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第1部 本

ビジネス・問題解決&トラブル対応

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織(サイド)

『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』2016/12/23
マシュー・サイド (著), 有枝 春 (翻訳)


(感想)
 医療業界、航空業界、グローバル企業、プロスポーツチームなど、さまざまな業界を横断して、失敗の構造を解き明かしてくれる本です。
「失敗」への態度は業界によってかなり違いがあり、例えば医療業界では、ミスは「偶発的な事故」「不測の事態」と捉えられ、医師は「最善を尽くしました」と一言言っておしまいになるそうです(汗)。それに対して航空業界には、失敗と誠実に向き合い、そこから学ぼうとする姿勢があるのだとか。彼らは失敗を「データの山」ととらえ、「航空業界の知識は、血の代償として学んだ教訓」として活かされているのです。
 実は、失敗から学ぶことは最も「費用対効果」がよいのだそうです。
 ただし「失敗」からどれだけ価値あるものを見出せるかについては、分析者の技量による場合もあるようです。「失敗から学ぶためには、目に見えないものも考慮しなければならない。」からです。
 例えば、第二次大戦中、米軍の司令部は爆撃機の強化の必要性を感じて、帰還した爆撃機の被弾状況を検証しました。その結果、最も穴の開いていた場所(コックピットと尾翼以外)の装甲を強化しようとしましたが、分析に参加した数学者のウォルドさんは反対しました。なぜなら、軍は「帰還しなかった爆撃機」のデータを集めていなかったからです。帰還した爆撃機のコックピットと尾翼に穴がなかったのは、そこを撃たれたら帰還できなかったから……つまり検証データは、装甲が必要な場所ではなく不要な場所を示していたのです。「失敗から学ぶためには、目の前に見えていないデータも含めたすべてのデータを考慮にいれなければならない」ことを痛感させてくれるエピソードでした。
 また、「多くの場合、人は自分の信念と相反する事実を突き付けられると、自分の過ちを認めるよりも、事実の解釈を変えてしまう」そうです。同じレポートを読んだ場合でも、賛成派・反対派ともが、自分に都合のいい解釈をし続けてしまうという事例にも考えさせられました。
 また「失敗を非難する」文化は、「失敗を隠す」態度につながっていきます。「悪意のない偶発的なミスを責め立てられたら、誰がすすんで自分の失敗を報告するだろう? そんな状態で、どうやってシステムが改善されるというのだろう?」「非難すると、相手はかえって責任を果たさなくなる可能性がある。ミスの報告を避け、状況の改善のために進んで意見を出すこともしなくなる。」
「失敗を誰かのせいにする」ことで自分の立場を安泰にしようとすると、「失敗から学ぶ」ことはとても困難になってしまうのです。
 最近では、「失敗」を活かす「試行錯誤」的な手法、例えば、早期の失敗を奨励する「フェイルファスト」手法、ソフトウェア開発における反復学習的な「スクラム」手法などが、各所で効率的に使われるようになってきたそうです。
 また「マージナル・ゲイン」という手法(大きなゴールを小さく分解して、一つひとつ改善して積み重ねていけば、大きく前進できる)も参考になりました。
 さらに、「ランダム化比較実験(RCT)」を使うと、問題がどこにあるかを明確にしやすいようです。RCTというのは、主に医療分野で用いられる手法で、新薬を投与される介入群と、偽薬を投与される対照群を比較することで、新薬の効果を評価する、というような方法です。この方法には、「介入群は○○を得て、対照群は何も得ないというやり方はフェアなのか?」という批判も強いようですが、著者のサイドさんは、「(効果があるかないか分からないときは、)RCTと実施して答えを見つけ出すほかない。答えのないままに進み続けても、結局誰も助けることはできないのだ」と断言しています。……確かにそうですね。
 いつも「失敗したくない」と思っている人は多いと思います。でも本当は失敗からこそ、多くのことが学べるのかもしれません。実は、失敗から積極的に学ぶ人や組織ほど、「究極のパフォーマンス」を発揮できるのだとか。そして成長型マインドセットの人は、失敗を恐れず失敗から学ぼうとする態度が身についているそうです。
 この本の終り頃で、「なぜ日本には起業家が少ないのか。(日本では)失敗は不名誉なものと見なされる傾向が強い。」と、サイドさんも指摘していますが、日本人には、失敗を避けるべきことと捉えている人が多いような気がします。でも本当は、「失敗せずに学べる」ことは少ないのではないかと思います。日本人の私としては、「失敗を恐れずにチャレンジすることで、大きく成長できる」ことを、しっかりと心に銘じておきたいと思いました。
 論旨が明確で読みやすく、とても参考になる本でした。ぜひ読んでみて下さい☆
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 サイドさんは、他にも『非才!―あなたの子どもを勝者にする成功の科学』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『まんがでわかる 失敗学のすすめ』、『最新図解 失敗学』など、失敗から学ぶときに参考になる本は多数あります。 

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