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第1部 本

生物・進化

おもしろいネズミの世界(渡部大介)

『おもしろいネズミの世界 : 知れば知るほどムチュウになる』2021/7/19
渡部 大介 (著)


(感想)
 元動物園飼育員(宮崎市フェニックス自然動物園)の渡部さんが、知っているようで意外と知らない、ネズミのおもしろさをやさしく解説してくれる本です。冒頭にはカラー写真もあって、可愛いネズミの姿をいろいろ見ることもできます。
「第1章 ネズミとは」には次のような記述がありました。
「動物園でも、最小クラスのネズミの一種であるカヤネズミを展示していると、来園者の多くはまず「わあ、かわいい!」と反応する。その後、名前のプレートを見て「ネズミだって!」と正体を知るとややトーンダウンする様子も結構見られる。」
 ……ごめんなさい。それ、私もです。大学の研究室や動物園以外ではネズミをほとんど見たことがないにも関わらず(つまり実害を受けたことはない)、しかも見た目はかなり可愛いとは思うんだけど、やっぱり万が一、自宅で彼らと出会ったら……うわー、絶対に嫌だ。きっとお菓子の袋とか食べ物をずたずたにされて、汚されてしまうんだ……ってとこまで、一気に想像が進んでしまうのです。
 でも……やっぱり見た目はかなり可愛いんですよね。ペットショップでも人気だし。
 まあ、それはともかく……この本ではネズミばかりでなく、リスやカビバラなんかも出てきます。彼らも齧歯類だからです。
「世界には約5400種の哺乳類がいて、そのうち約2300種は齧歯目といわれるネズミの仲間が占めており、哺乳類最大のグループだ。次に種数が多いのはコウモリの仲間である翼手目で、約1200種である。(中略)彼らは南極以外の大陸のほとんどを生活圏とし、その大きさや形態、食性までも様々なバリエーションをもつことで環境の変化に適応し、現在、世界中で最も繁栄している哺乳類といえる。齧歯目は大きくリス形亜目・ネズミ形亜目・ビーバー形亜目・ウロコリス形亜目・ヤマアラシ形亜目の5亜目に分けられる。(中略)本書では齧歯目全般のおもしろさについて取り上げていきたいので、「齧歯目」をすべて「ネズミ」とする。」
 なんと、ネズミは、哺乳類の種類の半分を占めているんですね! 驚きだ……。

 この本では、そんなネズミの身体のつくりとか、繁殖とか、動物園での状況とか、ネズミ(齧歯類)について総合的に知ることができます。
 最近、都会に多いのは、ドブネズミやクマネズミだそうです。ドブネズミは下水や排水路、クマネズミはビルや家屋の天井裏などにいることが多いのだとか。日本ではクマネズミが「家ネズミ」の最大勢力で、電線の被膜部分も噛んでしまうので要注意なようです(うわー、それも嫌だ……)。
 またネズミは地中に棲む種類のものもいるようで、畑の野菜がモグラに食べられて困ると思い込んでいる人が多いようですが、それはたいてい、地中に棲んでいるネズミのしわざだそうです(モグラは肉食なので野菜は食べない)。
 またネズミという名前がついていても、ハリネズミやジャコウネズミは、モグラの親戚でネズミではないのだとか。
 ふーん。そうなんだ。
「第4章 動物園のネズミ」での「展示の工夫」も、とても面白かったです。
 日本最小のカヤネズミを展示するのに、最初のころ「水槽にウッドチップをうっすら敷き詰めたケースに個体を入れただけ」にしていたら、「カヤネズミはチップに体を半分埋めてしまって、何がなんだかよくわからなかった。」そうです(笑)。その後、木材などで立体格子を作るなどの工夫をしたら、巣づくりなどさまざまな行動が観察できるようになったとか。
 また「アマミトゲネズミ」の捕獲から、繁殖成功までを描いた記録も、ネズミ飼育の全体像がよく分かって、とても興味深く感じました。
「アマミトゲネズミの飼育下繁殖成功のカギは、ある程度栄養状態を維持した個体が、日長の年変化(夏は昼が長く冬は短い)と、環境温度の低下に曝されたことにあるのでは、と私は考えている。」
 ただ漫然と飼育しているだけでは、「ネズミ算」式に増えるはずのネズミも、なかなか繁殖してはくれないんですね……。
 そして「第5章 不思議なネズミ・おもしろいネズミ」では、いろんな不思議なネズミの話を知ることが出来ましたが、なかでも驚きだったのが、最近、長寿研究で有名になっているハダカデバネズミ(常識外れの長寿で、生存期間の8割の間、老化の兆候もみられない)の生態。あの長い出っ歯で土を掘って、トンネル生活をしているのだとか! しかも1頭の女王、1~3頭の王、残るすべてが兵隊と働きデバネズミで構成される社会形態をしているそうです。まるでアリみたいですね!
 この他にも、「ネズミはうんちを食べる(実は、ネズミの消化器官には「食べるための糞」をつくる機能がある)」などの不思議な話がいっぱい。この話、ちょっと長いですが、生物学的に興味津々だったので、以下にその一部を紹介させていただきます。
「消化器官の短い小型の動物は消化器官に食物を長くとどめておくには向いておらず、繊維質からエネルギーを作り出すには不向きである。さらに、小型の動物は体重あたりの基礎代謝が非常に高いという点からも、繊維からゆっくりエネルギーを作り出すという戦略は適していない。そこで小型の動物は、反芻動物のように消化管の前半ではなく、後半の盲腸に微生物をすまわせることで、まず食物の消化しやすい部分を自らが消化吸収し、消化できなかった部分を盲腸の微生物が利用する。さらに、消化器官内容物が盲腸を出て結腸を通過する際に、含まれている微生物や微細な食べ物残渣を盲腸へ戻す機能が結腸に備わっており、効果的に盲腸内に微生物をとどめられるようになっている。このようにして盲腸で増殖した微生物や微生物がつくったビタミンなどは、通常の糞よりもこれらを多く含む「食べるための糞」としてまとめて排出され、食糞により動物に吸収される。このとき含まれる微生物は、草食性の動物にとってエサから得ることが非常に難しいタンパク質の補給源として、とても重要な役割を果たしている。」
 ネズミの盲腸にそんな機能があったとは……生物って、進化の過程で、いろんな方法で効率のいい栄養吸収の道筋をあみだすんですね……。人間は、この方法をとらないよう進化してくれて、本当に良かったと思います(笑)。もっとも、そういう進化をしていたら、それが自然なことになって特になにも感じないんでしょうけど……。
 ネズミの不思議で面白い世界を知ることが出来る本でした。ネズミ(齧歯類)愛好家の方はもちろん、生物が好きな方もぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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