘルスケア・医療やDX(デジタルトランスフォーメーション)への応用の可能性、さらにアメリカ政府機関主催精度評価テストで世界No.1評価を受けるまでの体験談など、顔認証に関する広範な知識をわかりやすく紹介してくれるので、とても参考になりました。
「第1章 顔認証とは」では、顔認証の概要を知ることができます。なんと「最近の顔認証技術は、サングラスをかけていてもマスクをしていても、問題なく本人を特定することができます。」なのだとか! マスク装着かどうか判定する過程を最初に追加し、マスク装着であればマスク部分をカットし、残りの部分だけの特徴で照合するそうです。
 そして認証方式の種類には次の3種類があり、顔認証はその中でも優れた特性があるのだとか。
1)知識認証(パスワード、暗証番号など)知っていることが前提
2)所有物認証(鍵、カード、身分証明書など)持っていることが前提
3)生体認証(顔、指紋、手のひら、静脈、声、虹彩など)生体であることが前提
「顔認証は、特別なデバイスを必要とせず、スマートフォンやPCに搭載されるような汎用小型カメラでも認証可能です。また、一度に一人だけではなく、数メートル離れた場所から、複数の人々を同時に撮影して本人確認することも可能です。さらに、立ち止まらずに通り抜けるだけで本人確認ができるウォークスルー型や、短い時間でたくさんの人々を処理する必要がある駅の改札や施設の入退場ゲートでの利用も期待されています。」
 そして「第2章 AIと顔認証技術」では、NECの顔認証でも使われているAIについて概要を学ぶことができます。
 ここでは、「プライバシー保護に応える顔認証の最先端」がとても参考になりました。顔認証に用いる特徴量は、生体情報を圧縮したものなので、プライバシー保護にも気をつけなければならないそうです。このため国際標準化機構(ISO)は、次のような特徴量取り扱いの原則を定めています。
1)不可逆性:特徴量は不可逆変換や暗号化などによって保護した状態で取り扱い、暗号が解除できない状態で利用すること
2)リンク不可能性:ある顔認証システムで利用される特徴量を、他のシステムでは利用できないようにすること
3)取り換え可能性:万が一、ある顔認証システムで取り扱う特徴量が漏洩しても、取り換えできるようにすること。
 ……このような原則を順守しているなら、安心して顔認証を使えそうです。
 そして「第3章 世界との戦い」では、NECがNIST(顔認証技術の国際ベンチマーク)で6回もトップの成績を獲得した経緯が語られているのですが、初挑戦でトップを獲得し連勝しているにも関わらず、決して簡単な道ではなかったことが分かります。テスト対象の技術も、数千名規模の顔画像での評価から、動画顔認証、深層学習による顔認証など、回を重ねるにつれて難易度が上がっていきます。それでも連勝……凄いですね!
 ここでは顔認証の精度をあげるための工夫を、いろいろ知ることができました。また顔認証を入国審査など、現実に利用する場合の難しさも痛感させられました。「パスポートの認証では、現在の顔と10年前の写真で照合しなければならない。」……確かに、その通りですよね! 外国人モデル1000人の大量の写真を撮影(表情や角度などを変えて一人当たり100~200枚の写真撮影)とか、ニューヨークの街中でいろんな人の顔写真を撮影とか、顔認証の精度をあげるための努力を重ねてきたそうです。
 またこの他にも「勝つために戦い続ける」で明かされている努力や心構えも、とても参考になりました。とくに「アンコントローラブルをなくす」の、「一見不可能(アンコントローラブル)に思えることでも、細かく因数分解して、部分的にでもコントローラブルを見出すと、不可能を可能に変えられる」という心構えは、忘れないようにしたいと思います。
 さらに「第4章 顔認証で変わる世界」では、今後、顔認証技術がどのように使われていくのかの可能性を知ることが出来ます。すでに顔認証技術の応用で、がんの腫瘍の識別も出来るようになってきているとか。
「(前略)生体認証は、リアルの世界である「本人」とサイバーの世界の入り口である「ID」を結ぶ非常に重要な技術であり、今後ますます発展することが期待されます。」
 生体認証は、知識や所有物による認証方式と違って、認知症になっても、それなりに利用できる点も素晴らしいと思います。個人的に顔認証ではプライバシーが気になってもいましたが、その点も考慮して開発されてもいるようなので、今後の発展にも期待したいと思います。
 顔認証技術だけでなく、AIの概要や、勝ち続ける研究チームを率いていく心構えなど、いろんな点ですごく参考になる本でした。ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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