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第1部 本

脳&心理&人工知能

生命知能と人工知能(高橋宏知)

『生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方』2022/1/14
高橋 宏知 (著)


(感想)
 最新の知見をもとにした、生命知能と人工知能の違い、生命知能を支える意識の働きの解説とともに、生命知能を成長させる脳の使い方、育て方のヒントを教えてくれる本です。
 医学ではなく、「工学」的な視点から脳と計算機(人工知能)の対比をしていて、とても興味津々でした。例えば「第1部 私たちの脳と計算機」「第1章 脳という巨大な情報システム」の、脳(神経回路)と人工知能(デジタル回路)では、入力情報と出力情報を適切に関連付けるための設計解が違うという説明に、すごく納得できました。
 現在では、「情報処理システムの素子数:大脳皮質の神経細胞数もパソコン内のトランジスタの数も、およそ100億個」とほぼ同じようですが、「脳(神経回路)の中の配線の全長は10万キロ。このような配線は、計算機では真似できない」そうです。実は、神経細胞には「化学反応を利用するため、各素子の演算速度を高められない」という制約条件がありますが、この遅さを解決する方法として、入力情報を多くの神経細胞で共有し「並列処理(低クロック並列計算)」しているのです。
 これに対して、人工知能の方は、一つの素子に多数の入出力をつけるが困難なので、「CPUを高速化して逐次処理(高クロック逐次計算)」しているそうです。……なるほど!
 またすごく参考になったのが、「第2部 知能とは何か」「第5章 知能はどう育つか」の「学習の効用とは?」。ラットに学習させ聴覚野の変化を調べた研究の結果は、次のようなものだったそうです。
「聴覚野は、学習途上で大きくなり、学習後には小さくなったのです! さらに学習成績との相関も調べてみました。学習途上では、聴覚野が大きい個体ほど成績が良く、学習後には聴覚野が小さい個体ほど成績がよかったのです。」
「脳にとって学習とは、序盤に多くの神経細胞を情報処理に参加させて、神経活動の多様性を増やすことで、効率的に解を発見します。そしていったん、解を発見した後、学習の終盤にはムダな神経活動を排除し、効率的な情報処理を獲得します。やはり多様化と選択の2ステップなのです。」
 ……これって、私自身の学習の時も同じことが起こっているような気がします。学習中はすごく脳が疲れる感じがするけど、だんだん理解が進んでくると、すぐに正解が出せるようになる……たぶん脳の中で、学習に関係する多数の神経回路がどんどん整理されていって、少ない神経回路で正解できるようになっていくのでしょう。
 そして本書の中で、高橋さんが強調していたのが、「生命知能と人工知能は、互いに違う分野(お互いの得意分野)で共生していこう」ということ。序章でも、次のように言っています。
「豊かな社会を実現するためには、人工知能と人間は、それぞれの長所と短所を補いあわなければならないのです。しかし、両者の苦手が一致してしまったら、協働できなくなってしまいます。これはとても由々しき事態です。」
 そして終盤近くでも、次のように語っています。
「(前略)人工知能ができることは、人工知能に任せ、ムダを省いてもらえばよいのです。その分、私たちはムダを作り出しながらも、新たな評価軸や価値観を形成していくべきではないでしょうか。それが、人工知能と生命知能の共存のあるべき姿だと思います。」
 ……まったく、その通りだと思います。序章で高橋さんは、「日本社会は、明治維新以降、良くも悪くも、人工知能的な戦略で発展してきた」と指摘しています。確かに、私たちはずっと「自動化・効率化」を目指してきたと思います。が、人工知能の実用化が進んでいく今後は、人間よりもそれが上手にできる人工知能と計算機に「自動化・効率化」を任せて、人間は、より新奇的・創造的な分野に力を入れていくべきなのでしょう。具体的には、今後の「人間の教育システム」を、その方向にかえていくべきだと思います。
「生命知能と人工知能」の多角的な対比を通して、互いの得意分野や、私たちの「脳の使い方・育て方のヒント」も教えてくれる本で、とても参考になりました。(各章の終わりには、その章とまとめと「脳の使い方・育て方のヒント」が書いてあります。)
 例えば、序章の「脳の使い方・育て方のヒント」は次の通りです。
「人工知能(AI)は、今後ますます社会のいろいろな場面で実装されるようになる。だからこそ、私たちに必要とされるのは、人工知能の得意な自動化(効率化)ではなく、生命知能的な自律化の部分を磨くことではないか。」
 この他にも「進化から見る脳」とか、「意識とは何か」とか、「人工知能は芸術作品を創れるのか?」とか、「意識が科学と宗教を生んだ」とか、興味深い話題が満載です。脳や人工知能、今後の社会や教育に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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