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第1部 本

歴史

オリジン・ストーリー(クリスチャン)

『オリジン・ストーリー』2019/11/15
デイヴィッド・クリスチャン (著), 柴田 裕之 (翻訳)


(感想)
「ビッグヒストリー」は宇宙の始まりから終わりまでを扱う総合学問。そしてこの『オリジン・ストーリー』は、それを基礎とした現代の起源譚です。
 世界はどのように始まったのか、私たちはどこからやって来たのか……創世記や古事記など、私たちの祖先はそうしたことを伝えるオリジン・ストーリー(起源の物語)を語り継いできました。それらを受け継ぎ、現代の科学に基づいた「オリジン・ストーリー」を作り直してみようという試みが「ビッグヒストリー」だそうです。
 だからこの現代版『オリジン・ストーリー』は、なんと第一部が「宇宙」から始まるのです。「ビッグ・バン」から世界が始まる……この第一部を読むと、この本は歴史書(ビッグヒストリー)ではなく、宇宙科学の本にしか思えません(汗)。しかも第二部は『生物圏』。第二部を読むと、生物や進化の本にしか見えないのです(笑)。ここには地球科学も含まれています。ちょっと長いですが、一部を引用させていただくと、次のような感じ。
「地質学的なサーモスタットは、以下のような仕組みになっている。温室効果ガスのうちでもとくに強力なガスである二酸化炭素は雨に溶け、炭酸の形で地表に落ちてくる。そして、岩石中の物質を溶かし、この反応の副産物(大量の炭素を含んでいる)が海に流れ込む。そこで炭素の一部が炭酸塩岩の中に取り込まれる。構造プレートが沈み込み帯で潜ってマントルの中に戻っていく場所では、この炭素の一部(その多くが石灰岩に含まれている)が、何百年も、あるいは何十億年にわたってさえも、マントルの中に埋もれ続けうる。こうして地殻変動のベルトコンベヤーが炭素を大気圏から取り除くので、やがて二酸化炭素濃度が下がり、気候が寒冷化する。地球の表面や大気中に存在する炭素よりもはるかに多くの炭素がマントル内部に埋もれていることが、今日わかっている。
 もちろんこのような形であまりにも多くの二酸化炭素が埋もれたら、地球は凍ってしまう。それを(たいていの場合)防いだのが、地質学的なサーモスタットの第二の特徴だった。二酸化炭素は、プレートテクトニクス(氷の多い火星では、おそらく機能していないメカニズム)に促進されて、発散境界で大気中に戻ることができる。発散境界では、埋もれていた二酸化炭素も含めて、マントルからの物質が火山を通って地表まで昇ってくる。このメカニズムの両面の間には均衡がある。なぜなら、温度が上昇すれば雨が増え、それが浸食を加速し、より多くの炭素をマントルの中に戻すからだ。だが地球が冷え過ぎると降雨が少なくなり、埋もれる二酸化炭素が減り、火山を通して登ってくる二酸化炭素のせいで濃度が上がり、そのおかげでまた地球は温かくなる。地質学的なサーモスタットは、40億年にわたって、太陽から届く熱量の増加に順応してきた。」
 こんな感じで、専門的な内容を含む「ビッグヒストリー」が、びっしりと文章で綴られていくので、読書好きの私でさえ読むのにかなり苦労してしまいました(汗)。それでもこの本、2200円+税の価値は十分にあります。この本一冊で、専門書何冊分かの知識が詰め込まれた「宇宙の始まりから終わりまでの歴史」を概観できてしまうのですから☆
 また第三部「私たち」には、次のようなドキッとするような記述も。
「農耕の基本原理自体は、いたって単純だ。すなわち、環境に関する知識を活かし、最も有益だと考える動植物の収穫量を増やし、役に立たないものの生育を妨げるのだ。」
「農耕とは端的に言えば、だんだんと蓄積されていく環境の活用法に関する情報にアクセスできる、非常に機知に富んだ単一の種によるエネルギーと資源の略奪だった。人間は集合的学習という魔法のような能力を通して、生物圏を巡っているエネルギーと資源の流れを利用できるようにどんどん引き込んで、自らの取り分を増やす方法を見出したのだ。」
 ……うーん、農民というと、その利益を為政者やヒエラルキー上位者に略奪される側の存在(弱者)のように感じていたので、農耕を「エネルギーと資源の略奪」だと思ったことはありませんでしたが……そう言われると確かに、地球や人間以外の生き物から見ると、略奪する側(に従事している存在)なのかもしれません……。
 さて、この本は、世界中の人々を「互いに協調しあう平和な世界」に導くための「共通の歴史認識」を教えることが執筆の動機だったようです。そしてそれは、著者のクリスチャンさんより前にも目指していた人がたくさんいたようで、その一人、H.G.ウェルズさんの次の言葉が紹介されていました。
「私たちは気づいた。今や、全世界における共通の平和以外には平和はありえず、全体の繁栄以外には繁栄はありえないのだ。だが、共通の平和と繁栄は、共通の歴史認識抜きにはありえない。……狭量で、利己的で、相争うナショナリズムの伝統しかなければ、人種や民族は知らず知らず闘争と破壊へと向かう運命にある。」
 クリスチャンさんはさらに続けます。
「ウェルズには他にも承知していることがあった。すなわち、人間の歴史を教えようと思うなら、おそらく万物の歴史を教える必要がある、ということだ。だからこそ彼の『世界史外観』は宇宙の歴史になったのだ。人間の歴史を理解するには、これほど奇妙な種がどのように進化したかを理解しなくてはならず、それには地球における生命の進化について学ぶ必要があり、それには地球の進化について学ぶ必要があり、それには恒星や惑星の進化について学ぶ必要があり、それには宇宙の進化について知る必要がある。(後略)」
 なるほど。「ビッグヒストリー」そして「オリジン・ストーリー」には、そんな崇高な目標があったのですね。この本の終盤で、クリスチャンセンさんは、次のように語りかけています。
「(前略)良い人新世と悪い人新世の考察からは、今現在、人間が行っている探求の冒険目的が何であるかがわかる。まず、破綻を避けることだ。それを果たすことができたら、その先に二つの目標がある。第一に、良い人新世がもたらす恩恵をすべての人が享受できるようにすること。第二に、生物圏が繁栄し続けるようにすることで、それは、もし生物圏が衰退すれば、どんな探求も成功しえないからだ。私たちの課題は、こうした目標を達成することだ。」
 本当に、その目標が達成できるといいなと願っています。
 残念ながら「ビッグヒストリー」が「宇宙の終焉」で終わることは約束されているようですが、それは何億兆年も後のこと。それまでの間、すでに人間が大きく変えてしまったこの地球環境を、そして私たち自身の世界を、「より良い地球環境(世界)」に変える努力を微力でも続けていきたいと思います。
 情報がぎっしり詰め込まれているので、読むのはとても大変でしたが、いろんな意味ですごく勉強になった本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
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