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第1部 本

医学&薬学

新型コロナ 7つの謎(宮坂昌之)

『新型コロナ 7つの謎 最新免疫学からわかった病原体の正体』2020/11/19
宮坂 昌之 (著)


(感想)
 最新の科学データで、正体不明の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の7つの謎に迫っている本です。
 7つの謎とは、「風邪ウイルスがなぜパンデミックを引き起こしたのか」、「ウイルスはどのようにして感染・増殖していくのか」、「免疫VSウイルス なぜかくも症状に個人差があるのか」、「なぜ獲得免疫のない日本人が感染を免れたのか」、「集団免疫でパンデミックを収束させることはできるのか」、「免疫の暴走はなぜ起きるのか」、「有効なワクチンを短期間に開発できるのか」です。この本で、これらの謎のすべてが解明されているわけではありませんが、少なくとも、最新の科学データをもとに解明へと迫っているので、それらを読むだけでも、とても参考になりました。
 例えば、新型コロナ感染では、症状がでないほど軽いまま終わってしまう人と、死亡に至ってしまうほど重症化してしまう人がいますが、それには次のことが考えられるそうです。
「軽症の人はI型インターフェロンをはじめとして炎症反応に関わるサイトカインが適切なタイミングに適切な量だけ産生されるため、正常な炎症反応が働いて最終的にウイルスを排除するのに対して、重症の人は、I型インターフェロン産生や放出の不良を引き金にして、さまざまな炎症性サイトカインが過剰に産生・放出されることで、ドミノ倒し的な炎症反応が広がったうえに、それにブレーキがかからず、免疫系を疲弊させます。その結果、肺を含むさまざまな臓器の機能不全が起きるのです。」
 なるほど。ただし個人差もあるので、これ以外の理由も考えられるようですが……。
 こんな感じで、新型コロナウイルスについて現在分かっていることを、7つの謎を軸に詳しく解説してもらえるので、とても勉強になります。
 個人的に一番興味津々だったのは、新型コロナを収束させるための「ワクチン」と「治療薬」に関する部分。
 新型コロナウイルスに対しては、DNAワクチン、RNAワクチン、不活化ワクチン、タンパク質サブユニットワクチンの4種類のワクチンが開発されているそうです。
 これらのワクチン開発で最終的に確認すべきことは、次の通りだとか。
1)ワクチンが単に抗体を作るかではなく、中和抗体(善玉抗体)を作る
2)ワクチンが十分な感染予防効果を持つ
3)ワクチンが重症化予防効果を持つ
4)ワクチン接種者が感染したときにADE(抗体依存性感染増強)が起こらない
 実は、抗体には、「善玉抗体(ウイルスを殺すなど)」だけでなく、「役なし抗体(ウイルスに何もはたらかない)」や、なんと「悪玉抗体(ウイルスの感染性を強めるなど)」まであるそうです。……そりゃワクチンには、なんとしても中和抗体(善玉抗体)を作ってもらわないと……。
 そしてワクチン投与後に、身体は次のような状態になるそうです。
「普通の治療薬では、主な薬理作用以外の好ましくない作用のことを「副作用」といいますが、ワクチンの場合は違います。ワクチンの主な作用は「免疫を付与する」ことであり、ワクチン接種に伴う反応(局所の赤み、発熱、腫れ、全身性の発熱など)は、実は炎症性サイトカインがたくさん作られるために起こるのです。したがって、これらの反応は副次的なものではなくて、免疫反応の結果です。このような理由から、これらの現象は「副作用」ではなくて「副反応」とよばれます。副反応とは、ワクチンがからだの免疫反応を利用したものであることから、一定程度の生体の反応、特に炎症反応が起こることは防げません。一番よくあるのは、接種した部分が赤くなり、腫れてしこりができることや、全身性の発熱です。通常、1~2日以内に収まります。」
……軽い症状が出るのは当たり前なんですね。そして確率はかなり低いようですが、重大な副反応(アナフィラキシー、生ワクチン接種による原病の発症、脳症、ギランバレー症候群など)が起こる場合もあるそうです。
 また接種したワクチンの効果の持続時間も気になりますが、次のように、インフルエンザワクチンなどが意外に短かったことに驚かされました(どうして持続期間に差が出るのかは分かっていないそうです)。
「ワクチンには、その効果が長続きするものと、そうでないものがあります。長続きするものの代表が、破傷風、風しん、はしかなどで、一度免疫ができると効果が半減するまで50年ぐらい続きます。一方、短いほうの代表がインフルエンザワクチンです。半減期は4か月程度で、秋に早めにワクチンを接種すると、実際にはインフルエンザがはやる季節(冬)の後半ではその効果がかなり薄くなっている可能性があります。」
 そうだったんだ……。
 そして期待させられたのが、「抗体を利用した有効性の高い新型コロナウイルス感染症の治療法」の話。次のような記述がありました。
「(前略)安全で予防効果が高いワクチンが実用化されるまでには少し時間がかかりそうです。しかし、この間、抗体を利用した有効性の高い新型コロナウイルス感染症の治療法が開発されつつあります。一つは快復者からの血漿移入療法、もう一つは快復者から得たB細胞から抗体遺伝子をクローニングして、新型コロナウイルスを中和できる人工抗体を作成して投与する方法です。」
 このうち血漿移入療法には、未知の病原体が移入される可能性などの問題があり、人工抗体の方が、より安全な方法に思えましたが、さらに次のメリットもあるそうです。
「人工抗体のメリットは、たとえウイルスが変異をしたとしても、変異をしていない部分に反応する抗体を作り、それを複数、混ぜて使えば、変異株でも不活化できるというメリットがあることです。」
 2021年1月現在、すでに変異した新型コロナウイルスが見つかっているので、この人工抗体による治療法が確立されるといいなと期待しています。
「新型コロナウイルスを正しく知る」ために、とても参考になる本でした。みなさんも、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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