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第1部 本

教育(学習)読書

宇宙飛行の父 ツィオルコフスキー: 人類が宇宙へ行くまで(的川泰宣)

『宇宙飛行の父 ツィオルコフスキー: 人類が宇宙へ行くまで』2017/11/30
的川 泰宣 (著)


(感想)
 ロケットの基礎となる理論を打ち立てたロシア人科学者ツィオルコフスキーさんの伝記です。その概要が本書の「プロローグ」に簡潔にまとめられていましたので、少し長いですが紹介させていただきます。
「コンスタンチン・エドゥアールドヴィッチ・ツィオルコフスキー(1857-1935)は、ロケットによって宇宙飛行が可能であることの根拠を初めて科学的に明らかにしたロシアの科学者である。幼くして聴力を失い(左耳がわずかに聞こえていたらしい)、独学で高等数学や自然科学の高度な理論をマスターし、学校の教師を本業として、貧乏に喘ぎながら人類の宇宙進出の夢と構想を描きつづけた。1957年に彼の祖国ソ連が打ち上げた人工衛星スプートニクは、宇宙時代を開いたとされるが、それは、彼が定式化したロケット理論がなくては実現しなかった。その意味で、ツィオルコフスキーは、人類を宇宙時代に導いた恩人である。そして、ロケットによる宇宙飛行の理論だけでなく、宇宙ステーション、スペース・コロニー、ソーラー・セイルなど、現代の宇宙活動がめざしているさまざまな未来の構想も、世界で初めてツィオルコフスキーの頭脳の中から生み出された。」
 宇宙開発の黎明期というと、ソ連の宇宙飛行士ガガーリンさんの「地球は青かった」はぱっと思い浮かぶのに、肝心の技術者の名前は一人も思い出せないことに気づかされました(汗)。宇宙科学の土台を形成しているのは、燃料を燃やしながら変化していく質量と排気ガスの速度との関係を定式化した方程式「ツィオルコフスキーの公式」だそうで、ツィオルコフスキーさんは、「理論的に」宇宙時代の開幕を告げた「宇宙飛行の父」なのです。
 そんな凄い偉業をなしとげた人なのに、幼少期に病気で聴力を失ったせいもあって、なんと「小学校もろくに通えなかった」そうです! でも十四歳で数学に目覚めた彼は、独学で数学や物理学を極めていきました。
「物理学の本を読んだら、すぐに蒸気で動く車を作り、次には水素ガス入りの紙風船に挑戦するといった具合。コースチャ(ツィオルコフスキー)の特徴は、理論の知識を実際のものに応用することをためらわないことであった。」
 そしてモスクワのルミャンツェフ図書館の司書ニコライ・フョードロフさんとの運命的な出会い。フョードロフさんに、大学の自然科学の講座を、系統性をもって「独学する」ことを勧められ、ツィオルコフスキーさんは数学と物理学の基礎を全面的に体系的にやり直しました。
「はじめに試みたのは、定理にあたるもののほとんどを自力で導くことだった。それは最初難しそうに思われたし、時間もかかったが、やるにつれて結構自分の力でできるものだと分かった。その後につづく、より難しい「応用」に比べれば楽だった。そして何よりもその「応用」の学習に決定的に役立った。」
 ……独学でここまでやる人は滅多にいないでしょう。本当に凄い人ですね!
 教師の薄給を実験につぎこんでしまうので、いつも貧乏だったようですが、最後には周囲にその偉業が認められたようで良かったと思います。不運なことも多かったようですが、貧困にも負けず自分のやりたいことを続けていけたのだから、充実した幸福な人生だったのではないでしょうか。
 さて、この本の著者は宇宙開発機構の的川さんなので、ツィオルコフスキーさんの伝記部分だけでなく、「ロケット理論」に関する解説部分も分かりやすくてとても参考になりました。
「(ロケットの推進原理は、)誰かが外から押したり引いたりする力ではなく、空気をはき出した「反動」による力(「推力」)」
「ロケットが飛ぶのは、空気の薄い所が大部分である。(中略)このような場所では、推力を発生するのに必要な燃料を燃やすための空気(酸素)がない。そこでロケットは、燃料だけでなく酸素(酸化剤)も持っていく必要がある。」
「ロケットの推進原理は、吐き出したガスが何かを「蹴飛ばして」推力を得るのではなく、厳密には「運動量保存則」あるいは自らが体内から噴出したものの「反動」によって加速することを理解しておくことが非常に大切である。」
 耳が聞こえないという障害や、世界大戦前後の混乱した社会情勢などの困難な状況を乗り越えて、独学でロケットの基礎となる理論を打ち立てたツィオルコフスキーさんの生き方に勇気をもらえるだけでなく、ロケットの原理まで学べる素晴らしい本でした。ぜひ読んでみてください。お勧めです☆
 最後に、1932に発表された論文『宇宙の哲学』にこめられた思想を、紹介させていただきます。
「幸福の達成には、「良きこと」を破壊するあらゆるプロセスをなくすことが大切であり、その課題に不可欠なことは、宇宙の法則を研究することであると説く。そのためにこそ、この狭い地球に留まっていないで宇宙へ進出するのであり、大規模輸送のできるロケットの開発は、この我々の長期にわたる進化の始まりにつながる人類の新たな宇宙文化の始まりであるという。やがて人類は、太陽系のすべての領域に活動をひろげ、さらなる宇宙の深みに足を延ばし、あらゆる生き物の幸せを達成すべく進んでいく……」
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 的川さんは、他にも『月をめざした二人の科学者―アポロとスプートニクの軌跡』、『ニッポン宇宙開発秘史―元祖鳥人間から民間ロケットへ』、『はじめてのうちゅうえほん』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『ロシア宇宙開発史: 気球からヴォストークまで』、『レッドムーン・ショック―スプートニクと宇宙時代のはじまり』など、ロシアの宇宙開発の歴史を知ることができる本は多数あります。

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