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第1部 本

教育(学習)読書

「学力」の経済学(中室牧子)

『「学力」の経済学』2015/6/18
中室 牧子 (著)


(感想)
 経済学がデータを用いて明らかにしている「教育や子育てに関する発見」を紹介してくれる本です。
 この本は、教育評論家たちが一般的に主張する「ご褒美で釣ってはいけない」「ほめ育てはしたほうがよい」という意見には(彼らの教育者としての個人的な経験に基づいてはいるものの)科学的な根拠がなく、「なぜその主張が正しいのか」という説明も十分になされていない、という事実があることを気づかせてくれます。
 実は、教育関連のデータに基づく研究から、一般的な意見とは逆に「すぐに得られるご褒美を設定することは、「今勉強すること」の利益や満足を高める」ことが明らかになっているそうです。それも「テストの点数が上がったら」などのアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに与えるべきなのだとか。確かに、自分のことを考えてみても、「どうやって上げたらいいのか分からないテストの点数」で貰えるご褒美にはあまり期待できませんが(汗)、「本を読む」「宿題をする」なら、具体的な方法がすぐ分かるので、やる気になりますよね(笑)。
 また「ほめる」こと自体は悪くはないのですが、「ほめ方」には気をつける必要があるようです。というのも、データによると「能力をほめることは、子どものやる気を蝕む」とか、「成績が悪かった子の自尊心をむやみに高めるようなことを言うのは逆効果」という研究結果があるようで、「子どもをほめるときには、もともとの能力ではなく、具体的に達成した内容を挙げることが重要」なのだそうです。確かに……具体的な結果や行為をほめられると、「何が良いことなのか」が分かるだけでなく、「自分のことをちゃんと見た上で認めてくれている」ことにも気づいて、嬉しくなるのではないでしょうか。
 こんな感じで、科学的根拠に基づく子どもの教育へのヒントを、いろいろ紹介してもらえます。
 また、「小人数学級には効果があるが、費用対効果は低い」という意外な事実も明らかにされています。「これまで日本で実施されてきた「少人数学級」や「子ども」手当は、学力を上げるという政策目標について、費用対効果が低いか効果がないということが、海外のデータを用いた政策評価の中ですでに明らかになっている政策である。」そうです。
 中室さんは、日本の教育政策でも、もっとこのような「エビデンス(データに基づく分析)」を重視すべきだと主張しています。たとえば米国の教育政策の決定プロセスでは、次のような手順で、ランダム化比較実験を取り入れているそうです。
1)政策目標の決定(例:学力向上など)
2)それを達成する手段としての政策に、どの程度の因果関係があるのかを、ランダム化比較実験で確認
3)この(ランダム化比較実験で得られた)情報と政策にかかった費用から、政策のコストパフォーマンスを算出(最も安あがりに効果をあげられる政策が何かが分かる)
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 そして、日本の教育政策にもこの方法を取り入れることを勧めています。「データに基づくエビデンスによって、今後、自治体や教育委員会が「何をするべきか」という道筋がはっきりと示されますし、学校や保護者、納税者への説明責任も果たすことができます。」
 その他、「教員の質をあげるために、教員免許をなくしたらどうか」という、驚くような提案もしています。……これらの提案が本当に正しい(有効)かどうかは残念ながら判断できませんでしたが、少なくとも教育政策に「ランダム化比較実験」を取り入れるなど、エビデンス重視の方法を用いることが、教育政策の費用対効果を上げることだけでなく、教育の質そのものを向上させていくことに役に立つと、強く感じさせられました。
 残念ながら日本のではなく、「海外(特にアメリカ)のエビデンス」が多かったようには思いますが、子育てや教育に関する「科学的根拠に基づく」アドバイスが多数紹介されていますので、子育てや教育に携わっている方は、ぜひ読んでみてください。
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 中室さんの他の本、『「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法』に関する記事もごらんください。
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 別の作家の本ですが、『私たちは子どもに何ができるのか――非認知能力を育み、格差に挑む』、『子どもの才能は3歳、7歳、10歳で決まる!―脳を鍛える10の方法』など、子どもの教育を考える上で参考になる本は多数あります。
 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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