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第1部 本

ビジネス・その他

20 under 20 答えがない難問に挑むシリコンバレーの人々(ウルフ)

『20 under 20 答えがない難問に挑むシリコンバレーの人々』2017/4/13
アレクサンドラ・ウルフ (著), 滑川 海彦 (翻訳), 高橋 信夫 (翻訳)


(感想)
 小惑星の採鉱、不老長寿のファンド、死の追放、銀行不要の投資システムに挑む20歳未満の天才起業家たちの姿を通して、シリコンバレー流の生活や仕事の仕方、考え方を紹介してくれる本です。
 タイトルの「20 under 20」とは、ペイパル・マフィアの一人でシリコンバレーのカリスマ、ピーター・ティールさんが会長を務めるファウンダーズ・ファンドの奨学金プログラムのこと(ティール・フェローシップ)。応募条件は、起業しようと考えている20歳未満の学生であることですが、合格者は、大学または学校からドロップアウトするのが条件。世界中からクレイジーな20人を選んで、一人10万ドルの資金を与えるというプログラムです。
 この本は、2011年に最初のティール・フェローシップに選ばれた20歳未満の若者たちのシリコンバレーへの挑戦を描いたノンフィクションです。全員が超優秀な若者ばかりですが、取り組むテーマがかなりクレイジーな人たちが選ばれているせいもあってか、必ずしも成功した人ばかりではありません。中には、結局、大学に戻っていく人もいました。が、ビジネスとしての成果はともかく、このプログラムが彼ら全員に「良い経験」を与えたことは間違いないと感じさせられました。
 と、同時に、今後、大学がどのようになるべきについても真剣に考えさせられました。
 ティールさんは「型にはめられた人間には可能性はない」と言い、大学教育を「時間と資金のムダ」と考えているようです。……確かに、これまでの大学教育は、必ずしもビジネスにすぐに役立つ内容を教えているわけではなく、シリコンバレー流スピード感から見ると、「のんびりし過ぎている」ように見えるのかもしれません。
 この「20 under 20」の与えた衝撃を受けて、アメリカの大学は少しずつ変わり始めているようです。インキュベーターと並んで、最近では、学生に起業家精神を教えるような目新しいタイプの大学が出現して、伝統的組織に代わろうとしているのだとか(例:ドレイパー・ユニバーシティ・オブ・ヒーローズなど)。日本の大学も、今後は積極的に「学生ビジネス」を支援していくべきなのでしょう。実際に起業する学生たち自身は座学では学べない貴重な経験を得られますし、彼らの同級生たちにも良い刺激を与えられるのではないでしょうか。
 ところで、この本では、「20 under 20」の若者たちだけでなく、彼らを取り巻く人々を中心に、シリコンバレーの人々の生き方や考え方が、とてもリアルに描きだされていきます。シリコンバレーのIT企業に集まる優秀なオタクたちの、伝統的な考え方をものともしない超合理的な考え方や、でたらめなほど精力的な仕事の仕方など、とても興味深く読めました。実際に、著者のウルフさんも冒頭の「著者ノート」で、「本書はティール・フェローたちや私を引きつけたカウンターカルチャーをとらえようとする試みだ。シリコンバレーは伝統的アメリカン・ビジネスの方法だけでなく、そのあり方自体を創造的に破壊するような場所だった。」と語っています。
 世界のIT産業のフロンティアの先頭を爆走しているシリコンバレーの人々って、こんな人たちだったんだなーとその実態を知ることは、彼らとビジネスで競いあっている企業の人にとっても、参考になるのではないでしょうか。というのも、「第10章 必要なのは許可か、謝罪か?」に、次のような、すごく興味深い記述があったからです。
「新しいことを始めた企業はおしなべて規制当局と折衝を始めねばならなくなる。そうなるのは単に時間の問題だとタスクは見ていた。最大の問題は「許可を求めるべきなのか、謝罪すべきなのかの選択だ」とタスクは言う。「熱烈なユーザーがいる会社の場合、当局との接触をできるだけ先に延ばすという戦略が賢明だ。そして何か起きてから謝ればよい。その頃にはユーザーが会社の擁護者として十分に強力になっているはずだ。スタートアップが当局と戦うなら、有権者が選挙区の政治家にメールを送るという草の根戦術を採用するのがよい。またそのスタートアップの有用さを紹介する記事を地域の有力メディアに掲載させることも必要だ。(後略)」
 ……シリコンバレーのIT企業の人々って、基本的にこういう考え方をしているんでしょうね。私たち日本人は、将来まずいことが起こらないように、最初から「可能な限り完全な形」で商品やサービスを出そうとしますが、「早い者勝ち」で市場の独占を図ろうとする戦略の人々は、「やっちゃってから(必要なら)謝る」方が賢いと思っているのかもしれません(汗)。だからなんだろうなあ、私のスマホやPCが、毎日のように「アップデート」の催促を受けることになるのは……やっぱり、こういう文化の人々が作っているからなんだろうなー……(泣)。そして、私たちはいつの間にか、このシリコンバレー流に慣らされてきているような気がします……。
 そして「第11章シリコンバレーのやり方は本当に正しいのか?」では、小惑星から資源を採鉱するという夢を実現できず、大学に戻ることにした若者の心境が、次のように綴られます。
「彼はたくさんのスターアップが同様の問題に直面するのを見た。魔法のような約束をするが、実現の方法を見つけることができない。たとえば、いっとき巨額の会社評価額を得た医療スタートアップのセラノスだ。血液検査の革命的な手法を開発したということだった。しかしそこに実体はなかった。」
 ……「シリコンバレー流」が必ずしも良いとばかりは言えないと思いますが、その考え方や戦略が、今後、世界中の企業活動に強い影響を与えていくことは間違いないでしょう。その実態を垣間見せてくれる本でした。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

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