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第1部 本

作文技術

小説作法(キング)、書くことについて(キング)

『小説作法』2001/10/26
スティーヴン・キング (著), Stephen King (原著), 池 央耿 (翻訳)


(感想)
 モダン・ホラーの巨匠のキングさんが、苦闘時代からベストセラー作家となるまでを、自らの体験に照らし合わせて綴った自伝的文章読本です。
 キングさんの創作の秘密が分かるだけでなく、若い頃、極貧生活の中で、雑誌に送った多数の原稿が不採用通知とともに送り返されてきたことにも挫けず書き続け、ついに初めての本が出版されてベストセラー作家になったという半生記も、これから作家をめざす人の励みになると思います。
 でも……ベストセラー作家になってからも交通事故で死にかけるなど、あまりにも壮絶な人生に本当に驚いてしまいました。
 キングさんの作品はたくさん読んでいるのですが、読むたびに、もの凄い描写力に圧倒され、この人はこういう文章を、息をつくみたいに自然に書けるんだろうなと、モーツアルトみたいな生まれながらの大天才なのだろうと思っていたのですが、実は、相当な推敲を経てから私たち読者に届けられていたことを知り、感動を覚えるとともに、なんだかホッとさせられました(汗)。
 特に参考になったのは、「ドアを閉じて書け。ドアを開けて書き直せ」という言葉。初稿は自分一人で自分のために書き、第二稿は余計な言葉を削ったうえで信頼する人に読んでもらって書き直すというアドバイスでした。
 しかもキングさんは、第二稿の手直しには、初稿を書きあげた後、最低でも六週間おいてから着手するそうです。この間は、どんなに読みたくなっても断固として読んではいけないとか。そして「六週間の回復期を経ると、作品の構成や人物造形に覆いがたい欠陥を発見する。」そうです。また同時に、「シンボリズムの増幅と主題の補強」も図るとか。そして「ドアを開け放ち」、奥さんや親しい友人に読んで意見を言ってもらうのだそうです。……なるほど。これ、すごく実践的なアドバイスだと思いました。この本の「補遺 その一 閉じたドア、開いたドア」には、キングさん自身の初稿と、推敲した後の原稿が実例で掲載されています。やっぱり推敲後の文章の方が、ずっとキレが良くなっています。
 さて、意外だったのは、キングさんは構想をあまり重視していないということで、「構想に重きを置かない理由は二つある。第一に、そもそも人の一生が筋書きのないドラマである。あれこれ知恵を巡らせて将来に備え、周到に計画を立てたところで、その通りにいくものではない。第二に、構想を練ることと、作品の流れを自然に任せることはとうてい両立しえない。ここはよくよく念を押しておきたい。作品は自律的に成長するというのが私の基本的な考えである。」のだそうです。個人的には今でも小説を書く上で「構想」は大事だと思っていますが、キングさんの書いているモダン・ホラーは「先が読めない」ことが大きな魅力の一つなので、構想に重きをおかないのも、読者をハラハラさせ続ける展開を自然に描くための手段なのでしょう。
「文章とは血の滲むような一語一語の積み重ねである」
 ……天才作家と評されるキングさんらしくない(?)言葉に、やはりベストセラー作家への道は楽ではないのだなと痛感させられました(汗)。
「作家を志すならば、何を措いても怠ってはならないことが二つある。よく読み、よく書くことである。(中略)読めば何かしら学ぶところがある。概して優れた作品よりも、出来の悪い作品に教えられることが多い。」
「何よりもまず、下手な作品は「してはならないこと」を教えてくれる。」
「翻って、優れた作品は駆け出しの新人に、文体、話術の格調、構成、人物造形、迫真の描写を教えてくれる。」
 ……とにかく参考になることが多い「小説作法」の本でした。しかもそれを、ユーモア交じりの自分の壮絶な半生記から始めてしまっているので、もう冒頭を読んだとたんに目が離せなくなってしまうという、キングさんらしい素晴らしい本です。ぜひ読んでみてください。

 なお、私は単行本で読んだのですが、この本には、『書くことについて (小学館文庫)』という文庫版があり、新たに平明で簡潔な文章で訳した新訳版だそうです。しかも文庫版には、「新たに巻末には著者が2001年から2009年にかけて読んだ本の中からベスト80冊を選んだリストを掲載」してあるそうなので、これから購入される方には、ここで紹介した単行本ではなく文庫版をお勧めします。
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 キングさんの他の本、『ドラゴンの眼』に関する記事もごらんください。
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 別の作家の本ですが、『ミステリーの書き方』、『「感情」から書く脚本術 心を奪って釘づけにする物語の書き方』、『新版・小説を書きたい人の本』、『書きあぐねている人のための小説入門』、『心を操る文章術』、『職業としての小説家』、『秘伝「書く」技術』など、小説や脚本などを書く上で参考になる本は多数あります。

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