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第1部 本

ビジネス・問題解決&トラブル対応

内部告発のマネジメント(岡本浩一)

『内部告発のマネジメント―コンプライアンスの社会技術 (組織の社会技術4)』2006/8/5
岡本 浩一 (著), 本多‐ハワード 素子 (著), 王 晋民 (著)


(感想)
 内部告発(内部申告)は、どういう条件のもとに生まれるのか、組織へのコミットメントとどう関わるのか、不正の申告者をどう保護するのか……内部告発の実態を社会心理的観点から解明している本です。
「まえがき」には、内部告発のもつ複雑さが語られていました。
「組織の反社会的行動がある程度長期間継続し、しかも、それにトップの承認や黙認、隠蔽などがあると、内部告発がないかぎり、モラルハザードは行き着くところまで行ってしまう。」
……内部告発(内部申告)は、原発のシュラウド検査報告隠蔽事例や、和牛偽装の事例を明らかにするなど、現代社会で重要な役割を果たしていることは間違いありません。その一方で、内部告発にはとても複雑な問題があります。
「しかし見方を変えれば、内部告発は一種の裏切りである。(中略)
 鳥瞰すれば、内部告発とは、集団規範と社会規範(倫理規範)が違背するところに生じる葛藤下の行為なのである。(中略)
 この種の葛藤は、個人の自我を押しつぶしかねないほど強い。状況が二つの規範間の葛藤であることが見えず、葛藤にたたされた人が深い罪悪感に苦しむことも多い。やむにやまれぬ行動であることが一応周囲に理解されても、組織や同僚を裏切る傾向のある人だと見られる危惧があり、その危惧がしばしば現実となる。本人も、「自分は裏切り者だ」との認識に苦しむことが、事前にも事後にも多いのが実の姿である。
 現在、多くの組織で、コンプライアンスの問題が検討されている。種々の規定のひな型が作られており、内部申告の保護規定も作成されている。そこには、コンプライアンスの一環として内部申告が可能な環境を整備する必要があるという法的意図がある。
 しかしながら、法的整備だけで十分なわけではない。」
 そして「第1章 現代社会と内部申告」には、次のように書いてありました。
「まず、内部申告の難しさや内部申告の現実を理解する。そして、組織の中で働く人たちの現実を考え、申告者のそれからの人生について、慎重に考えた仕組みを作る。組織は不正をいつでも起こりうるリスクとする前提に立ち、申告に対する対応をする。組織内に申告があったら、どうするべきか。もしも組織外に申告があったらどうするか、その対応を決めておく。どのようなことを不正に対する正当な内部申告とするかについても、定めておく必要がある。そして、われわれは、内部申告を他人事と思わず、きちんと見る、考える、そして、内部申告に対してどのような社会の仕組みが重要なのかをきちんと吟味して、作っていく責任がある。」
 さらに「第3章 内部告発の実証研究」では、さまざまな研究・調査結果が紹介されています。例えばイスラエル軍では、不正行為の申告の重要性を兵士に教育しているそうです。
「(前略)イスラエル軍は、不正行為の申告の重要性を教育するとともに、不正行為の情報隠蔽に対して厳罰で臨むことを強調しているという。つまり、軍は教育、法的手段の両方を用いて、軍内部での申告を促進し、外部への申告を防ぐようにしているというわけである。」
 内部申告は「やむにやまれず」行われることが多いのですが、内部に適切な処理能力があると感じられない場合は、マスコミや政治家などの外部に申告せざるを得なくなってしまいます。イスラエル軍はそういう(外部申告を防ぐ)意味でも、内部申告を奨励しているようです。もちろん内部申告で問題が明らかになり、改善・自浄作用が進むことが、軍にとって最も望ましいのは言うまでもありません。いろいろな意味で、内部告発(内部申告)を促進することは重要なのだなと痛感させられました。
「第4章 内部申告に関連する要因」には、次のような記述がありました。
「内部申告を促進するには、今までの内部申告の事例を広く知らせ、内部申告とは、特別な人がする特別なことではなく、誰でもできる。そして成功裏にできることだ、という認識をいきわたせることが大切である。また、組織内では、内部申告だけでなく、少数派の異なる意見を表明することを肯定する雰囲気を作り、問題の指摘が気軽にできるような環境にすることも重要である。」
 ……ただし、このような組織になっていると不正自体が少なくなるので、必ずしも内部申告数が多くなるわけではないのだとか……確かに。
 さらに「第5章 内部申告に関する実態調査の結果」では、関東在住の20~50代の常勤有職者2000人に調査票を送ることで、内部申告の実態や内部申告に対する態度を把握することを目的とした調査が行われた結果が紹介されていました(1096人の回答)。それによると、なんと「組織内の不正を目撃、経験した人は、全体の約20%」で、「相談窓口はなかった、が8割」だったようです。……ちょっと残念な結果ですね……(もちろん本書内では、もっと多くの調査結果がグラフも使って説明されています)。
 不正行為があったことが発覚した場合、組織に与えるダメージは相当なものがありますし、組織不正に対する社会の目は厳しさを増しています(SNSなどで広まるのも速いです)。内部申告の適切な処理(システム構築・運営)を促進するとともに、不正行為を行わないよう従業員教育を進めていくことも必要だと思います。
 最近は学会や業界団体で、職業人の倫理規定綱領などが数多く制定されるようになってきていますが、それらに共通する主な基本理念は、次のようなものだそうです。
1)豊かな社会、公衆の安全、環境の保護、人類の福祉のために行動する
2)専門能力を向上させる
3)専門能力を自ら把握し、責任を持って判断する
4)事実を尊重し、公平・公正な態度で自ら判断する
5)社会・公衆に対する説明責任を果たす
6)雇用者あるいは受託者としての契約を遵守する
7)法令・倫理規定等を遵守する
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 内部告発(内部申告)について、実証研究を含めて幅広く解説、紹介してくれる本でした。とても参考になるので、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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