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第1部 本

歴史

盗まれた最高機密―原爆・スパイ戦の真実(山崎啓明)

『盗まれた最高機密―原爆・スパイ戦の真実 (NHKスペシャル) 』2015/10/31
山崎 啓明 (著)


(感想)
 原爆開発を巡る国際情報戦と、核が現代世界に投げかけ続ける影の大きさを描いたNHKスペシャル(2015年11月放送)を書籍化した本です。
 世界のパワーバランスを変えるほど巨大な力を持つ「神の火」原子爆弾。1945年にアメリカによって広島・長崎に落とされ、一瞬で大都市が壊滅しました。その裏で動いていた謎のスパイ組織アルソス(ALSOS)の活動を中心に、アメリカ、ドイツ、ソ連、そして日本の兵器開発・情報戦を描いた作品です。
 正直に言って、原爆に関しては、日本は「完全に被害者」のような立場だと思っていたのですが(汗)、この本を読んで、実は第二次世界大戦中、日本も原子爆弾の開発を進めていたことを知り、とても驚きました。海軍、陸軍とも物理学者に原爆開発を研究させ、ウランを入手するため実際にドイツからUボートで日本へと輸送していたのです(途中で頓挫しましたが)。
 原爆の開発に最初に成功したのは、アメリカでした。1942年、アメリカは巨額の予算を投じて「マンハッタン計画」を始動し、原爆開発へと突き進んだのですが、アルソスはその計画直属の諜報機関なのです。
 そもそもアメリカがこの計画を始めたのは、同じく原爆開発をめざしているナチスドイツの動きがまったく掴めず、そのことに恐怖を覚えていたからでした。ナチスドイツの原爆開発には、天才物理学者のあのハイゼンベルクさんが関わっていたのです。
 ハイゼンベルク? あの「不確定性原理」とか「量子力学」で有名な?
 原爆というと、オッペンハイマーさんの名前が思い浮かぶぐらいで、他の人のことはあまり知らなかったので、この名前に驚きました。実は、第二次世界大戦の兵器開発競争は熾烈を極め、原爆には当時の著名な物理学者が多数、関わりを持たざるを得ない状況にあったようです。ハイゼンベルクさんだけでなく、ニール・ボーアさんなど有名な学者には暗殺命令が下されたとか……。
 この本を読むと、それが歴史的事実の調査結果だとは思えないほど、スリリングな情報戦や作戦遂行が展開していき、ドイツ軍がかきあつめたウランを、アメリカ軍が奪取し、原爆関連の施設を攻撃するような場面では、まるで良く出来た冒険小説を読んでいるような気分になってしまいます。
 そしてハイゼンベルクさんの実験施設があったのは、ヘヒンゲンの町の真ん中、川沿いの切り立った崖の上のカトリック教会の地下。崖下の洞窟での連日の実験に疲れると、ハイゼンベルクさんはこの教会に行って、パイプオルガンを演奏したそうです。絢爛豪華な祭壇に鳴り響くオルガンの音……演奏家として玄人はだしの腕を持つハイゼンベルクさんの奏でるバッハのフーガが、誰もいない教会に鳴り響くさまは、美しくて哀しい戦争映画の一場面のようです……。
 優秀な科学者たちが実際にどんな思いで原爆の開発やスパイ活動に従事していたのかは分かりませんが、その当時が世界大戦中だったことを思うと、たとえそれが私自身だったとしても、原爆の開発を拒めたかどうか分からないと感じました(汗)。なにしろ当時は、自分の身近な人々が、戦争で殺されていくのを現実に見聞きしている状況なわけですから……。
 そう考えながら読み進めていただけに、本書の終盤で明らかにされる、マンハッタン計画最年少の天才科学者セオドア・ホールさんの生き方には衝撃を覚えました。彼がわずか19歳で下した結論……これこそ、本当の天才だけが描きうるシナリオだったのではないでしょうか。それが良かったか悪かったかは分かりませんが、彼はすでに、世界大戦後のパワーバランスに思いを馳せていたのです。
 ……この本は、本当にさまざまなことを深く考えさせてくれました。
 でもそれは、まだ結論を出せていない、もやもやとした思考です。戦争の時代に、人間としていかに生きるべきなのか……いまだに迷いを感じます。もしも戦時中に、一科学者としてマンハッタン計画に否応なく巻き込まれてしまったとしたら、どう生きるべきなのか。……そして、私には、ホールさんのような決断は、とても出来なかっただろうと感じています(汗)。
 ただ一つだけ確信したことは、戦争は、人間を不幸にするものだと言うこと。
 今後、戦争での科学や技術力の比重は、どんどん増していくことになるでしょう。そして戦争による死にもの狂いの競争が、科学技術力を飛躍的に発展させるだろうということも間違いないのではないかと思います。
 でも、科学技術力はそのようなやり方で発展させられるべきではないとも思います。実際に、第二次世界大戦の時代は、ハイゼンベルクさんやホールさんたち天才科学者たちにとって、とても不幸な時代だったと思います。戦争がなければ、彼らはもっと素晴らしい業績をあげられたのではないでしょうか。
 この本を読んで、実際に戦争の時代になったら、自分がどう生きるかについては結論を出せていませんが、少なくとも、二度と戦争を起こさないように努力したい、と強く感じました。あなたは、どう思うでしょうか。ぜひ読んでみて欲しいと思います。
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 山崎さんは、他にも『インテリジェンス1941 日米開戦への道 知られざる国際情報戦』などの本を出しています。

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