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第1部 本

生物・進化

我々は生命を創れるのか(藤崎慎吾)

『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの (ブルーバックス)』2019/8/22
藤崎 慎吾 (著) )


(感想)
 生命とは何か? 私たちは人工生命をつくれるのか? を考察している科学エッセイです。
『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの』というタイトルから、最近話題の「合成生物学」の最新情報に関する本だと思ったのですが、もっと根源的な「生命とは何か?」を問い直すことに主眼が置かれていて、生命の誕生や、生命の生と死、そして生命やDNAの合成に関する研究をしている人たちの紹介(取材)を通して、藤崎さんの「生命」への思いがエッセイ風に書かれている本でした。だから「生命はこういうもの」「合成生物学はこうなっている」という科学的な解説本というよりは、合成生物学者や宇宙生物学者たちが試行錯誤する現状(途中経過)の紹介を通して、生命科学や「生命とは何か」がどういうものかを考察している本だったと思います。
「合成生物学」の最新知識を得たい人にとっては、物足りない内容だと思いますが、個人的には、生命科学の研究者のリアルな活動状況の一端を垣間見ることが出来て、とても興味深かったです。
 例えば、「第三章「生命の起源」をつくる」の「合成生命学」に関する話題。
「(前略)合成生物学による生命起源の研究は、「工学的」あるいは「構成的」な手法をとる。つまり四十億年前の状況がどうだったかを念頭に置きつつも、今ある材料や道具をガンガン使って、生物(的なもの)全体やその一部をつくり、できてしまったら、あらためてその意味を過去にさかのぼって考える。
 ばらばらに分解してしまった時計を、それぞれの部品の働きや、部品どうしの関係などを考えつつ、試行錯誤しながら組み立て直すようなものだろうか。その過程で「時計」を可能にする原理や仕組みが見えてくる。一種のリバースエンジニアリングだ。あるいは人間の「脳」を理解するために「人工知能」をつくってみることにも似ている。」
 確かにその手法は「人工知能」をつくることに似ていますし、「部品」の理解から「生命」を知るという手法は有効なのだとは思いますが……部品が機械(金属)の「人工知能」と違って、「合成生物学」の場合は、部品が細胞やタンパク質ってところに、ある種の怖さを感じてしまうんですよね……何か偶然の出来事で、「制御不能の暴走」が発生しかねない危険性を感じてしまうんです。なぜなら「生命」の特徴の一つは、自己増殖なのですから。
 さらに驚かされたのが、「第四章「生命の終わり」をつくる」の「細胞のサイボーグをつくる」。
 マイクロデバイスで、膜タンパク質であるATP合成酵素の挙動を、その部品となっている分子一個一個の単位で調べるという試みが行われているそうです。薄いガラス板に、半導体チップをつくるのとまったく同じ方法で、ミクロン単位の穴が100万個ほど開けられているのですが、そこに細胞膜と同じ脂質二重膜で蓋をして、膜タンパク質の働きを調べるのだとか。
 そして、「マイクロチャンバー」と呼んでいるその穴の中に、大腸菌の中身を封じこめて調べるという、次のような研究が介されていました。
「大腸菌のプロトプラストがチャンバーの蓋と接触したとき、細胞膜には一瞬、穴があくはずだ。だから卵を割ったときのように、中身がでろんとチャンバー内に移る。しかし蓋と細胞膜とが融合するため、チャンバー外の液体中に拡散してしまうことはない。(中略)そして単なる脂質二重膜だった蓋は、いまや細胞膜と一体化しているから、そこには大腸菌の膜タンパク質が組みこまれている。したがってハイブリッドセルは、外界との境界が部分的に人工物(ガラス)で、融合時に少し中身が薄まっていることを除けば、一匹の大腸菌と「等価」なのだ。」
 ……なんかすごく未来的なようにも、マッドサイエンティスト的なようにも感じられる研究ですね……。
 そしてすごく驚かされると同時に考えさせられたのが、「第五章「第二の生命」をつくる」。なんとDNAに、現在の四種類の核酸塩基(ACGT)以外のものを追加してみるという研究が行われているそうです!
「(前略)現時点では四種類しかない核酸塩基を、六種類に増やす研究が進められている。成功すれば六文字が使えるわけで、そのうちの三文字だけを組み合わせたとしても6×6×6=216種類の暗号に拡張できる。四文字にすれば1296通りで、すべての天然アミノ酸と人工アミノ酸を指定できることになる。
 それを実現する研究は国内でも進められているが、アメリカのスクリプス研究所が一歩、先んじているようだ。2014年には二種類の人工塩基XとYをDNAに組み込んで大腸菌に導入し、正常に複製されることを示した。つまり、その大腸菌はACGTXYの六文字で書かれたDNAを得たことになる。
 そして2017年には、改造したDNAで緑色蛍光タンパク質(GFP)を生成させることに成功した。その際、GFP遺伝子の「TAC」という配列を、人工塩基を含む「AXC」に変更したのだが、できたタンパク質では、ちゃんとそこが天然にはない人工アミノ酸に置き換わっていた。」
 えええええ?
 ……でも……なるほどDNAは、地球では、たまたま手近にあって利用しやすかったACGTを使っているだけで、他の星なら別の素材で作られていた可能性もありますよね。しかも文字数に制限があるわけでもないでしょうから……文字が多いほど、多くの情報が蓄えられるはずですし……。この研究はなんだか冒涜的な感じがするし、新しいDNAを持つ生物は、これまでとはまったく違った生物になる可能性が高くて強烈に恐ろしい感じもしますが、今後の生物進化や、他の星に生きる生命の姿などを考えるのに役に立つような気もします。
 こんな感じで、「生命」に関する最新研究動向を紹介してくれるとともに、「生命」とは何かについても考えさせてくれる本でした。「人工生命は死なない(たとえば凍らせるなどして代謝や増殖を止めたとしても、つくったものなので何か手を加えれば、もとの状態に戻せる)」などという記述を読むと、死なない生命は、そもそも生命なのか? という根本的な疑問まで感じてしまいます。
「生きる」とは、「死ぬ」とは何か、ということまで考えさせてくれる「生命科学」の本でした。生物学に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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