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第1部 本

 IT

ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ(岡嶋裕史)

『ブロックチェーン 相互不信が実現する新しいセキュリティ (ブルーバックス)』2019/1/17
岡嶋 裕史 (著)


(感想)
 暗号通貨(仮想通貨)ビットコインを支える仕組みとして登場したブロックチェーンは、かつてのインターネットのように新たなインフラへと育ちつつあります。この本は、その本質と構造を分かりやすく解説してくれるだけでなく、最新動向や新たな応用先まで展望しています。
「ブロックチェーン」とは、参加者が誰もお互いを信用し合っていないからこそ、正確な計算結果が未来永劫保存されるという不思議な仕組み。その仕組みは、「ハッシュ」や「共通鍵暗号」「ブロックチェーン」などの技術を駆使することで実現されています。
 この本は、特に「ハッシュ」の解説が詳しくて分かりやすい! なんと2章分も費やして丁寧に解説してくれるのです。
「ハッシュ」とは、「もとのデータから特定のサイズの別のデータを、計算によって作ること」で、その値を調べることで、もとのデータが改ざんされていないかを簡単に知ることが出来るという技術です……という程度のことは、もちろんすでに知っていたのですが、この本が詳しく解説してくれたおかげで、なぜ「ハッシュ」を使うと、信用できるブロックチェーンを構築できるのかについての理解を、以前よりずっと深めることが出来ました。「ハッシュ」は、「ハッシュ値からもとの値(パスワードなど)を復元することは事実上不可能」という「一方向性」がとにかく重要なのです。
 なるほど……そういうことだったか……と深く納得したところで、なんと「ハッシュ値」も完全に安全ではないことまで教えてもらえました。その「穴」の一つが「レインボー攻撃」。ハッシュ関数は誰でも使えるので、攻撃者は、いろいろな文字列のハッシュ値をあらかじめ計算してテーブルに蓄積しておくのだそうです。そうすればハッシュ値からもとの文字列に戻せる……確かにそうですね。だから、ハッシュを使って守られることが多い「パスワード」を分かりやすい文字列で作っておくのは、とても危険なのだとか。……勉強になりました。
 そして、ブロックチェーンの最新動向の解説も、とても参考になりました。
 ブロックチェーンは「現時点では、消費される電力はちょっとした国家の規模に達しており、「需要が増えて、電力会社が潤う」の水準を超えて、マイニングにそんなに電力を使ってよいのかという議論が始まっている。」状況にまで達しているのだとか!
「いま、ビットコインのネットワークで流通しているブロックチェーンは、ビットコイン最初期からのトランザクションをすべて含んでいるため、データがどんどん肥大化しているのである。個々のトランザクションが微々たるもので、それが数千集まっても1MBほどにしかならないビットコインでも、システム稼働直後からのすべてのデータを記録し、そして消さない(それがブロックチェーンの特色である)となれば、塵も積もれば山となるのである。実際、すでに2018年段階でビットコインのデータ量は100GBを超えている。廉価なスマホでは保存しきれないほどのデータ量である。」
 ……現在、「マイニング」作業は、すごく電力を使う大変な仕事になっているようです。なのに、いまだに作業をしてくれる人がいるなんて凄いなーと思っていたら、「1回ブロックの追加に成功すると1000万円ほどの成功報酬が得られる(2018年8月末時点)。ビットコインはこのインセンティブの持たせ方が絶妙。」なのだとか! 報酬額も凄いんですね。マイニングしている人は、自分の保有しているビットコインの価値を維持するためにも、作業をせざるを得なくなっているのかもしれません。
 さて、ビットコインの成功を受けて、現在は新しい仮想通貨もたくさん発生していますが、これらの弱小暗号通貨には危険性もあるようです。この本には次のような記述がありました。
「(不正がばれる方法が)うまく機能するためには、P2Pネットワークへの参加者が相当数いなければならない。極端な話、参加者が10ノードしかないブロックチェーンであれば、過半数を占めて悪意あるブロックを追加し続けることは比較的容易である。
 たとえば、2018年のモナコインの事件では、悪意のあるマイナーが圧倒的な計算速度でブロックの追加を続けたが、それをP2Pネットワークに公開しなかった。そして、正規のブロックチェーンで自分のコインを送金するなどの取引をくり返したところで、正規のブロックチェーンよりも長く育った不正ブロックチェーンをP2Pネットワークに放流した。そうなると長いほうのチェーンが正統とされるので、この不正ブロックチェーンは、正統なしかし短いブロックチェーンを駆逐して、さも正統なブロックチェーンのように居座ってしまったのである。すると、この不正なチェーンに書き込まれたデータでは、使ったはずのコインがまだ消費されていないことになっていたので、もう一度送金できてしまう。二重送金が可能になってしまったのだ。
 もちろん、ビットコインのような最大手でこのような攻撃をしようとするのは容易ではない。しかし、たとえばビットコイン市場でかなりの影響力を持ってマイニングをしてきたけれども、そこがレッドオーシャンになり過ぎたので、小さな暗号資産で少額だけど一儲けするか、といった団体でも現れたら、弱小暗号資産はひとたまりもないかもしれない。」
 うーん……ビットコインの現状を知ると「限界が近いのでは?」と、その将来が心配になりますが、その代替となりそうな新しい仮想通貨の、このような脆弱性も気になります……。
 ビットコインなどに使われているブロックチェーンについて、最新動向も含めて総合的に分かりやすく学ぶことが出来る本でした。ブロックチェーンは、今後も幅広い分野で活用されていくと思うので、みなさんもぜひ読んでみてください。お勧めです☆   *   *   *
 岡嶋さんの他の本『絵でわかるサイバーセキュリティ』、『5G 大容量・低遅延・多接続のしくみ』に関する記事もごらんください。
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 なお社会や科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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