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第1部 本

医学&薬学

ビッグデータが拓く医療AI(佐藤真一)

『情報研シリーズ24 ビッグデータが拓く医療AI (丸善ライブラリー 390)』2021/10/1
佐藤 真一 (著), 村尾 晃平 (著), 二宮 洋一郎 (著),


(感想)
 国立情報学研究所の医療ビッグデータ研究センター(RCMB)が構築した研究プラットフォームについて解説するとともに、これまでの成果や、医療AIが抱える諸問題、その解決へ向けた研究動向について紹介してくれる本です。
 AIを医療分野に応用し、医療サービスの水準を維持、さらには向上させる試みが世界各所で行われています。例えば、次のような取り組みが進んでいるのです。
「(ゲノム研究では、)膨大なゲノムデータのなかから、症状の原因となる可能性を示す有力なゲノム領域を探し出したり、遺伝子の変異を検出したり、遺伝子同士の複雑な相互作用を見つけたりするのにもAIが役立っています。
 また、こうしたゲノム解析に加え、画像診断AIや医師の所見の解析AIなどと合わせて活用し、総合的な診断に役だてる取り組みも始まっています。さらには、AIで新薬の候補を探し出したり、より治療の効果が期待できる分子構造を探し出したりして、創薬に役立てる動きも加速しています。」
 この本は、医療AIが主なテーマですが、「2-1 AIの歴史と画像認識」で解説されるAIの歴史などの概説も要領よくまとまっているので、AIの基礎知識を得る・復習するためにも使えると思います。
 さらにAIを医療分野に応用する上での問題点も、的確に指摘されています。
 例えば「画像認識技術」には、AIがどうしてそう判断したのかが説明できないという問題があること。
「(前略)今日の画像認識技術は、大規模なデータベースと機械学習によって、大きく進展してきました。その発展の過程で、画像認識プログラムやルールを人の手で作成することをあきらめて、詳細な手法は機械学習の自動学習に任せるというアプローチを取ることで、高性能のシステムを実現してきたわけです。(中略)
 しかしそれは、人に説明できる処理手段を手放した結果として手に入れたシステムです。その結果、end-to-endの学習ゆえに中身がブラックボックスになってしまう深層学習に、一つの大きな課題が突きつけられています。
 中身がブラックボックスである深層学習によってつくられたプログラムの品質を、どうやって保証するのか、という問題です。」
 また、医療データの取り扱いなどの問題。
「個人情報を含む医療データの扱いには十分な注意が必要になりますし、施設ごとに撮影方法や整理の仕方などが異なるデータをただ集めてきただけでは、そのまま解析に使うことはできません。」
 ……医療データには、とてもデリケートな個人情報が含まれるので、本当に取り扱いには最新の注意を払って欲しいと思います。本書にも、次のように書いてありました。
「技術による漏洩対策については、堅牢なストレージの用意やデータの暗号化のほか、第三者提供を行う場合は前述の匿名化などがあります。データの正確性の担保については、改変を加えられないようにする技術の導入に加えて、データにアクセスできる人を限定するとともに、アクセスした者のログ(記録)を取ることも重要です。」
 その一方で、医療データを活用することで、より良い医療サービスや、医学の発展が進んでいくことも願っています。それを目指しているのが、医療データの利用に重きを置いた「次世代医療基盤法(医療ビッグデータ法)」のようです。
「(医療ビッグデータ法は)患者とその家族などの個人情報・プライバシーを保護しつつ活用することを目的に、匿名加工医療情報と呼ばれる、ある加工を行った医療データの第三者提供を前提として設置された法律です。医療データを活用することで、人々の健康やクオリテイ・オブ・ライフの改善、より質の高い医療、個々人に最適な医療、医学の発展、新しい医療サービスやヘルスケアサービスの実現など、さまざまな可能性を拓くことが期待されています。」
 また、医療AIの診断をどう評価するか、誤診があった時には誰が責任をとるべきなのかについての問題に関しては、次のように書いてありました。
「(前略)一番の問題は、医療AIが間違った診断をしたときにどうするのか、という点です。(中略)
 一つの対策として、AIの判断を評価するしくみの導入が挙げられます。たとえば、個々の事例ごとに診断の正答率を見ながら、AIの評価判断を下すという方法があります。あるいは、AIの手法ごとに評価し、その確率があるレベル以上なら許可するといった具合に、許認可制度を設ける方法も考えられます。」
「(前略)そこで現在、法律家の間から出ている一つの方策が、AI自体にある種の法人格を与えるというやり方です。(中略)もしAIに法人格があれば、AIがミスを犯したときに、そのAI自身に責任を取らせるわけです。その責任の取り方としては、AIに損害賠償保険をかけ、その保険金で賠償するという方法があります。そう考えると、必ずしもエキセントリックな提案と一蹴するものではありません。もちろん、これはいまのところ机上論の域を超える議論ではありませんが、さまざまな事態を想定して法制度を整えていかなければ、この先、医療AIを信頼して使っていくことは難しいでしょう。」
 ……この「AIに法人格」+「AIに損害賠償保険」は、とても現実的な方法だと感じました。また、AIは間違うこともあるシステムだ、ということへの社会的な理解も必要だと思います。
 いろいろな問題はありますが、AIは各分野で着実に利用が進んでいますし、医療もまたAIによって質的向上が期待できる分野であることは間違いありません。医療データや医療AIの正しい活用で、より良い医療が進展していくことを願っています。
 医療AIの現状や成果、今後のあるべき姿を教えてくれる本でした。AIや画像認識の歴史や概要も解説してもらえます。とても勉強になるだけでなく、医療AIをどう進めていくべきかについても考えさせられる本ですので、ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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