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第1部 本

社会

グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏(澤康臣)

『グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏』2017/3/23
澤 康臣 (著)


(感想)
 国際的に活躍する記者たちの姿を通して、国際スクープの舞台裏を垣間見せてくれる本です。
 世界一斉に報じられ、私たちに衝撃を与えたあの「パナマ文書」報道。その裏には各国記者たちの「史上最大の作戦」があったそうです。
「パナマ文書」とは、タックスヘイブンで匿名法人の設立を代行するパナマの大手法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した、1150万通に及ぶ内部資料のこと。そして2016年4月、世界各国の調査報道記者が作る「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が、タックスヘイブン法人の秘密文書を入手したと発表し、ICIJに参加する世界各地の報道機関が一斉にその内容を報道し始めたのです。
「こんにちは。私はジョン・ドウ(匿名太郎)。データに興味はあるか?」
 インターネットを通じて、南ドイツ新聞のオーバーマイヤー記者にこんな一文が飛び込んできたのは2015年初めのこと。これが「パナマ文書」の始まりだったそうです。
 一見すると本物のように見える文書でしたが、この情報提供が嘘や情報操作の可能性もあります。でも南ドイツ新聞にとって救いだったのは、モサック・フォンセカの同種データを、ごく一部とはいえドイツ当局が入手していたこと。脱税捜査の一環として、当局がある人物から買い取ったのですが、取材の過程でそれらと照らし合わせたところ、全く矛盾がないことが判明しました。またその他の情報も、この文書が「本物」であることを示しています。
 でもこれは「危険なデータ」でもありました。各国の有力者や関係者、さらに犯罪者が密かに設立した匿名法人が記されているデータなのですから。報道には大変な危険や妨害が予想されたので、南ドイツ新聞は、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に連絡を取り、ICIJの調査報道プロジェクトとして展開することを提案したのです。
 そして各国の記者たちが密かに動き始めました。途中、アルゼンチン大統領選挙の時などに、一部の記者が先走り報道しそうになったこともあったそうですが、それを抑えて、2016年4月の一斉報道を成功させたようです。この報道はたちまち世界的な大反響を受け、アイスランドの首相を辞任に追いこむなどの大きな成果をあげました。「報道が歴史を作った」のです。
 この本は、このような、ジャーナリストと巨悪との国際的な戦いの実態を教えてくれます。イタリアマフィアの極秘アフリカ進出は、前代未聞の欧州・アフリカ記者連合が暴いたのだとか。ビジネスも犯罪も国境を越える時代、記者たちは国際的に協力し合って、巨悪に対抗していきます。
「政府は国境を越えない。警察も管轄を越えない。でも、組織犯罪に国境なんてない。そんな奴らを追うには、我々記者が国境を越えなければいけない」(組織犯罪・汚職報道プロジェクト、アンドリュー・サリバン)
 でも「真実を報道したい」という崇高な決意で調査・報道に携わっている記者たちは、紛争地帯や危険地帯に自ら赴き、犯罪者や権力者などによって殺害される危険にさらされているのです(涙)。
 そして最終章の「第5章 そして日本は――」には、「市民が「観客」にとどまり、参加をためらうという日本社会の姿は、イギリスのオックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所が毎年出す『デジタルニュース報告書』にも示されている。」という指摘がありました。……確かに……平和な日本に暮らしていると、海外での紛争の報道もなんとなく「遠い出来事」に過ぎないような……そして「パナマ文書」のことも忘れかけているような……(汗、汗)。
 アメリカでは、情報公開制度によって、多くの情報が公にされているそうです。
 可能な限り情報を公開していくこと、そして隠された「不都合な事実」を明らかにすることは、透明性の高い、より良い社会を築くためにとても役立つことだと思います。正義の戦いを続ける記者たちを、応援していきたいと思います。
   *    *    *
 別の作家の本ですが、『パナマ文書 : 「タックスヘイブン狩り」の衝撃が世界と日本を襲う』、『コラムで学ぶジャーナリズム―グローバル時代のメディアリテラシー』、『日本ノンフィクション史 - ルポルタージュからアカデミック・ジャーナリズムまで』など、ジャーナリズム関連の本は多数あります。
 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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