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第1部 本

社会

日本エリートはズレている(道上尚史)

『日本エリートはズレている』2017/1/10
道上 尚史 (著)


(感想)
 先進国と途上国の格差が縮小し、各国がしのぎを削る「接戦の時代」なのに、日本人は今も「日本が一番」の幻想の中にいる……中国、韓国、そしてドバイでさまざまな外国人と交流を持つ現役外交官が、日本の現状を考察(懸念)している本です。
 中東の国というと、イスラム教=「コーランか剣か」=戦闘的(テロリストが多い)と連想しがちでしたが(汗)、実情はかなり違うそうです。この本には、次のような記述がありました。
「地元(ドバイ)の会社社長いわく、「わが社の社員の国籍を数えると25か国、スンニもシーアもキリスト教もヒンズー教もいます。サウジアラビア、イラン、イラク、シリア……。政治レベルでは反目しあう国籍の人々が、同じ職場で相談しあい協力しあって仕事をしています。宗教や政治を職場に持ち込む人はいない。互いの多様性、異質性を大事にしています。」」
 ……そうだったんだ。しかも。なんと「UAEでは、人口の9割が外国人だ。」そうで、カタールやクウェートも7割以上が外国人なのだそうです。……そうか、中東って、よく考えたらアジアとヨーロッパの間にあって、大昔から「国際化」された地域ですよね……。
 この本では、現役外交官の道上さんが、こんな感じの「日本人的偏見(?)」をびしびし指摘してくれます。
 日本人は、海外の実状をよく分かっていない上に、英語力にも劣っているのだとか。次の指摘、耳に痛かったです。
「日本ではよく、「読解と文法と単語は強いが、聞き取りは弱い」「受験勉強がよくない」と聞くが、これは違う。三カ国(日中韓)の中で日本が一番英語の授業時間が少ない。日本はまず単語が弱い。受験勉強は非常に強力な武器だ。問題は勉強量が少ないことなのだ。」
 ……ぐ、ぐっ……私もまさに「読解と文法と単語は強いが、聞き取りは弱い」と考えてしまっていました(汗)。
 そして海外の方からの次の指摘も……。
(ドバイの経済官庁の知人の話)「(前略)日本の方は、従来どおり、昨年どおりのラインから変わること自体を、面倒で負担に感じているのが見えます。昔教科書で習ったように、経済活動とは新機軸を作ること、イノベーション(創造)のことですよね。人がやらなかったノウハウ、技術、販路開拓です。でも、変化を面倒くさがっていたらイノベーションどころではない。90年代までの日本は、積極的に新しい提案をしてこられました。でも今は、若い人も幹部の方も、あまり前向きな姿勢で仕事をされないように見えます」
(ドバイのコンサルティング会社勤務の人の話)「(前略)日本側の担当は大体が海外経験のない方で、万事日本国内の尺度で測ろうとします。有名な大企業でもそういうことがあります。外国の制度が日本と違うこと自体でまず拒否反応が来る。日本は古くから海外ビジネスを展開してきた国なのに、不思議です」
 ……確かに、そういうところがあるかもしれません。最近は「作業の効率化(時短)」を常に心がけている人が多いので、どうしても「変化を避けたい」と反射的に思ってしまうのだと思います。「変化」をどう実現するかを考えるのに時間がかかるだけでなく、それを実行するための手間、変化に伴うリスクを考えると……「どうしても必要なこと」でなければ、聞き流してしまいたくなるのではないでしょうか。
 でも、国際社会の方がどんどん変化し、途上国が急速に追い上げてきている現在、「作業効率化」よりむしろ「変化」について真剣に考えないと、日本社会は失速していく一方になってしまうでしょう。少なくとも各組織の上層部の方たちには、「どう変化すべきか」をじっくり考えるための時間を確保することが、重要だと思います。
 私たちより少し(?)前の世代のことを考えると、それまでチョンマゲを結ってお侍をしていた英語下手のはずの明治初期の人々が、海外で学んだことを活かし、外国人技術者を招いて、新技術を駆使した工場を建てたり公共事業を行ったりと大活躍をし、その次の世代は、なんと大それたことに大国ロシアや中国と喧嘩をし、さらにはアメリカなどの「世界」とまで、文字通り「戦って」きたんですよね……その善悪はともかく、昔の日本人のこの物凄い「蛮勇」はどこに行ってしまったんだろうなーと、なんだか愕然としてしまいます。
 個人的には、今の「平和を愛する」日本に誇りと愛情を持っているので、二度と世界と戦いたくはないと思っていますが、いつの間にか「優等生化」してしまった日本人は、他国を勘違いの「上から目線」で見るようになって、その実、どんどん内向きに後退して「安全な場所への引きこもり」を始めてしまっているのかも……。
 ところで、この本のタイトルが『日本エリートはズレている』というだったので、ふーん、自分には無関係な「エリート(上層部)」の人たちの話ね、と思って気楽に読み始めたのですが(汗)、実際には、日本人全体が「エリート意識」を抱いていると指摘しているようにも感じました。私自身にも「日本が最高の国だから、別に海外に出なくてもいいや」という潜在意識があったことに気づかされてしまったので、今後はもう少し、「海外事情」にも注意を払い、英語などの外国語も頑張って勉強しようと思います(汗)。
 最後に、この本の中で個人的に参考になった「国際社会の「大人の常識」」を以下に紹介させていただきます。
・美しい言葉の陰には損得勘定がある。いやな相手(国)とでも相談し協力すべきことは多い。同時に、他人(国)のペースに乗せられてはいけない。
・周囲(国際社会)の状況や力関係を見きわめ、自分が有利になるように長期的、組織的に働きかける者が勝つ。10年、いや5年努力を続ければ状況を変えることもできる
・国際社会では、はっきり主張しないと無視される。同意したとみなされる。場や状況に注意せず、感情にまかせてものを言うと逆効果にもなる。
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 これって、国際社会だけでなく、身近な場面でも使える「大人の常識」ですよね。
 いろいろな事を考えさせられる(反省させられる)本でした。あなたは何を思うでしょうか。ぜひ読んでみてください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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