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第1部 本

教育(学習)読書

1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝(ゴードン)

『1945年のクリスマス 日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』2016/6/7
ベアテ・シロタ・ゴードン (著), 平岡 磨紀子 (著)


(感想)
「女性が幸せにならなければ、日本は平和にならないと思った。男女平等は、その大前提だった」10年間日本で育ち、アメリカで終戦を迎えたゴードンさんは、22歳の若さで日本国憲法GHQ草案の作成に参加、現在の人権条項の原型を書きました……これは、あるユダヤ人女性の自伝で、日本国憲法誕生秘話や、第二次世界大戦前~戦後の歴史を知ることが出来る本です。
 実は日本国憲法GHQ草案は、たった9日間で作られたそうです。この本には、その間の状況が当時のメモをもとに詳細に明かされていて、憲法の条項がどんな気持ちで作られてきたのかがよく理解できました。また戦前から戦後の日本の状況も、彼女の眼を通してリアルに描かれています。
 1945年時点での連合軍総司令部(GHQ)の仕事は、おおざっぱに言うと、日本の軍事的な力を破壊して再び軍国主義化しないようにすることと、日本を民主主義国家として世界に通用する国に作り変えることの二つだったそうです。
 1946年2月1日に毎日新聞が日本政府の憲法草案についてスクープしたのですが、その内容は(当然ですが)明治憲法とほとんど変わるところがなく、GHQとしてはとても受け入れることが出来ないものでした。そこでGHQは、それを修正するのではなく、GHQ側で憲法のモデル案を作成して提供した方が効果的で早道だと考えたのです。こうして2月4日からの9日間で、25人のメンバーが8つの委員会に分けられ、投票したことすらなかった22歳のゴードンさんも、そのメンバーの一人として「人権」を担当することになりました。
「通常の仕事は一時的にストップし、今週中に書き上げること。トップ・シークレットである」と告げられたので、関係者はそれから長い間、憲法草案について口外することは出来なかったそうです。そして若いゴードンさんは、この時の軍隊式仕事の仕方を「いつまでに、何を、どうする、という大筋が、責任者からてきぱき伝えられる。誰が、どういうふうにという細かいことは、部下の仕事という分担である。」として、その後、自分が組織運営をするときにも参考にしたそうです。
 新しい憲法を作る……法律の専門家でもなかったゴードンさんは、まず手本になる憲法を見つける必要があると感じました。6か国語以上話せる語学の天才で、アメリカのタイム誌でリサーチャーの仕事をしていたこともある彼女は、この日のうちにジープで都内の図書館や大学を巡り、アメリカ独立宣言、アメリカ憲法、マグナカルタに始まるイギリスの一連の憲法、ワイマール憲法、フランス憲法、スカンジナビア諸国の憲法、それにソビエトの憲法を借り集めました。草案が作られたのは9日間という短期間でしたが、これら多数の憲法にこめられた精神が下敷きになっていたのです。メンバーは議論を重ね、この「自分たちの理想国家をつくる」という夢に夢中になったそうです。
 実は、この憲法は10年間は改正を禁止するというような話題まで出たそうです。封建的支配になれている日本人は、面従腹背がひとつの生き方の文化になっているので、いったんは従ったように見せかけて、すぐに改正してしまうかもしれないから、という話には、(よく分かっているな……)と苦笑してしまいました。それでも最終的には、「他の世代に対して自分たちの手で問題を解決する権利を奪うことになる。権利章典の変更は革命を起こすしか方法がなくなる」という理由で、「修正してはならない」という部分はカットされたそうです。……これを読んで、本当に「日本人のため」を考えて作ってくれたんだなあと感じました。そして1946年11月3日、日本国憲法は公布されました。
 女性の権利については、ゴードンさんの努力のおかげで、当時としては最大限に盛り込まれたようです。参考までに、ソビエト社会主義共和国連邦憲法(1936年成立)を以下に紹介します。
 ソビエト社会主義共和国連邦憲法(1936年成立)
第122条
1 ソ連邦における婦人は、経済的・国家的・文化的及び社会的生活のあらゆる分野において、男子と平等の権利を与えられる。
2 婦人のこれらの権利を実現する可能性は、婦人に対して、男子と平等の労働・賃金・休息・社会保険及び教育を受ける権利が与えられること、母と子の利益が国家によって保護されること、子どもの多い母及び家族のない母が国家によって扶助されること、妊娠時に婦人に有給休暇が与えられること、広く行きわたって産院・託児所及び幼稚園が設けられていること、によって保障される。
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 意外にも(?)きっちり書かれているので驚きましたが、わざわざこのように書かなければならないということは、逆に当時の女性の置かれていた状況を表しているような気もします(汗)。ゴードンさんの尽力などのおかげで、日本の女性の地位は向上したと思いますが、残念ながら現在でも、女性の地位は男性と同等とはとうてい言えないと思います。ゴードンさんを見習って、今後も努力し続けなければならないのでしょう。
 この本は、新しい憲法をつくることに貢献した女性の自伝ですが、戦争とは何か、法律はいかにあるべきかなど、本当にさまざまなことを考えさせてくれました。
 そして今、私たちはまた「新しい時代」の入り口にさしかかっています。それは「インターネット」「サイバー犯罪」「人工知能」「仮想通貨」「仮想現実」などの新技術と、どのような世界を築いていくのかということ。どんな社会が「理想」なのかを真剣に考えて、新しい時代に対応した法律を作っていくべきなのでしょう。いろんなケースを考え、叡智をふりしぼって最良のものにしていくのはもちろんですが、我々の叡智には限界があり、「理想」は時代と共に変わるものなので、次世代の人が修正する道も作ってあげる必要があるでしょう。……あなたにとっては、どんな社会が「理想」でしょうか?
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 ゴードンさんは、他にも『ベアテさんのしあわせのつかみかた』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『ベアテ・シロタと日本国憲法――父と娘の物語』、『日本国憲法を生んだ密室の九日間』、『日本国憲法はどう生まれたか? 原典から読み解く日米交渉の舞台裏』、『立法過程と立法行為』など、日本国憲法や立法を考える上で参考になる本は多数あります。

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