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第1部 本

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バーチャル・リアリティ百科(トゥーヴェニン)

『[ビジュアル版]バーチャル・リアリティ百科:進化するVRの現在と可能性』2021/10/22
インディラ・トゥーヴェニン (著), ロマン・ルロン (著), 塚田 学 (監修),


(感想)
 目覚ましい発展を遂げる仮想現実テクノロジーについて、その起源と歴史、VRの仕組み、バーチャル世界の作り方まで専門家が総合的に解説してくれる『バーチャル・リアリティ百科』です。
「バーチャル・リアリティ(VR)とは、デジタル的につくり出した環境、すなわち現実を模した世界や想像上の世界を、人間に体験させることができるものである。VRは感覚を人工的に生み出すことによって、そこに没入したような強い感覚を与えるとともに、インタラクションを可能にする。」
 この本は、第1章(VRの歴史)、第2章(VRの構成要素)、第3章(VRの機器)、第4章(VRと人間の知覚)、第5章(VRの主要なアプリケーション)、第6章(VRアプリ作成演習)、第7章(VRの現状と今後)という構成になっています。

 個人的に一番関心が高かったのは、第4章(VRと人間の知覚)。その一部を以下に紹介します。
「バーチャル・リアリティでVR用ヘッドセットを使ってみるときの視覚に対する重大な問題の一つは、目に近い面での調節を絶えずユーザーに強いることである。このメカニズムは目を非常に疲れさせ、子どもの場合視覚システムの形成に害を及ぼしかねない。」
「(前略)視覚システムはわれわれのセンサー、すなわち目が知覚できるものにとどまるものではない。われわれの記憶、知識、個人的な気質もまた視覚に作用し、ときにはそれをゆがめたり、大きく左右したりする。肝心なのは現実や想像の世界を模したバーチャル環境を人工的に再現することであるため、こうした経験に基づく知覚は無視できない。(中略)
 目の錯覚や視覚に関する経験から、われわれが何を見るかは自分の注意力にも関わっていることが分かる。イリュージョンをつくり出すマジシャンは、この視覚の特性を利用するのに非常に長けている。バーチャル・リアリティのアプリケーションでも同様で、オブジェクト、光、色を争うように変えて、利用者の注意の方向を誘導することができる。」
「バーチャル環境において重要なのは、感覚の一貫性に対応する像を提供することである。この作戦は、計算効果の基準に立ち返らせる。つまり、ユーザーにとって興味深い一面さえ適切であれば、そのもののあらゆる正確な細部や、起こしうるあらゆる動きを表す必要はない。」
 ……なるほど。VRは機器に高い能力を求めるものなので、うまく実現するためには、いかに省力化するかも重要です。人間は「そのとき注視している部分」以外にはあまり関心をもたないので、周辺はざっくり作っておいても違和感がないようです。
 私はVR酔いしやすい方なので、まだ積極的にVRを生活に取り込みたいとは思っていませんが、教育やスポーツでのVRにはとても期待しています。家庭用ゲーム機の任天堂Wiiでのダンスやスポーツはすごく楽しくて、これがもっと「本物」っぽくなると、遊びではなく「本気のトレーニングや教育」に使えるなーといつも思っていたので。
 この他にもVRは、心理的な問題の解決にも活用できるようです。
「数年前から、バーチャル・リアリティは自閉症や心的外傷後ストレス障害にも救いをもたらしている。利用者の社会とのかかわりを将来の状況に対する準備をさせたり、安心な状況で他者とやり取りさせたりすることができるからである。(中略)
 一般に社会的プロセスや認知のプロセスを理解するにあたって、バーチャル・リアリティは刺激のさまざまな側面を分けてコントロールし、現実世界で影響を及ぼしうる大量のパラメータから解放することによって、ある反応が出現する真の理由を特定しやすくする。
 以前からバーチャル・リアリティは、苦しみを紛らわせるためにも使われてきた。(後略)」
 また危険な環境での任務の訓練にも。
「軍事や原子力、宇宙の分野で高く評価され、現場に近い状況づくりや非常に繊細な任務の訓練のために一部で利用されている。」
 この他、医療分野でのシミュレーションによる教育訓練、遠距離への商品の売り込みなど、VRならではの活用には、すごく期待してしまいます。
 そして今後のVRを考える上で、第7章(VRの現状と今後)もとても参考になりました。
 人工知能+VRを利用した人工人間(ゲームのバーチャルキャラクター)の他、次のような車への活用もあるそうです。
「人工知能とVRの両方に関わるまた別のアプリケーションとして、未来の自律的な車がある。この車は、現実の環境で使用する前に、バーチャルのシミュレーターで生成されるさまざまな状況を「学ぶ」ことができ、あらゆる種類の困難を経験し、不測の事態にもよりうまく反応できるようになる。同様に自律型または半自動型のドローンも、ロボットと同様で、敵対的または危険なバーチャル環境の中で学び、性能を上げることができる。」
 でもVRには健康に対する悪影響もあり、それを検討することも大事です。
「VR酔いはバーチャル環境を離れた後に影響をもたらすこともある。平衡感覚の不調、めまい、さらには気分の悪さ、そのため、シミュレーターや没入型の訓練ツールを数時間使ったら、休止時間が必要である。現実に戻るまでのプロセスには、比較的長い時間がかかるからである。とくにVR酔いの場合には、VRの体験後数時間は車の運転をしないよう勧められている。」
「さらに精神的な面では、バーチャル環境での体験はビデオゲームにおいてと同様、非常に強烈な印象を残しうる。(中略)参加者やバーチャルな人物を巻き込む対立的・暴力的な状況のシミュレーションは、重大な精神的混乱をもたらしかねない。だからVRでのソーシャル体験は枠内に収めるべきであり、そのためには固有の規制が求められる。」
 ということで、規制に向けての動きもあるのだとか。
「VRの専門家や利用者の間で何度も議論や話し合いが重ねられたのに続いて、検討会がまず組織され、次いで複数の研究分野にまたがる倫理委員会がフランスで生まれた。このVR倫理委員会には、精神科医、神経心理学者、バーチャルリアリティや拡張現実の研究者、没入の専門家、没入コンテンツの制作者や大企業が参加し、とくにバーチャル・リアリティの利用に関する初の憲章が定められた。
 将来の規制のベースになるであろうこの憲章の中では23の勧告がなされており、感覚の不調和、非現実的機能のインターフェース、不適切な内容、心理状態と認識の不適応、準備の悪い実践方法などの影響を網羅している。」
 VRについて総合的に紹介してくれる本でした。巻末には「用語集」もあります。
 VRに関心のある方は、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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