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第1部 本

生物・進化

昆虫館はスゴイ!(全国昆虫施設連絡協議会)

『昆虫館はスゴイ!』2021/7/21
全国昆虫施設連絡協議会 (著)


(感想)
 全国昆虫施設連絡協議会に所属する全国22の昆虫館の個性的なスタッフが、昆虫と昆虫館へのこだわりについて熱く語った本気の一冊。「推し虫」から昆虫の魅力や楽しみ方、1年365日昆虫の飼育に携わるスタッフが紹介する飼育の技など、大人の虫好きにお届けするマニアが書いた本気の昆虫本です。
 ……えーと、実を言うと私自身は、あまり虫好きではありません。トラウマになるような出来事もあって、とくにクモやゴキブリなど家に入り込んでくる虫は苦手です。もっとも子どもの頃は庭でアリやトンボと楽しく遊んだ経験もあり、トカゲとかを「小さな恐竜みたい!」とずーっと眺めていたこともあるので、好きではないけど嫌いでもない、という程度です(もちろんトカゲは昆虫ではありませんが……)。
 だから、それほど期待もせずに、この本を手に取ったのですが、冒頭の「みんなの推し虫」のトップバッター、アカハネナガウンカの姿に大爆笑。まさに「ギャグ漫画の主人公のようなニヤけ顔」をしていて、これが本当に生きている虫だというのが信じられないぐらいのギャグ顔をしているのです。でもこの「面白過ぎる目」は、実は「偽瞳孔」と呼ばれる単なる黒い点で、実際にこちらを見ているわけではないのだとか。……うーん、反則でしょ、これ。
 その他にも、バンザイしているケラとかは、私の嫌いな某虫に似ているのですが、なんか可愛いようにも見えて……解説を読んだら、無一文の意味の「おけらになる」は、つまみ上げたケラが前脚をバンザイするように上げたままになる様子からできた言葉だということを知り……そうなんだ……昔の人にはユーモアのセンスがあったんだな、なんて妙な感心をしてしまいました。
 また蝶の多くは偏食で、モンシロチョウならアブラナ科植物、アゲハチョウならミカン科植物と限られた植物しか食べないという事実も初めて知りました。
 でもその後の「チョウの人工飼料」には、次の記述も。
「植物食の昆虫ですが、種によって食べる植物が違っていても、そこから得ている栄養分はそれほど変わりません。生き物の生育に必要な栄養分は、三大栄養素と呼ばれる糖質・脂質・アミノ酸とビタミン類・ミネラル分などが主です。これら成長に必要な成分を人工的に混ぜ合わせた「人工飼料原体」と呼ばれる混合粉末を、それぞれの種の好みに合わせて味付けすることで、極端に偏食な幼虫でも食べられる「人工飼料」に仕上げているのです。」
 あれ? ってことは、生きるのに必要だから偏食なのではなくて、まったく「好み」だけの問題なのかな? もしかして進化の過程で起こった「棲み分け」の工夫だったのかな? なんか謎が増えてしまいました(苦笑)。しかも「糖質・脂質・アミノ酸とビタミン類・ミネラル分などが主」ってことは、人間と変わらないんですね。
 ちなみに「人工飼料の利点は、保存性と安定性です。植物は若葉の時期もあれば、成熟して葉の硬くなる時期もあります。最も状態の良いタイミングで収穫し、乾燥粉末にして保存することで、一年を通じて均一な質の餌を用意できるのです。」だそうです。
 昆虫館では、昆虫の餌にも苦労しているようで、「生餌」に関しても、さまざまな工夫を読むことが出来ました。
 さらに「昆虫館はスゴイ!」では、いろんな昆虫館の特徴を知ることが出来ます。中でも「ぐんま昆虫の森「昆虫ふれあい温室」」は、亜熱帯気候の沖縄を中心とした南西諸島の自然環境を彷彿とさせる展示内容になっていて、群馬にいながらにして、沖縄を感じられる素晴らしいコーナーのようです。植物や流水も美しくて、眺めているだけでも癒されそう。
 そして、すごく興味深かったのが、石川県ふれあい昆虫館の「ぷくぷく標本」の話。
「コウチュウ目やトンボ目などの幼虫は、乾燥させてしまうと干物のように萎んでしまうため、液浸標本(ホルマリン漬け)により保管・展示されるのが一般的」ですが、これは見た目も悪く、コストや手間もかかるという問題があるそうです。
「そこで石川県ふれあい昆虫館では、より魅力的な幼虫標本を展示するため、生きているときに近い形態を保ったまま乾燥標本化できる「ぷくぷく標本」という技術の開発に取り組みました。乾燥させると干物のように萎んでしまうコウチュウ目、トンボ目、カメムシ目、カワゲラ目の一部の幼虫を、ぷくぷく膨らませた状態のまま乾燥させることに成功したのです。これにより、生きているときと近い見た目で展示できるだけでなく、安いコストで、しかも比較的短時間で標本化することが可能になりました。
 作成の手順は、1)殺虫、2)脱水、3)ぷくぷく化、4)展足(ピンで体や脚、触覚などを固定することで、標本の形に整えること)、5)乾燥の5段階です。」
 このぷくぷく化は、なんと次のような手順で行うのだとか。
「幼虫を衣料用漂白剤に浸けます。萎んだ幼虫を衣料用漂白剤に浸すと、幼虫の周りにたくさんの泡が発生し、幼虫がぷくぷくと膨らんでくるのです。泡が出なくなったら終了です。」
 衣料用漂白剤の泡で「ぷくぷく化(!)」。驚きですね。もちろん本書では、これについて詳しい手順の解説があります。この方法が使える昆虫の種類は、まだ限られているようですが、もしかしたら中学や高校の生物部なんかでも、実施可能かもしれない方法でした。
 全編オールカラーで、ブータンシボリアゲハなど貴重な昆虫の写真が満載。昆虫好きにはたまらない、秘話満載の内容です(逆に言うと、虫が嫌いな人には絶対に向きません)。
 全編虫だらけで、昆虫の魅力だけでなく、「全国昆虫施設連絡協議会」に所属する昆虫館の情報(住所や休館日、入場料なども)も掲載されています。虫好きの方は、ぜひ読んでみてください。
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 この本には続編の『昆虫館はスゴイ! 2』もあります。
 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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