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第1部 本

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GAFAMvs.中国Big4(大西康之)

『GAFAMvs.中国Big4 デジタルキングダムを制するのは誰か?』2021/3/25
大西 康之 (著)


(感想)
 世界の覇権をめぐり、アメリカと中国の企業間では、熾烈な争いが繰り広げられています。これまで世界経済を牽引してきたGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)を、中国Big4(バイドゥ、アリババ、テンセント、バイトダンス)が猛追し、肉薄しているのです。果たして勝者となるのは誰なのか?について、これまでの経緯を振り返ることで考察している本です。
 序章には次のような記述がありました。
「GAFAM対中国Big4の構図は、「石油からデータへ」と並ぶもう一つのパラダイムシフトを示唆している。国家から企業へのパワーシフトだ。」
「「石油の世紀」の主役だったオイル・メジャーやビッグ・スリーは国家に守られていた。だが「データの世紀」の主役たちは、国家の庇護を必要としない。デジタルの世界に生きるプラットフォーマーのビジネスは軽々と国境を越え、彼らの元に集まるデータ量は時に国家のそれを上回る。」
 ……確かにアメリカのGAFAMに代表される巨大IT企業は、従来の大企業とは違った急成長を遂げてきています。そして今、それを中国のIT企業が猛追しています。
 続く第1章(マイクロソフト、アップルなど)、第2章(GAFAMなど)は、アメリカの巨大IT企業の起業からの経緯を描いています。これらの内容は、すでに多数の書籍等で何度も紹介されているので私にとっては既知の情報が多かったのですが、知らない方はぜひ読んでみてください。かつてはパソコンやスマホがなかった時代があって、今のような時代を築いてきたのは若者たちだったんだ……という感動的(衝撃的?)な事実を知ることができます。
 そして第3章がいよいよ中国Big4の歴史的経緯。個人的にはこの章が一番興味津々でした。次のような記述を読むことが出来ました。
「(グーグルが中国から撤退して)中国国産の検索エンジン「百度(バイドゥ)」がデファクト・スタンダードとして定着したのだ。」
「中国政府は関税ではなく「検閲」の力で米国の強力なプラットフォーマーが自国に侵入するのを防いだ。政府が「デジタル鎖国」を続けている間に、「紅いグーグル」のバイドゥ、「紅いアマゾン」のアリババ、「紅いフェイスブック」のテンセントが爆発的な勢いで成長した。3社はその頭文字から「BAT」と呼ばれた。少し遅れて「ティックトック」のバイトダンスが登場し「Big4」が出そろった。」
「アリババ、テンセントの爆発的な成長は中国の「キャッシュレス化」につながっている。中国ではスーパー、デパート、レストランだけでなく、街の八百屋や屋台でもスマホを使った電子決済が当たり前になっている。アリババ傘下のアント・グループが手がけるアリペイや、テンセントの「ウォーチャット・ペイ」が標準的な支払い方法である。」
「中国が2017年に施行したインターネット安全法は「ネット運営者は公安機関や国家安全機関が行う国家安全を守る活動や捜査活動に協力しなければならない」と定めている。米国は「中国ネット企業のサービスを使うと、利用者の個人情報が中国政府に筒抜けになる」と懸念している。
 国がデータを把握することの効能もある。スマホ決済のデータはアリババやテンセントを通じて、リアルタイムで中国政府に流れる。金の流れはガラス張りとなり、脱税やマネーロンダリングは現金の時代より格段に難しくなった。スマホ決済で顧客を囲い込みたいアリババ、テンセントと、国民の財布の中身を管理して「ネット時代の社会主義市場経済」を実現したい中国政府は、見事に利害が一致している。」
「バイドゥは2020年4月、湖南省長沙市の公道で、人が操作しない「レベル4」のロボタクシーの試験サービスを一般の利用者を対象に始めた。米国より規制が緩い中国では自動運転のデータもより多く集めることができる。」
「中国政府も「Face++」の大口顧客だ。2億台ある監視カメラは歩行者の顔情報を逐一、記録しており、当局が入力した指名手配犯の顔写真データを一致するとただちに連絡が入る。メグビーによると2018年9月までに5000件を超える犯罪で1万人以上が、このシステムで逮捕されたという。」
 中国は凄まじい勢いでアメリカのGAFAMを追い上げています。2018年12月、中国ファーウェイの副会長兼最高財務責任者(CFO)が米司法省の要請によりカナダ政府に逮捕されましたが、この事件は、米国が中国のIT・ネット産業をいかに「脅威」に感じているかを物語っています。
 この事件は、かつて1980年代に起こった「日米半導体・コンピューター摩擦(IBMが富士通など日本の3社に巨額の損害賠償を請求したIBM産業スパイ事件)」を思い出させるものでした。でも大西さんは、中国は日本とは違うことになるだろうと、次のように推測しています。
「まず第一に米国の「核の傘」の下で安全保障を確保している日本と違い、中国は通商摩擦で米国に「譲る」筋合いはどこにもない。資源や食糧の大半を海外に依存する日本は、米国との貿易抜きでは生きていけないが、広大な国土と14億人の巨大市場を内に抱える中国は、米国との通商が断たれても、何とか経済を回していけそうだ。
 米国がこのまま中国を締め上げる経済政策を続ければ、米中間の貿易が減り、それぞれの経済が別々に発展する「デカップリング(住み分け)」が進む。実際、アリババ、テンセント、バイドゥといった中国のネット大手は、閉ざされた国内市場の中で、GAFAMに次ぐ企業価値を持つレベルまで成長してきた。(中略)
 何れにせよ中国国内を主戦場とする中国ネット大手は、米国市場から締め出されても、痛くも痒くもない。米国でGAFAMと正面衝突するより、彼らが手薄にしているアフリカ、中央アジア、中近東などに勢力を伸ばしていくだろう。」
 今後のデジタル社会は、米欧(+日本+オーストラリアなど)とそれ以外(中国など)の二極化に進んでいくのでしょうか。かつて(現在も)のIT大国・日本も、この中で確かな存在感を主張し続けて欲しいと願っています。
 ただ……中国のネット社会はプライバシー保護の面で不安があるので、この快進撃には何かモヤモヤしたものを感じずにいられません。大西さんも次のような懸念を示していました。
「(前略)GAFAMに代表される米国のネット企業は「プライバシーの保護」で両手両足を縛られている。プライバシーにかかわる規制の少ない中国で事業を展開するメグビーやセンスタイムといった中国の顔認証システム会社は、GAFAMやNECなど日本のIT企業よりはるかに優位だ。」
 ともかく日本のIT企業が、この現実の中で競っていかなければならないことは確かでしょう。
 GAFAMと中国Big4という巨大IT企業の歴史的経緯を知ることが出来る本でした。興味のある方はぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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