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クリミナル・イノベーション(シャノン)

『クリミナル・イノベーション 天才プログラマーが築いた新時代の犯罪帝国』2020/12/17
エレイン シャノン (著), 棚橋 志行 (翻訳)


(感想)
 サイバー技術の天才から国際的犯罪組織の王へ……麻薬・小型兵器・ミサイル技術をサイバー世界を使って販売、凶悪犯罪に技術革新をもたらした冷酷な殺人者の正体と、DEAによる逮捕劇に迫る衝撃のノンフィクションです。
 現実の事件とはとても思えないほど衝撃的なものでした。まるで映画みたい……アメリカの同時多発テロもそうでしたが、現実は虚構よりも凄い時があるんですね……(ため息)。
 物語の中心となるのはポール・カルダー・ルルー、E4Mという先駆的なプライバシー・プログラムを書いたサイバーセキュリティの専門家だった人です。紛争地帯で不幸な少年時代を送ったという過去はありますが、その後は割と順調に普通に育ち、南アフリカの専門学校でプログラミングを学んだ後、ロンドンに本社のある情報技術コンサルティング会社で働き始めました。そして現代的なプログラミング言語だけでなく、アセンブリ言語などの古いコンピュータ言語まで習得しているコンピュータ技術の天才へと成長していったのです。
 才能を認められて新しいベンチャー企業のパートナーとなったルルーは、さらに大金を稼ごうと、暗黒のビジネスに身を転じていきます。まず始めたのが薬剤のネット販売。そして違法薬物から麻薬、さらには兵器販売へとどんどん事業を拡大していきました。しかも彼は傭兵たちを雇い、彼を裏切った部下や邪魔者を暗殺させる部隊として働かせることすらしていたのです。
 やっていたことは既存の凶悪犯罪組織とほぼ同じようなことでしたが、彼のやり方は現代的に洗練されていました。彼はその天才的頭脳をフル活用して、IT起業家のように彼の犯罪組織を拡大させていったのです。
「想像力を解き放ち、安い(もしくは無料の)技術を活用して費用を最小限にとどめ、機敏に行動することで、新時代の起業家は、「最小限実用に足る商品」を生み出し、市場テストをして、概念が正しかったという客観的な証拠が見つかったときだけ先へ進む。(中略)大事なのは数字だ。最初のリターンが確かなものなら、急いで事業規模を拡大する。確かなものでなければ、回れ右して、情熱とエネルギーを次の大きなアイデアの掘り出しに振り向け直す。失敗は恥ずかしいことではない。逆に、敗者への道から賢明な方向転換を図ること、と成功の秘訣を定義しなおせば、失敗は時間とカネの救世主になる。」
 シリコンバレーで大流行していたこの方法論とそっくりの事業方式を、ルルーは自ら開発していきました。
 ネットでの薬物販売、兵器取引、マネー・ロンダリング、麻薬取引(高い依存性がある高価な商品への着目)……有能な部下をスカウトして遠く海外に拠点を作らせ、会社や工場(住宅や倉庫、学校やモスク、兵器庫や飛行場など独立した小都市規模のものまで!)を建設していきました。北朝鮮の売り出した余剰潜水艦の購入に失敗したときには、なんと潜水艦の建造まで始めています。
 ミサイルを欲しがるイランにミサイルを調達できなかった時には、彼は現状より優れたミサイル技術(安価な商業用GPS受信機のチップをプログラムし直すことで、より高精細なGPS航法システム)を提供することを提案し、研究所を設置して研究開発チームを結成するほど意欲的に活動していました。幸いなことに、この技術が完成に至る前にルルーは逮捕されましたが、完成していたら世界のパワーバランスは変わってしまったかもしれません……。
 国際的犯罪組織の王になりつつあったルルーを逮捕したのは、アメリカのDEA、国際的な大物犯罪者を取り締まる捜査機関です。危険をものともせず正義を貫こうとする彼らの献身的努力がなかったら、ルルーのような犯罪者は他の誰にも逮捕できないんだろうなーと、読んでいて背筋が寒くなりました。
 DEAにも元海兵隊員、元兵士、元警官がたくさんいますが、ルルー側の傭兵たちにも優秀な元兵士たちがたくさんいましたし、最終的にはDEAに寝返ることになったルルーの部下のジャックも、高い経営能力がある有能な人間だったのです。ジャックはルルーに協力しているうちに、しだいに彼の組織の犯罪性に気づいていったのですが、気づいた時には抜け出せなくなっていた……ビジネスでの有能な部下には、彼のような人がけっこういたのかもしれません。もしかしたらミサイル技術の研究開発チームの人々も、自分が犯罪組織の一員であることを知らなかったのかも。
 もちろんルルーの悪魔的有能さはすさまじくて、彼の話を聞いているうちに、DEAの捜査官ですら、この男は凄腕の潜入工作員として一緒に働けるかも……と夢想してしまうほどなのです。
 このノンフィクションは、ごく一般的な犯罪冒険物語よりも規模が大きく、使っている技術なども具体的で、読んでいてハラハラ、どきどきさせられました。下手なフィクションより凄い物語です。……これが現実にあったことだとは……現実って怖いですね……。
 幸いルルーは逮捕されましたが、いつか刑期を終えて出所した後には、どこかに隠しておいた財産で、また何かを始めるのでしょう(捜査官も、彼がすべての財産と情報を吐き出したとは思っていませんでした)。
 また、たとえルルーが改心したとしても、今後も同じような犯罪者は、どこかで生まれてくるのでしょう。もしかしたらロボット(AI)軍団を作ろうとするのかもしれません。ルルーのウィークポイントは、明らかに人間でした。犯罪組織では、無能な人間が危険(逮捕など)をもたらすのはもちろんのこと、有能な人間も裏切りという危険をもたらすのですから(有能な人間は不安や不満、葛藤で精神が病んでいくようです)。
 たった一人で国際的犯罪組織を作り上げた天才プログラマーの犯罪冒険物語(実話)でした。両陣営が知略を尽くして相手を出し抜こうとする、下手なフィクションよりもの凄い話なので、冒険小説や警察小説などが好きな方は、ぜひ読んでみてください。
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