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第1部 本

数学・統計・物理

カオス―新しい科学をつくる(グリック)

『カオス―新しい科学をつくる (新潮文庫)』1991/12
ジェイムズ・グリック (著), 大貫 昌子 (翻訳)


(感想)
「予測不可能」なものを予測するための全く新しい科学の考え方、「カオス」について、幅広い分野に渡って分かりやすく説明してくれる本です。(分かりやすく……とは言っても、なにしろ「カオス(混沌)」の話なので決して易しくはないのですが、「カオス」に関する本としては分かりやすいと思います(汗))。1991年に文庫版が発行された、とても古い本ですが、「複雑系を理解する」考え方として、多くの科学者に衝撃的な影響を与えた「カオス」を紹介した意義深い本なので、ここで紹介させていただきます。
 さて「カオス」な現象として最も有名なのは、気象学者のローレンツの「バタフライ効果」。ご存じの通り「僅かな誤差が大異変を招くことになる」現象です。
 1961年に、一区切りのデータをもっと念入りに調べたいと思ったローレンツさんは、時間を節約するため初めの部分をはしょって、中途から処理を始めることにしました。ところがそのことで、処理結果が大幅に違ってしまうことを発見してしまったのです。実は前にした処理は小数点以下6桁の数字でやっていたのですが、新しく処理したのは同じデータを小数点以下3桁で四捨五入した数字でした……ほんの些細な違いだと思ったのに、たった数か月分の天候パターンが似ても似つかないものになることに、ローレンツさんは衝撃を受けました。……天気の予測というのは、実は不可能だったのでしょうか?
 そこでローレンツさんはさらに研究を重ね、天候模型の中には、ただの偶然性以上のものが埋まっているのを見つけました。それは「でたらめさの仮面をかぶった秩序」というものがあることです。
「カオス」というのは、「混沌」という意味ですが、この本で言う「カオス」はただの混沌ではなく、「一見でたらめに見えるけれど、そのなかに何か秩序があるもの」を指しています。はっきりとした数字としての予測はできないのですが、ある範囲内に入る確率はかなり高いなど、ぼんやりとした予測は出来るという感じでしょうか?
 この本では、この「カオス」の考え方が、天気予報だけでなく、水や煙の流れ、人口などの生物個体数の増減の予測や、心臓の拍動などの人体の働きの理解など、これまで見過ごされてきた、あるいは困難とされてきた分野に適用されて、成果をあげつつあることが幅広く紹介されます。
 ところでこの「カオス」現象。1960年代から急に脚光を浴び始めたのは、この頃からコンピュータの処理能力が飛躍的にあがってきたことによるものが大きいと思います。それまでは、そもそも複雑系をそのままの形で深く理解するなど、人間の能力的に考えても不可能でしたし、科学というのは、一見複雑に見えるものに、ある規則性を見出すことで数学的に明快なモデルを作って単純化するところに真髄があると思われていたような気がします。ところがコンピュータの処理能力が上がるにつれて、膨大なデータを処理できるようになり、複雑系そのものをより深く理解できるようになってきた……その初期の段階で「バタフライ効果」が見いだされ、「些細な誤差が予想を不確実にしてしまう」ことが分かってしまったのでした。
 そこで「あーあ、どうせ確実な予測なんか絶対に不可能なんだ。無駄無駄。やーめた!」などと放り出さないところが研究者たちのエライところ(笑)。「一見カオスに見えるもののなかにも、何か規則性がある」とか「局所的には予測できないが、大域的には安定している」、さらには「複雑さの法則が、すべてに普遍的に通用する」などを見出した……「カオス」理論の意義は、ここにあります。
 今後、コンピュータの処理能力はさらに上がることが期待できるので、人工知能などの新たな手法を使って、複雑系の理解もさらに進むことでしょう。この本はとても古いですが、その端緒となった「カオス」の考え方を知るための入門書として今でも役に立つと思います(少なくとも「カオス」理論をめぐる歴史を理解することができると思います)。読んでみてください。
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 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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