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第1部 本

社会

新・所得倍増論(アトキンソン)

『デービッド・アトキンソン 新・所得倍増論』2016/12/9
デービッド アトキンソン (著), David Atkinson (原著)


(感想)
 潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋。人口が減っても、「昭和の常識」を打破すれば平均年収は2倍、GDPは1.5倍にすることが可能……元ゴールドマン・サックスのイギリス人アナリストのアトキンソンさんが、豊富なデータをもとに日本経済の凋落の原因を指摘するとともに、処方箋をアドバイスしてくれる本です。
 正直に言ってこの本を読むまでは、「日本は第二次世界大戦の敗戦の後でさえ、瓦礫の中から世界も驚くほどの驚異的な復活を遂げ、たちまち世界第二位の経済大国になった凄い国」だと内心では思っていました。そして読んだ今でもやはり、「自力がある凄い国」だと思っています。でも、だったら何故、ワーキングプアという問題があり、経済成長率は伸び悩んでいるのでしょう?
 この本で、アトキンソンさんは、「確かに日本は凄い国だけれど、その一部は「幻想」に過ぎない」ことを教えてくれます。
 日本は「GDP世界第3位」の経済大国ではあっても、実は1人あたりGDPとしては世界第27位。さらに「輸出額世界第4位」の輸出大国ではあっても、実は1人あたり輸出額は世界第44位……つまり日本はとても生産性が低く、せっかくの潜在能力を生かし切れていないと言うのです。
 そして、その原因の一つは「過去の成功体験」にあるようです。日本が過去に「世界第2位の経済大国」になったのは、その時の日本の生産性が高かったからではなく、主な理由は「人口が多かった」から。それなのに日本人は、自分たちの勤勉性や、トヨタの「カイゼン」に象徴される生産性の高さによるものだと勘ちがいしてしまったのでした。それでもその当時は、「人口が増加していた」ために、なんとなくすべてが上手くいってしまい、自分たちの勘違いを訂正する必要を感じなかったのだそうです。しかも実はトヨタの「カイゼン」は、一部の企業の生産性の高さを示しているだけなのに、それを日本社会全体に投影してしまっているのだとか……耳に痛いですね(汗)。
 ご存じの通り、今後は日本の人口が急増することは期待できません。少子高齢化がどんどん進んでいくことは確か……。だからこそ、日本は今すぐにでも経済制度を変える必要があると言うのです。
 日本はしっかりした教育制度があり、社会秩序が安定していて、潜在能力が高いことは間違いありません。それなのに生産性を高められなかったのは、「経営ミス」だとアトキンソンさんは言います。これまで生産性を上げる努力を怠ってきた経営者に、意識改革を迫るべきだと。
 ところで経営戦略によって株価を上げさせると、GDPの改善につながることが確認されているそうです。つまり「時価総額を上げろ」とプレッシャーをかけることで、経営者に生産性を高める改革と投資を促し、1社1社の努力の結果によってGDPを押し上げられるというのです。
 なるほど……と考えさせられました。日本は過去の成功経験があって、「なんとかなる」と言う気持ちがあり、さらに「変革を嫌う」体質も強いそうです。改革をしようとすると、「公益」や「弱いものがかわいそう」などという言い訳を持ち出して、なんとか「何もしないですます」方向に持っていこうとするのだとか……うーん、確かに……(汗、汗)。
 それでも今後の日本社会を維持していくために、一刻も早く、正しい「変革」を行うことが必要なのだなと思わされました。私たち日本人のために、あえてこんな厳しい指摘をしてくれるアトキンソンさんに、心から感謝したいと思います。
 日本が今後も「素晴らしい国」であり続けるように、私たちに何が出来るか……それを考えるためにも、ぜひ多くの人に読んで欲しいと思います。
(なおこの本には一部の図表に間違いがあり、P131の図表5-4で、製造業とサービス業が逆になっているそうです(2016/12/9)。)
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 アトキンソンさんの他の本、『新・観光立国論』、『国宝消滅』、『日本人の勝算』に関する記事もごらんください。
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 アトキンソンさんは、他にも『日本再生は、生産性向上しかない!』、『銀行―不良債権からの脱脚』などの本を出しています。
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 別の作家の本ですが、『国民所得を80万円増やす経済政策──アベノミクスに対する5つの提案 (犀の教室)など、所得を増やすのに参考になる本は色々あります。
 なお社会や脳科学、IT関連の本は変化のスピードが速いので、購入する場合は、対象の本が最新版であることを確認してください。

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