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第1部 本

医学&薬学

新型コロナからいのちを守れ!(西浦博)

『理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ!』2020/12/8
西浦 博 (著), 川端 裕人 (著, その他)


(感想)
 感染症数理モデルを利用した流行データの分析を専門とする西浦さんが、厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班での活動の、半年間の記録を語ってくれる本です。
 ダイヤモンド・プリンセスが寄港。感染者が発生して、日本でも新型コロナウイルス流行が始まります。2月22日、西浦さんは、加藤勝信厚生労働大臣から「エマージェンシー・オペレーティング・センターを作るので、中心に立って流行対策にアドバイスしてほしい」と要請され、日本で初めて感染症対策の専門家が、政策決定の中枢に入ることになったそうです。それから半年の間の、新型コロナ対策の舞台裏で繰り広げられた政治との格闘、サイエンス・コミュニケーションの葛藤と苦悩、科学者たちの連帯と絆について、本音を語ってくれる奮闘の記録でした。
 ところで「数理モデルを利用したデータの分析」というと、「終了後の事後分析」という感じで、「即効性」があるような気はしていなかったので(汗)、次の記述には驚いてしまいました。
「「このまま(ダイヤモンド・プリンセス号の)乗客に下船してもらったとして、下船時の検査では陰性でも、下船後に発症する人は何人くらいいるだろうか」などと聞かれると、すぐその場でカチャカチャとパソコンで計算して、「ゼロから数十人の範囲ですが、10人くらいじゃないですかね」と答えたり(実際は9人が下船後に発症)、そういうことを繰り返しやりました。」
 ……なるほど、「数理モデルを利用したデータの分析」にはそんな力があるんですね! こんな質問に即答してもらえるなんて……専門家の力って凄い、と思わされました。新型コロナ対策では、科学者チームがクローズアップされましたが、こんなふうに「専門家が、専門的知識あるいはデータに基づくエビデンスを、「科学的な根拠に基づいた政策決定」のために提供」してくれることは、本当に現実的に役に立ち、とてもありがたいことだと思います。
 このように「感染症対策の専門家が、政策決定の中枢に入る」ことは、「初めて」のことだそうで、それだけに大変な苦労があったことも、この本で知ることが出来ました。
「経済と流行対策の二項対立」には特に心を痛められたようで、「政治と科学の距離感や責任の所在を含めてやり方を考え直さないと、とても持たない」と感じていたようです。……確かに、「経済を重視すると感染症対策が弱くなるというジレンマ」は、誰にとっても頭が痛い問題です……。
 西浦さんたちのチームは、感染者のデータの分析から、クラスターが発生する環境(「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触する恐れが高い場所」)をある程度特定し、それが現在の「3密(密閉・密集・密接)を避ける呼びかけ」などの実効性のある対策につながったようです。
 また、メディアでの伝え方が大事なのでメディア勉強会を始めるなど、情報発信の方法にも気を配っていたようです。これについては、次のような方法を提案されています。
「イギリスにあるような科学顧問制度みたいなものがあれば、政府に任命された信頼できる主席科学顧問が、科学コミュニケーターやクライシス・コミュニケーションの専門家に助けられながら、国民にメッセージを発する仕組みが考えられます。」
 一般市民としても、「より良い行動」をするために、ぜひ「正確な情報」を得たいと願っています。
 本書の共著者の川端裕人さんによる「あとがき」には、次のように書いてありました。
「本書の目論見は「新型コロナウイルス感染症の流行の収束がまだ見えない中、最前線で感染症制御に奔走して「第一波」を乗り切った科学者が、その間、目の当たりにし、考え続けたことを共有する、ということにつきる。それは科学的なリアルタイムの分析を、いかに政策に反映させていくかという記録であると同時に、父権主義的な対策の決定ではなく、情報を公開した上での意思決定支援に向かおうとする模索の記録でもある。
 それらを広く共有することで、当面は続くであろうこの感染症との対峙の仕方について、ひとつの基準点を提供できるのではないかと期待している。」
 この本は、まさにその目論見通りの貴重な記録だと思いますし、今後、日本がまた他の感染症に襲われることになった時に、より適切に対処するために、どう変わっていくべきかを教えてくれるものだと感じました。
 本書の中では、政府に対して以下のような提言を行っています。
・責任範囲と役割の明確化
・専門家助言組織は、社会経済活動の維持と感染症防止対策の両立を図るために、医学や公衆衛生学以外の分野からも様々な領域の知を結集した組織とする必要あり
・政府のリスクコミュニケーションのあり方にアドバイスできる専門人材を参画させるべき
 また「関連して対応しておくべき喫緊の事項」として、以下の記述もありました。
・危機対応時における市民とのコミュニケーションの体制整備
・専門家助言組織が設定した研究課題に関する対応
・データの迅速な共有
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 感染症との闘いは、常に「経済と流行対策の二項対立」が避けられないものだと思います。そのためにも、今後は日本にもCDCのような組織を作る方向に進むべきではないでしょうか。
 私たちがいかに感染症と対峙していくべきかを考えさせてくれる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください☆
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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