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第1部 本

数学・統計・物理

すごい物理学講義(ロヴェッリ)

『すごい物理学講義』2017/5/22
カルロ ロヴェッリ (著), Carlo Rovelli (原著), 竹内 薫 (翻訳), & 1 その他


(感想)
「ループ量子重力理論」を研究するロヴェッリさんによる物理学入門の書で、物理学の歴史から、最新の物理学理論まで分かりやすく解説されています。
 一般向けの物理の本(!)という不可能に挑戦している本ですが(笑)、本当に文系の人にとっても理解しやすいのではないかと思います。というのも、この本はなんと「メルク・セローノ文学賞」「ガリレオ文学賞」という二つの「文学賞」を受賞しているのです。
 一般向けの物理の本として、ロヴェッリさんは他にも『世の中ががらりと変わって見える物理の本』を書いています。『世の中ががらりと変わって見える物理の本』の方が、もっと簡単で短いので分かりやすいのかもしれませんが、少なくとも私にとっては、この本の方がより参考になりました。
 というのも、この本は、古代ギリシアのデモクリトスなどの昔の人々の考え方から解説されているからで、ロヴェッリさんは、この本の最終的な狙いである「量子重力理論」へ到達する前に、起源となる考え方から出発することで、私たち読者が現代につながる考え方をより容易に理解できるように心を砕いてくれているのです。確かに……古代の人の物理の考え方なら、なんとかついていけるかも……と思いつつ読み始めました。古代からニュートン、そしてアインシュタインから量子へ……物理学の歩みを眺めているうちに、なんだか「物理学の本質」みたいなものを垣間見せてもらったような気がします。
 そしてデモクリトスなどの古代ギリシアの人々の鋭い洞察力に驚嘆させられました。古代ギリシアの人の「すべては原子から出来ているという着想」は、いったいどこから生まれたのでしょう? 原子なんて目に見えないのに……。流れる川の水を掬うと滴る水滴から? 空気中を漂う埃から? とにかく凄い想像力ですね。実際に、物質が原子から構成されているという、いわゆる「原子仮説」の決定的な証拠は、1905年になって、ようやくアインシュタインによってもたらされたそうです。流体の中の微小な物体がジグザグに動く「ブラウン運動」がありますが、分子がこのように「ゆらぐ」ためには、分子は有限な数と寸法があるはずなので、その漂流の程度を計測することで、原子の寸法が計算できるのだとか。
 またニュートンは地球の周りに、本物の月の他に別の小さい月が存在していると仮定して、単純な計算を行うことで、重力がどのように働くのかを明らかにしたそうです。
 それでも世界には、重力の他にも、物質を押したり引いたりする力があります。この「他の力」を理解すること、これがニュートンによって予見され、しかし未解決のまま残された最初の問題でした。そして重力の他の大きな力として「電磁気力」が発見され、ファラデーとマクスウェルによって、その作用が明らかにされた……というような物理学の歴史が、分かりやすい説明でどんどん紹介されていきます。学校で習う教科書とは違う切り口で、「歴史物語」みたいな感じに説明されていくので、苦手な物理の本のはずなのに、どんどん読めました。
 そして、いよいよ量子論に移っていきます。量子力学を通してわたしたちは、事物の本質に備わる3つの側面(粒性、不確定性、相関性)を知ることが出来るそうです。
 なかでも面白かったのは、「時間」に関する部分で、物理学の基礎理論には、もはや「時間は存在しない」のだそうです! 重力の量子は、時間の「なかで」展開するのではなく、むしろ、量子の相互作用の結果として、時間が生じてくるのだそうです。……にわかには信じがたいような気がしましたが、読んでいくうちに、「なるほど……」と思ってしまいました(単純)。
 また量子力学と一般相対性理論を併せて考慮した場合、「空間の分割には限りがある」という仮説が引き出せるそうです。粒子は無限に小さくなれるのではなく、実は「最小の大きさ」があるのだとか! こう考えると、今まで一般的に考えられてきた「宇宙は無限に押しつぶされて消失する(ビッグバン)」は起こらず、宇宙の収縮には限度が出来るので、宇宙はどこかで反発し、巨大爆発に後押しされるようにして、ふたたび膨張を始める(ビッグバウンス)のだそうです。
 ……なんだか頭がくらくらしてきます(笑)。
 古代のギリシア人の考え方から始まって、現代の最新の物理学までを、かなり分かりやすく紹介してくれる本でした(頭は少しくらくらしますが……)。現代の最新物理学の部分は、ロヴェッリさんが研究している「ループ量子重力理論」が中心で、これは必ずしも定説になっているわけではないようですが、とにかく私にとって苦手だった物理学(のほんの一部)を、少し分かったような気にさせてもらえました。私にとっては、本当に『すごい物理学講義』。ロヴェッリさん、ありがとうございます☆ みなさんも、ぜひ読んでみて下さい。お勧めです☆
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